「父さん・・・母さん・・・?いないの?」


何も知らない子供だった頃。いなくなった両親を探した。

だけど、すぐに答えは見つかった。よくしてくれていた、父の友人の一人が教えてくれたのだ。


「君のお父さんとお母さんはね、亡くなられたんだ。」

「おじさん・・・。」

「嘘・・・。」


当時の快斗と奇斗は、友人の優作の事をよく知っていた。

違う、何かの間違いでしょと言っても、首を横に振って言う彼の顔を見て、それが真実なんだと思い知らされた。







     独りぼっち







その後、快斗は黒羽家を継ぎ、奇斗は優作に連れられて、月華楼へと来た。

二人が上に立つことはできない。だが、別の場所でなら、上に立つ事が出来る。

二人は賢い子供だ。この場所で、互いを支えて頑張りなさいと、優作は奇斗に与えた新しい家。

それは、何代も続く華売り屋。つまり、女・・・今では男も身体を売って稼ぐ遊女屋のこと。

女の事を華と呼ぶことがあるために、世間では華売り屋とも呼ばれるその場所のトップという地位に着いた奇斗。



その時、彼は名前を捨てて、キッドと名乗るようになった。奇斗という名前では、黒羽家の者だとわかってしまうからだ。

黒羽家に主はただ一人、快斗だ。なら、自分は自分のやることをすれば良い。

キッドとして、両親を殺した者達を探して必ず復讐すると誓って。

名前がわからないように隠してしまえば動きやすい。



一番大きな遊郭を支配する月華楼の主になったのだ。しっかりしなければ周りに潰される。

だから、必死にキッドは覚えた。

そんなキッドはまず、優作を通して哀と出会った。

見た目の年齢とは釣り合わないように冷たい目をした賢い子供。

自分も同じようなものだったのであまり気にしていなかったが、もしかしたら同じだったからわかったのかもしれない。

お互いに、独りなんだということに。










同時刻。

周りに文句を言われないように、家を乗っ取られないように守る為、快斗も必死になっていた。

もちろん、工藤家の補佐があった。

しかし、キッド同様に一ヶ月もすれば仕事は完璧だった。

まだ、10の子供であったが。



そして、キッドと共に、密かに計画を進めるのだった。

両親を殺した何者かを探す為。両親は決して自殺する人じゃない。事故に巻き込まれるようなこともその日にはなかった。

ただ、遺体はなく、死んだという報告。



優作に詳しく聞けば、遠出をしていた際に事故にあい、遺体の回収は出来ない状態だったとのこと。

確かにその日は遠出するとは聞いていた。

だが、生きている可能性だってあるのに、皆が諦める。

それは、二人がその現場に向かってみてわかった。

あまりひも酷い有様で、生きていれば奇跡だ。

信じたくても、何も出てこない。



だから、二人は次第に諦め、原因となったものを探した。










それから数年が経った。

昼の姿とは違う、夜の姿を持つようになっていた。

昼は優秀な黒羽家の主人と冷酷な月華楼の主。

キッドという名前から、次第に疑われるようになった。自分達が疑われている事を知っても、やめることはなかった。

調べれば調べるほど、闇で隠れて行われる悪事を知った。

その中で、身を守る為に手にかけたこともあった。もう、後戻りは出来ない。



疑われた日。最初はキッドだけだったから、快斗が夜の闇を飛んだ。

だが、何度かあるうちに、顔が似ているということから、二人同時に見張るということになった。

別に不可能ではないが、何かあったときに黒羽家・・・つまり両親の名を汚される。そして、自分達の支えになってくれた、父をも支える工藤家の当主もまた、何か言われる。

だから、絶対にミスは許されない。そんな時だった。



協力してくれていた哀が言った。

自分達に似ていて、『キッド』を演じられる人を知っていると。

その言葉に、彼しかいないかもしれないわねと、紅子もいった。

哀以外はあった事がない相手。

本当に大丈夫なのかと思った。



とにかく、快斗は家に帰り、哀に任せることにした。

だから、快斗は会う事はなかった。あの日まで。



そして、キッドは出会った。

蒼い瞳の美しき天使に。










会った瞬間、男だとは思えないほど綺麗で、女かと思った。

哀が言うには、彼があの優作の自慢の一人息子らしい。

あの男とは似ないほど、男らしさがまったくない、綺麗な少年だった。

聞けば、多くの妖精や聖霊と契約を交わして力を持っているらしく、その力を持ってすれば、本物と同じように完璧に演じる事が出来るということ。



だけど、心配だったので、哀では動きずらいので、紅子に頼んだ。彼女なら、お得意の魔術で簡単に空は飛べるし、側にいなくても『会話』することが出来るからだ。

快斗は家で大人しく刑事達に囲まれて過ごし、キッドも部屋に入られるのは嫌だったので広間に下りてきて、哀と共に時間を過ごした。



そして、現れた第三のキッド。

さすがにこれで終わりだと思っていた幹部の警察関係者達は驚き、慌ててキッドを確認し、無線で快斗も確認し、二人が白だとわかって落胆して帰って行った。

なんだか、最初は結構興味を持っているだけだった紅子は、帰ってきてからは新一と親しくなっていて、少し嫉妬する。

だけど、まだ恋を知らなかったから、気のせいだと思い込んで、新一を迎えた。



そして、新一には不本意ながら、魔術師の一員となる羽目となった。










その頃の快斗は、寺井と部屋にいた。



「まったく。今回は良かったけど。堅苦しかったよ。」

「しかし、ばれなくてよろしゅうございましたね。」

「そう、そこだよ。俺もびっくり。」



哀ちゃん誰を代役に連れてきたんだろと考える快斗に、寺井は知っていたから答えた。



「工藤家のご子息の新一様ですよ。」

「ご子息?あの人の?新一?ってことは、男?」

「そうでございます。」



そっか、男か。その時の感想はそんなもの。

だって、会わなかったから、ただキッドを演じる事が出来る相手というだけで、一度だけどんな奴か見て見たいと思うだけで、あまり積極的に会いたいとは思わなかったのだ。

それが今ではとても後悔しているのだが。



「明日の予定は?」

「ございませんが?」

「じゃぁ、その協力者に挨拶にいってくるよ。」

「しかし、すぐに家に帰られるかと思いますが?」

「そっか。」



よくよく考えると、かなり息子を可愛がっていたあの男だ。

長い間キッドのもとにいることをよしとしないだろう。

それに、散々父親に甘やかされているのなら、結構わがままだろうし、キッドにも手に負えないかもしれない。

だから、さっさと家に帰しているかもしれない。



「なら、会えないかなぁ。」



その時は本当にそう思った。

あれだけ父親が甘やかしていたのだから。

だが、反対にそれで少し父親に反抗していたのだが、会った事がない快斗には知るよしもない。










キッドに変な奴だなという認識を持った新一は、哀と簡単に話をして、家に帰るといった。

キッドは泊まっていけばよいのにというが、どうもこの男の目は苦手だったので、新一は迷惑かけたくないからなと帰るのだった。



帰っていく新一の背中を見て、寂しそうな顔をするキッド。

横で見ていた哀が、惚れたのと唐突に聞く。



「え?」

「何よ。」

「あの、今何て?」

「貴方の耳は飾りかしら?」

「いえ・・・。」



冷酷なこの男も、それ以上に冷酷なこの女には適わないのであった。



「だから、貴方は彼の事が好きになったの?」



そう言われて、すっともやもやしたものが消えたような気がした。

そして、これが恋というものなのだとわかった。



「・・・鈍い男だったのね。」

「あの・・・。」

「まぁ、いいわ。・・・彼を傷つけるのなら容赦しないけれど。」



哀だって、この男に感情というものが欠けていることに気付いている。

自分にも欠けていたからだ。

そして、優作と、新一によって変わったのだ。

新一はとくに、それだけの影響力を持っているし、人を変える力があるのだ。

人を良く見て、その人が望む言葉をくれるから、そして導いてくれるから、惹かれてしまう。



「あの男にも春が来たということかしらね。」



この先、どんな事があるかなんて知らない。

彼が傷つく姿を見るたび、無茶をさせるたびに、これから怒りを向けるが、結局仲が良くなった二人を引き離そうとはしない。

だが、それはまだ今は知らないこと。



「独りぼっちよ。私も、彼も、そしてあっちの彼も。」



それを救うのがきっと彼だ。



「寺井・・・。」

「はい、何でしょう。」

「工藤新一。・・・わかっていることだけでいいから、教えてくれませんか?」



キッドが始めて興味を見せた人。

いつも独りでいることを好んでいたキッドが変わり始めている。

寺井はわかりましたと、話した。

自分の知る限りのこと。



そして、それぞれの者達を巻き込む運命の時が来る。







     あとがき

 とある場所で載せていた品の再録です。
 だって、増えたら下から消す予定だったもので・・・。
 そのまま抹消しても良かったのですが、このシリーズは結構楽しんでもらえている(?)ようなので、再録することにしました。
 これだけもあれなので、順番に再録していこうかなと思ってます。

 さて、今回微妙に快斗を含めて、あの両親ズの死を知らされて、一人は家を継ぎ、一人は月華楼へ行き、新一と初のご対面編(?)
 そして、過去なのでいるよ、寺井さん二人。
 名前つけてないんだな、これが。同じ名前は駄目だから一人決めないといけないのだけど。
 まぁ、当分はないだろう。うんうん。
 微妙に紅子編が間に入っている感じです。



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