「ここかぁ。」

 

へぇと一人の青年がとある学校の門の前までやってきた。

 

「さて。どんな事が起こるんだろうねぇ?」

 

楽しみと、青年は何食わぬ顔で門を通って中に入った。

彼が先ほどまで持っていたカードは懐にしまわれて今は誰の目にも触れる事はない。

これからの未来を予言するカード。

『破壊者』が現れるのを見学しようと学校内へと入っていった。

 

そこは、江古田高等学校で、これからここで一つの事件が起こる。

 

 

 

 

はた迷惑な学校見学者

 

 

 

 

「頼むから、授業を聞いてくれ、黒羽〜。」

いつものように授業中であろうと寝ている快斗に、頼んでまで起きてもらおうと頑張る数学教師。

「ん〜、あと1時間。」

「あのな。1時間も経ったら数学は終わってしまうのだが。そもそも、もうすぐ終わるからな、次の時間も1時間だったら終わっているだろう。」

と、言っている間に、チャイムが鳴る。

「起立!」

号令係が号令をかけ、教師も困り果てて、授業を終わった。

「もう、快斗ったら。」

「うっせぇ。」

幼馴染の青子に怒られても怖くはないと、寝ようと思った矢先だった。

 

ガラッ

 

誰もが注目する中、快斗はどうでもいいと睡眠を貪ろうと思っていたのに。

「や、快斗君。遊びに来ちゃった。」

と、現れた青年。その聞いた事がある声に、まさかと顔を上げた快斗は、相手の顔を確認して引き攣る。

「あ、あんた、な、なんで?!」

周りではひそひそと話をしている。いろいろと面倒だ。

快斗は相手・・・竜の腕を攫んで屋上へと向かう。

遅くなったら後を頼むという感じで、紅子の目を見て、合図をし、教室から出て行く。

その間に竜は危ないなぁとのん気な事をいっていたし、白馬は自分がキッドで最近言われている仲間は彼なのかと言ってきたり煩かったが、全て無視して竜を連れて屋上へと出た。

「何で、あんたがここにいるんだ!」

屋上につき、一泊息を思い切り吸い込んで怒鳴る。

「もう、怒鳴らなくてもわかるって。」

「で、本気で何しに来た?」

動くのなら携帯か、迎えを寄越すと言われている。これがその迎えなら、新一がまた巻き込まれたことにもなるため、一応は聞く。

「ちょっとね。新一君じゃなくて、今回は君が事件に巻き込まれるようだから、変わってるから面白そうだと思って来てみた。」

「はぁ?」

詳しく聞けば、占いで今日は快斗の運勢がいいが、気になる事があるのだと言う。

それは、今日の悪い方向がちょうど学校で、ニュースでもあったとある犯人もこちら側に逃走して行方をくらましていること。

そして、我を忘れて全てを破壊する者が現れるということで、学校でその犯人が暴れるんだろうなと思い、見学がてら来たのだと言う。

「暇なのか、お前。」

「いや。それに、事件ともなれば、それに快斗君の学校となれば、動く人がいるでしょ?」

「新一?!」

「そうそう。だから、ストッパー役に来ました。」

そりゃ、彼がぶちっと切れればそこらの犯罪者より怖いですから。

「だいたいのことはわかった。だが、どうして教室にわざわざ来るんだ?!」

「彼女は元気そうかなって。」

「あいつはいつでも元気だろ?」

「そういう意味じゃないってば。」

その習慣から、竜の気配はあのおちゃらけた青年の者ではなく、冷たく独特な雰囲気を持つそれへと変わった。

だから、知らず知らずのうちに、快斗もキッドのものへと変わる。

「先日の件、忘れたわけじゃないよね?」

「ああ、忘れるわけがない。あの機械野郎の事だろ。」

リオンを狙う組織の幹部。死ぬ事のない人であった者。

後味の悪い接触であり、またあちらから何らかの接触があるだろうから身構えてはいるのだが。

「彼女もこちら側のメンバー。どこで情報が洩れるか分からない。それだけ、この世界は情報にあふれ、そして隠してもどこからか洩れる。」

「つまり、安全確認に来たって訳ですか?」

「まぁ、そんなところだよ。」

そろそろ授業じゃないといわれたが戻る気は起こらない。

だが、竜の言うその事件がこれから起こるというのなら、自分は教室に戻って安全の確保のためにいるべきだと思う。

「後で手助けぐらいするからさ。ま、頑張って。」

他の面々と同じように何がしたいのかわからない竜を、一度だけ振り返ってそのまま教室へと戻った。

「さて。彼等の幸せの邪魔をする不届き者の排除の準備をしようかな。」

すっと携帯を取り出し、紅い目のところへと電話を入れる。

「そろそろだから。そっちは頼むよ。」

一度切り、今度は和也へと電話を入れる。

「あ、やっぱり?わかった。じゃぁ、その件はそっちに頼むよ。あとで処理の手伝いするからさ。」

これも、後でという言葉で切り、懐へとしまう。

「天使は時に悪魔に。天使だからこそ、守る為に堕落するんだよね・・・。」

授業開始のチャイムが鳴り、始まってから数分後。

事件の幕開けを知らせる銃声が学校内に響き渡った。

 

 

 

 

数人の者達によって、意図も簡単に江古田高校は乗っ取られた。

生徒と教師を体育館へと集めて監視しながら、数人の教師と生徒を犯人達は人質に取り、騒ぎを知った警察が来るのを待ち構えていた。

もちろん、人質になったのは快斗と紅子。そして校長と何故ここに混ざっているのかわからない竜。そして、一人の新人教師。

「騒ぐなよ。」

騒いだら撃つという男の手には拳銃が握られており、快斗にとってはお決まりの台詞で面白みもなにもない奴で、はやくどうにかならないかなと、いくら度胸があっても、やはり怖い青子を気遣いながら、竜がどう動くのかとそちらに気を集中させた。

「サツが集まって来ましたぜ?どうします?」

「問題ない。嘘の情報に踊らされて、最後には逃げ切れる。」

どうやら、この後の策を考えているらしいが、いかにも頭のよさそうじゃない男達を見て、どうしようかと快斗は考える。

その時だった。

「先日、ある宝石店に侵入し、金目の品とレジに残されたお金を全て盗んだ強盗。最近多発している窃盗集団。それは、貴方方の事ですよね?」

にっこりと、笑顔で突然言われた言葉に、男達ははっとなって竜を見る。

「てめぇ。」

「あ、やっぱり本当なんだ。へぇ、世間って狭いものだね。」

図星だと言われて、自ら反応を見せることで肯定したことに気付き、さらに怒りという感情が占める男達。

そこで、快斗もなるほどとわかった。わざと挑発して、自分に意識を向け、周りの人質から意識を逸らした際に逃がし、倒すのだろう。

「青子・・・。あの人が気を惹いている今、あの新人と校長連れて外へ行け。そして、警察に伝えろ。いいな?」

「え、快斗は?」

「大丈夫。俺はな。それに、あいつは俺の知り合いで、放っておくわけにはいかないしな。」

「でも。」

「中の様子を伝える必要があることもわかるよな?体育館に皆がいることを忘れるな。」

「うん、わかった。」

小さな声で伝え合い、今だと快斗に言われて青子に行かせる。

ちょうど、竜に手を上げようとして、校長の側から男が離れた時だった。

外へ出ろと、新人と校長に叫び、行かせる。

気付いた男の相手は快斗がする。これぐらいの相手なら、日々のそれで対応は出来る。

「後でな。」

「快斗もね。」

こうして、ここに残ったのは快斗と竜だけになった。

足止めされ、相手が一瞬だけ見せた気迫に恐怖を感じた。

自分達と同じ、それでいてそれ以上に強く、そして冷たいそれ。

すぐに二人とも面倒臭そうな顔とにこにこした顔になったが、あの気配で感じた恐怖は早々拭い去れない。

「お前等、何者だ?」

「何者って、事件に巻き込まれた一般市民。」

かなりうそ臭い回答をする竜に、恐怖も吹っ飛び、嘘をつくなと怒鳴る男。

「え〜、でも事実だし。」

「俺なんて、せっかく気持ちよく寝ようと思ったのに、それを壊されて機嫌の悪いここの学生だよ。」

授業をサボるのだとは言わないが、そう言っているもので。だが、あの動きと気配はただの学生には見えなく、警戒を強める男達。

「とにかく。俺のわかる範囲で事件を起こすなんて、馬鹿だよな。」

何っと飛び掛ろうとした男に、ぷしゅーっと何かのスプレーをかけた。

すると、いとも簡単に男は倒れた。いや、正確にはすぐに眠りに着いたと言うべきか。

「おお、さすがマジシャン。」

何処から出したのかわからないねと、しっかりと縛られた腕の縄を解いた竜が言う。

快斗もだが、竜と共に先ほど縛りなおされたのだが、そんなものは彼等には無いに等しい。

「何しやがったっ?!」

「何って、うるさいから寝てもらおうかと思ってね。」

えへと笑顔で言われても、可愛くもなにもない。ただ、憎たらしく感じるだけ。

しかし、身体は飛び掛ろうとしたのだが動く事はなかった。

突如変化したこの部屋の空気が、男の動きを止めた。

「さて。悪い子はお仕置きだね。」

もう、目が完全に笑っていない竜が背後に立ち、考えたくないものが背中にあたる。

「大人しくしていて下さい。」

竜が持っていたものは、自分達が用意したものとはまったく違う拳銃であった。

つまり、彼は自分達と同じような者。だが、それ以上に危険な者なのだと彼にはわかった。

「以後、自分の過ちに気付き、なおすことだね。」

竜の言葉が言い終わると同時に、快斗によって眠らされた。

「さっすが、現役怪盗だね。」

どさっと、倒れた男にしっかりと縄で縛るあたりを褒める。

「で、どうしてあんたはそんなもんを持ってるんだ?」

「さぁ?」

その時にちょうど、竜の携帯の呼び出し音が鳴った。

「はい。あ、和也?ああ、こっちは今片付いたよ。そっちも?じゃぁ、体育館の近くに置いておいてくれる?」

それだけで切られた電話。いったい何のことなのかわからない。

水面下で彼等は動いているようなのだが・・・。

「あ、新一君はしっかりと紅目に捕獲しておいてもらったし、彼等が盗んだ品に関しては和也に頼んでおいたから大丈夫だよ。」

ご丁寧に説明してくれた。

「だから、帰りは蓮の所に行くよ?あの店に連れて行ってもらったから。」

まぁ、あそこなら守りがいっぱいいるだろうから、新一自身も抜け出そうなんて考えないだろうし安全だろうが。

全て手の内で踊らされているかと思うと面白くなかった。

 

 

 

 

 

その後、青子の情報と、出てきた快斗による話で事件はあっという間に片付いた。

犯人全員逮捕で、何故か放置されていた盗まれた品も押収し、何がどうなっているのかわからないまま、犯人も警察も学校から立ち去った。

「大丈夫だったのか?」

「新一〜、会いたかったよ〜。」

店に着いたら大丈夫かと心配してくれていた新一がいて、つい抱きついてしまったが、新一は別に突き放そうとはしなかったので、ここぞとばかり抱きついたままでいた。

「それにしても、本当によくあたりますね。竜君の占いは。」

「でしょ?」

という会話から、今回の指示を裏で出していた本当の黒幕は蓮なのだとわかる。

いくら竜であっても、和也やとくに麻都の直通の連絡先はわからないだろうから。

後で聞くと、行方がわかりずらい麻都には優作持ちで携帯を預けているらしい。

それには必要最低限の連絡先、つまりメンバーと優作の連絡先。最近ではリオンとクラウドの連絡先も入っているだけのそれを渡しているらしい。

「でも、どうして俺は行ったらいけないんですか?」

「そりゃぁ。どこでどんな奴に会うか分からないからだよ。」

特に、先日のあの機械と化した男に関しては、一番に狙われるのは世間一般に情報としてある工藤新一という存在である。

「私達は正体不明が一種の守りともなりますが、新一君は違いますから。裏でもかなり知られている探偵だからね。」

守る者も水面下で動いていても大変なんだと言う。

「何より、事件を引き寄せるように遭遇するその体質がまた困ったもので。」

「好きで遭遇するわけじゃない。」

「でも、通常の人より比率は高いと思いますよ?」

「・・・確かに。」

でもと言うが、はいはいとクッキーを口に放り込まれた。

それ以上蓮と話すのは快斗としてはせっかく近くにいても相手にしてもらえていなくて独占欲というものが身体を動かし、口を塞いだのだった。

「何しやがる。」

噛み砕いて飲み込み、背後で張り付いたままの快斗を睨む。

「やっと見てくれた〜。」

と、どうやら頭の螺子をどこかにいくつか置いてきてしまったのか馬鹿丸出しの様子に、怒る気も失せる新一。

何より、大きな犬に懐かれたような感覚で、どうも邪険にできたいんというか。

そして、最近賑やかな彼が側にいることで、一人でいる事が少なくなっていることもあって、時折感じさせられる孤独感はなく、心地よいものだった。

気付かないうちに、少しずつ家に帰そう、追い出そうという考えはなくなっていく。

「ねぇ、今晩何がいい?」

「・・・何でもいい。」

「わかった。今日も美味しいって言わせる晩御飯を作ってみせる!」

きっと、リオン達や哀やたまにくるここのメンバーの分も考えて多めに作る快斗。

そういえば、いつも聞かれても、『ああ』という返答しかしていなかった事を思い出し、美味しいので今日はそういってやろうかと考える新一だった。

丁度、ラジオでは昼間の事件の事を言っており、犯人が恐ろしい者があそこにはいたのだと言い、彼こそ捕まえるべきだと言っていた事で興奮しきって再度慎重に調査すると言っていた。

でも、どんなに調査しても、竜の存在が知られるわけがないが。

 

 

 

 

 

「あら。お帰り。」

帰ってきてみると、リオンとクラウドがテーブルの上に夕食を並べているところだった。

どうやら、事件を知って帰ってくるのが遅いだろうなと思い、簡単に人数分が出来るシチューを作っておいてくれたようだ。

「うまそう。」

その新一の言葉に、こいつらも敵だと即座に判断する快斗だった。

何より、そのシチューがおいしかったから、余計に対抗心に燃える快斗。

しかも、目の前でいちゃつく二人に精神的ダメージも大きい。

「新一・・・。」

「何だよ。」

本を読んでいても情けなくめそめそしながらまとわり着いてくる快斗。

さすがに鬱陶しく思うのだが、キッドとは違う情けないそれが少し可愛く思え、やっぱり邪険に出来ずに、甘くなる新一だった。

 








     あとがき

 水面下で動く人達。やはり影でひっそりと。
 少しずつ側にいることを許して甘くなっていく新一。
 日常に近いようなお話。
 これから、また少し動くかも・・・。



   戻る