不思議な波動を感じる者 「面白そうね・・・。」 久々に、興味を覚える者 自分が興味を持つのは珍しい事で、自分自身でも驚いているけれど 「・・・しばらくは、退屈しないかもね・・・。」 水晶を片付け、出かける為に羽織っていたマントをかける そして、部屋の扉を開けて外に出る 向かう先には彼がいる場所 そして、自分がよく知る人物のいる場所
紅い華が零す涙
「・・・で、何の用で来たのですか?」 「いいじゃない。何か、私が来てはいけない事があるのかしら?」 「そうですね。出来れば合わせたくは無い人が来ますね。」 「そうなの。実は私、その人に会いに来たのよ。」 まるで、化かしあいのように、一向に笑みを見せたまま、周りから見れば見詰め合って、本人達にしてみればにらみ合っている状態であった。 「何、馬鹿をやっているの。紅子まで、その人の馬鹿の相手をしていたら、移るわよ。」 「そうね。やめておくわ。」 「失礼ですね、女史殿。」 はやくいらっしゃいと、後から部屋に入ってきた人物に、やっぱり興味を覚える紅子。 彼が、今夜の警察の疑いを晴らすために呼ばれ、代わりに怪盗を演じる者。 思っていた通り、興味がわく。それも、とっておきの麗人で、何かを隠しているように見える。 「初めまして。光の魔人さん。」 手を差し出せば、はじめましてと手を差し出してくれた。 隣では、また意味不明な事を言ってとぶつぶつ文句をいい、彼を取られているのが気に入らないらしく、不機嫌な男の姿があった。 「で、手順は彼に言ってあるわ。それに、彼はマジックは使えなくても、本物の魔法なら使えるから、カバーは問題ないわ。ただ、貴方と彼が大人しくしていてくれたら何も問題はないわ。」 「そうね。もしものために、私がついているもの。」 いつの間にか話が進み、いいように取られている気がしていらいらするキッド。 せっかく同じである快斗なら興味を見せるとわかりきっているので警戒してきたというのに、ある意味厄介な人種に知られてしまったと思う。 横では、勝ち誇ったような笑みで、ちらりと見てくるから腹がたつ。 だが、まだ彼とは何もないのだから、独占する事は出来ないのはわかっている。 いつか、必ず手に入れて見せると考えながら、今回の計画の話を聞いていた。
月華楼と黒羽邸に、多くの警備の者がいる。 そして、それぞれの主は一階の部屋で警察と共に一夜を過ごす。 さらに、今回ある泥棒のターゲットであるモノがある場所にも警察が殺到していた。見物客も多く、普段は静かな夜が、かなり賑やかな夜になっていた。 そんな中、疑いのある二人を見張る事になったのだ。 顔が同じで、能力も同じ。そして、かなりの実力の持ち主であるキッドと快斗。 だが、キッドが出たぞーという声があがり、警察は慌て始める。 目の前にはしっかりと疑いのある二人はいる。 なら、一体誰なのだろうか。 代役として、誰かを立てたのかと思ったが、報告で、いつものように得体の知れない魔法を使ってターゲットを持ち去ったり、警備を潜り抜けて逃げ、現場から跡形もなく姿を消したのだという。 これで、二人への疑いは、完全に白と断定され、昔から黒羽邸の快斗を知っているキッド担当の刑事にとっては、良かったとほっと胸をなでおろすのだった。 「上手く言ったわね。」 「面白いぐらいにな。・・・完全に出ないと鷹をくくってたんだろう。」 特に、白鳥あたりが。中森に関しては、疑いたくはない人物への疑いで、今日は捕まえる事よりも、違うと確かめたかったのだろうから、警備にはあまり無関心だった。 「小泉さんも、ありがとう。」 魔女らしく箒で夜空を飛ぶ紅子。その箒に乗せてもらう、すでに怪盗の目立つ白い服ではなく、黒い着物に着替えた新一。 あまり、会話もなく月華楼の最上階へと向かう。 いくら警備の目があっても、紅子の魔術と、最上階から入れば、気付かれる事なんてないから。 そんな中、気になるのが紅子の表情。 あの得体の知れない月華楼の主同様に、そして自分と同じように、感情を押し殺している顔。 明らかに造っている顔を見ても、新一には内の顔がしっかりを見えるのだ。 「どうして、そんなに泣きそうなのに、泣かないのですか?」 「・・・わかったの・・・?」 キッドにすら気付かれなかったというのに。今日会ったばかりの彼にばれるなんてねと、苦笑する紅子。 その紅子の視線の先には、怪我をして、無理やり彼女が応急処置で白いハンカチを巻いたところだった。 「・・・別に、これくらい・・・。」 「・・・そういうわけにはいかないわよ。」 はじめてといっていいほど、自分が興味を持ち、側にいたいと思った人に怪我をさせてしまった。 自分があの時気がついていれば、彼は怪我をすることなんてなかったのに。 本来ならば、その怪我は自分が受けるはずの怪我。 泣いて許しを請うなんて事はしないけれど、何も言わず怪我のなかった自分に良かったと笑みを見せた彼を見て、泣きそうになった。 だけど、泣けばこの力は失われる。 だから、泣かないようにこらえていたのだ。 「泣けないのは、力を失うから?」 「・・・っ?!・・・・・・そう、よ・・・。それが、魔女の持つこの強い力に関するタブー。」 知られていた事には驚いたが、よくよく考えてみれば、彼もまた自分とは似ているところがあるので、その力によって知ったのだろう。 「俺も・・・俺のこの力も、泣けば力が弱まるんだ。契約だから、すぐに戻るけれど。・・・感情に左右されて発動する力。」 だから、とても厄介なのだと言う。 必要な時に、使えない事もあるし、倒れて足手まといになる事だってある。 だから、必要としてくれるのなら、その人の期待に応えようと思うのだと言うのだ。 「いいじゃない。今回は、私も彼等も、皆貴方によって助けられたのだから。」 「そうかな・・・。」 キッドは何を考えているかわからない新一にとっては、まだわからないかもしれない。 紅子には、キッドが何を考えているかわかるからこそ、そして新一を守りたいと思うからこそ、いろいろと思う事もある。 「でも、本当に泣きたいときは、泣いた方がいいよ。我慢してまで、力を維持する必要はないと思うよ?」 「・・・。」 力がなくても、紅子は紅子だから。 誰も、のけ者になんてしない。力ではなく、本質を気に入られているのだろうから。 なんだかんだ言っても、キッドは紅子の事を気にかけている。彼女もまた、哀も紅子の事を気に入っている。 「だから、無理はしない方がいいよ。哀にも同じ事を言ったけど。」 無理をしない方がいい。 初めて言われた言葉。それが、胸にしみて、本当に涙が流れそうだった。 だけど、彼女にもプライドがあるし、この先この力がまだ必要だろうから、泣く事なんて出来ない。 「ありがとう。」 夜は更ける。 迎えてくれるのは、哀と、温かいお茶。 そして、文句をいいながらも、警察が帰ったとずしりと座り込むキッド。
紅い華は泣きたくても涙を流す事を禁じられた だけど、いつでも涙を流してもいいと、蒼い天使に許された だから涙が零れそうになったけれど、それは心の中だけで いつかのために、まだ力を失う事は出来ないから
|