もぞもぞ

 

新一が二人の腕の中で動く

そして、右側にいる快斗の胸の中に顔を疼くめて、すやすやと安らかな寝息をたてて眠る

 

そこへ

 

「今すぐ起きなさい。緊急事態よ。」

 

何事かと、キッドは身体を起こして起こした相手、志保の方を見る

相変わらず、朝の弱い新一はまだ寝ているので、快斗は寝かせたまま、顔をこちらに向ける

 

「また、面倒なことになったわ。」

 

志保に伝えられたのは、警察に送られたファックスの内容だった

 

『工藤新一と怪盗KIDを我コレクションに。』

 

 

 

 

 変わり者からの招待状

 

 

 

 

まだ眠たそうにしている新一を腕の中に閉じ込めながら、快斗とキッドは志保の話を聞く。

昨晩、工藤新一と怪盗キッドを手に入れると予告したのは、どうやら裏でいろいろとコレクションの為に美術品を盗む得体の知れない奴からだった。

そもそも、盗むものが事態が、高価な美術品から、川原にあるような石や公園に咲く桜の花一輪など。

とにかく何でも盗んでいくのだ。それも、毎回近くの警察へ予告を入れて。

その予告をいかれた招待状ということで、誰かが三月兎と言うようになったが、最終的に変わり者ということで落ち着いた。

狙ったものは誰にも気付かれることなく盗んでいくので、ある意味困るが、石や花一輪でまで呼び出されるのもある意味迷惑であった。

それがどうした。今回はなんと、警察がお世話になっているある意味アイドル化しつつある、二課の警部にも認められたあの名探偵とその二課の警部が長年追い続けている因縁のライバルともいうべき怪盗をほしがった。

志保ももしもということで耳に入れさせようとやって来たのだった。

どうせ、もうすぐ警察はここへとやってくるだろうから。

「嫌なものですね。私達の大事な新一に手を出そうだなんて。」

「後悔させてあげないとね。」

「貴方達も対象になっているのだけど?」

「それは問題ありません。捕まるつもりなど、毛頭ございません。」

「あ、そう。でも、くれぐれも注意して頂戴。」

「わかってるって。俺はともかく、新一に手を出す奴には容赦しないし。」

話も終わり、とりあえず、朝食を取る事にした四人。

まだ眠そうにしている新一の世話をしながら目の前でいちゃついてくれる二人を見ながら、冷たい目で見る志保。

この三人の邪魔を出来る人なんているのかしらと思いながら。

 

 

 

 

さて。とうとうやってきた、予告日。丁度怪盗の仕事の日でもあって、少し不安げな新一がキッドを見送る。

「大丈夫です。心配しないで下さい。・・・快斗、新一のことは、頼みますよ。」

「わかってるって。お前もドジするなよ。新一泣かしたら承知しないから。」

「それぐらい承知してますよ。」

ではと、白い衣をはためかせて夜空を飛んでいった白い怪盗。

「大丈夫かな。」

「大丈夫だって。もしもの時は、俺も行くから。」

やっぱり、なんだかんだいっても、同じであるキッドのことは心配である快斗だった。

何より、新一が悲しむ顔が見たくないというのが大きいが。

「とりあえず、これの片付けしちゃおうかな。」

夕食の食器は、まだ流しにある。

「俺も手伝う。」

「ありがと。じゃぁ、洗った奴拭いてくれる?」

「おう。」

ということで、こちらでは少しキッドのことは忘れて、仲良く片づけをするのでした。

そこへ、心配していた志保が入ってきた。

「貴方達。」

「あ、志保ちゃん。いらっしゃい。もう夕食済んじゃったけど?」

「夕食は食べたから結構よ。」

「どうしたんだ?あ、本か?」

「違うわ。」

はぁと、ため息がでるというか呆れかえる志保。

どうしたんだと目を丸くして志保を見る二人に、さらにため息が出る。

「貴方達、今夜狙われているはずなのだけど?何かしら。その緩んだ空気は。」

「あ、片づけしてたの〜。」

「そういや、そんなこともあったな。」

すでに新一の頭の中から消えていたらしい。

「それで、もう一人の白い彼は仕事中かしら?」

「そうだけど?」

「なら、気にしなくていいのかしら?あちらから先に行ってこちらに来る可能性だってあるのだから。」

家の前に警察が張り込んでいて少し迷惑だけどねといわれて、やっぱりいるんだと思う二人。

やっぱり、緊張感が少しない?

 

 

 

 

そんな彼等が少しキッドの心配をし出した頃。

キッドは獲物を盗み、警察を翻弄させて逃走していた。

「今回も簡単でしたね。」

それで、予告した方はどこにいるんでしょうねとのんびりと屋上に降り立った時だった。

ぴしりと突如金縛りに会うのだった。

力を持つキッドでさえ、振り払う事ができない強力なもの。

辛うじて首を動かして、背後にいるであろう人物を見ようとした。

それは、数日前に会った銀狐の二人が持つ物と、同じような狐の仮面をした何者かだった。

「こんばんは、怪盗キッド。」

すっと、手を動かして、まるで操り人形の糸を操るように動かせば、キッドの身体が勝手に動かされる。

そして、正面から相手を見る事が出来た。

自分より少し身長が高い、どうやら男のようだ。

「さて。怪盗は手に入ったし、次は探偵君だね。やっぱり怪盗と探偵はセットじゃないとね。」

なんだか、いろんな意味でわけのわからない奴だとキッドは思う。

だが、思うだけで殴ることも逃げる事もできなかった。

完全に、身体の自由が奪われ、自分ではどうする事もできない状況だったのだ。

「大人しく、ついてきてね。」

目立つからと、服は勝手に動く手によって着替えさせられて、しっかりと素顔も見られた。

だが、相手は素性をしっかりと知っているようだった。

「行くよ、快斗君。」

本名で呼ぶから、よけいに殴り飛ばしたい気がしたが、やっぱり身体は動くことはなかった。

「なんだか、悔しそうな顔だね。やっぱり、これぐらい、切り抜けられると思っていた?特殊能力持ちの君なら。」

知っててびっくり?とわざと聞いてくるのがさらにむかつくのですがと、内心で文句をいいたくる。

「とにかく、二人はもらうつもりだから、逃がさないけどね。」

この男の手で踊るように身体を動かされているのが苦痛でしょうがないが、今はどうにもならない。

ただ、新一に危害が及ばないかどうかだけが心配である。

こうして、とにかく真っ直ぐ工藤邸に向かっていた。そして、どうやって逃げようかと考えたため、いつの間にか門の前に自分は立っていた。

「さて。呼びましょうか。」

チャイムを鳴らす。やっぱり、変な人だとキッドは思う。わざわざチャイムを鳴らして訪問する人がいるだろうか。常識では必要だが、こいつは自分と新一を連れ去ろうとしている奴なのだ。

「はーい。」

「キッドは今預かってる。今すぐ外に出て来てくれないかい、探偵君。」

ソレを聞いて、向こうで息を呑むのがわかった。

そして、すぐに玄関の扉が開けられた。

「キッドっ!」

慌てて出てきた新一。快斗も背後から追って来るが、新一の方がとてもはやい。

「こんばんは。探偵君。出来れば、大人しく着いてきてもらえませんか?」

そこに立っていたのは、着替えて快斗と同じように素顔を見せるキッドと新一が良く知る狐の面を被った男だった。

「お前、まさか・・・。」

「あれ?探偵君は知ってるの?それはうれしいな。なら、大人しく着いてきて。」

と、新一にもキッドと同じものをかけた。

だが、新一は一度目をつぶって見開き、反対に男の自由を奪い返したのだった。

「こんな事、出来ればしたくないのですがね。・・・五代目繰り狐。」

「・・・失態でしたね。まさか、探偵君にこんな力があるとは知りませんでしたよ。」

ちなみに、快斗とキッドも新一の突然変異に驚いていた。

どういうことか、まったく意味がわからない。

だけど、キッドの身体の自由が戻り、男の自由がなくなったことから、新一の力が上回っているのだとわかった。

そこへ第三者が現れた。

「こんなところで力が溢れていると思ったら。また、貴方ですか。玖城祇弥宵。」

ふわりと舞い降りたのは白い髪の同じようで少し違う狐の仮面を被った小柄な青年だった。

それはもちろん、四代目銀狐、璃狐だった。

銀狐とは、特殊な力を持ち、裏で様々な仕事をこなすある一族の代表のこと。

繰り狐とは、言葉の通り操る力をもち、それによって盗みを働く一族の代表のこと。

どちらも代々続いてきたある意味有所ある屋敷に住む一族の末裔である。

元は同じでありながら、別れ、とくに初代がいがみ合っていてそれ以降交流はまったくない一族同士である。

だが、力を持つ者同士として、相手のことを察知することは怠らなかった。

「それで。何の騒ぎですか。」

「なんのって、そこの探偵君に捕まった。」

「あたり前でしょう。貴方なんかに彼を捕まえるということ事態無理なんですから。」

しっかりと、例の予告は知っているようだった。

「うーん。とりあえず、ほしかったけど探偵君は無理そうだし、セットじゃないと意味ないし、何より今はどうしてか三人だし。今日は引く事にするよ。」

その言葉を聞いて、新一はそれを解いた。

「じゃあね。またいつかどこかで会おうね。」

と、なんだか最後まであののりで去って行った。

「で、大丈夫なのか、キッド。」

「ええ。」

「何もされなかったか?」

「ええ。私より心配なのは新一ですよ。」

「それにしても、どういうこと?とくにあの力。」

「あ、それは・・・。」

黙っていたつもりはないし言う機会がなかったのでこうなっただけだが、彼等からすれば隠していたということになる。

「それはこっちが話すから、とりあえず風邪を引いたら困るから、新一君を中に入れてくれない?」

「それもそうですね。」

「新一、入ろ。」

「あ、ああ。」

ということで、とりあえず中に入ることにしたのだった。

 

 

 

 

いつの間にか騒ぎを聞きつけてかけつけた志保がここにいた。

「話をすると簡単。彼は本来、俺と同じような力を持っていた。だけど、幼い彼には強すぎる力で、一時の間、祖父が封じたんだ。」

「封じた?」

「記憶も一緒だったから、覚えていなかったが正解。二人と一緒にいるようになって、自然と溢れた力の存在を引き出し、思い出したという結果になった。だから、好きで黙っていたわけじゃない。」

「そうなのですか。」

しかし、自分達が知らない以前の新一と会っていたという事実は気にいらなかった。

とことん、心の狭い独占欲丸出しの獣二匹だった。

「そして、あの日に久しぶりに再会したってわけ。力が戻っていたし、今回力が発動していた事もあったから。とくにあの予告がさらに気になってね。今晩は来てみたってわけ。」

わかったと言われて、うなずくしかない。

「それにしても。貴方までおかしな力を持っていたとはね・・・。」

「志保・・・。」

「ま、私以外は皆あるということで。」

確かにそうかもしれないが、志保は志保でなくてもあるだけの力はあるような気がするが、損なことは口が裂けても言えない。

やっぱり、あとが怖いからである。

「あ、そうそう。今晩はこれ以上ここにいたらややこしいから帰るけど。朝は気をつけて。西からやって来るから。」

それだけ言って、窓から狐は出て行った。

「・・・キッドと同類かもな。」

玄関ではなく窓を使用するところとか。

工藤邸には立派な玄関があるというのに、どうして皆玄関を使わないのだろうか。

迷惑な客はしっかりと玄関を利用してくれるのだが。

「・・・それにしても、懲りてなかったのね、彼。」

「そうですね。」

「また新一の安眠妨害ですか。」

「やだな、それ。」

どうやら、璃狐が帰って緊張が解けたのか、眠そうにし始める新一。

目をこすって、寝るーと言われれば、はい寝ましょうと二人は答える。

「明日のことは任せておいて。扉にしっかりと書いておくから。」

「ありがとね、志保ちゃん。」

「どういたしまして。いい加減迷惑だから、こっちも始末したいもの。」

そういって、妖しい笑みを浮かべたまま部屋を出て行った。

「何するつもりでしょうね。」

「ま、俺達には関係ないけどね。」

迷惑な招待状のことも片付いたし、明日の朝来るらしい迷惑なものの始末は任せたし、あとはじっくり休むだけ。

「さて、寝ましょうね。新一。」

「ん〜、・・・っど。」

くてっとキッドに体重をかける新一。すでに一人では立っていられない状態で、キッドが支えている。

「おっと、これ片付けておかないと。」

ちゃんと志保をもてなすためにだした珈琲のカップ。

急いですすいでキッドと新一と快斗の三人は部屋へと戻る。

もちろん、三人とも新一の部屋である。

それなりに広いが三人はいつもせまい。

しかし、温かい方がいい新一にしてみれば、くっついて寝ても今は問題ないため、狭さよりも幸せで満ちていた。

 

 

 

 

 

次の日の朝。

玄関に張られた張り紙を見て、何も知らない西の黒い奴がお隣へとやって来る。

出来ればお隣になど行きたくはなかったが、張り紙には家主はお隣で療養中と書かれていれば、行かざる得ないだろう。

そして、悲鳴をあげることになるのだった。

少し目を覚ましたキッドが聞こえた気がしたなと思ったが、どうでもよいことなので無視することにした。

こうして、新一は邪魔されることなく安眠でき、甘い、そして少し遅い朝食をキッドと快斗とともにとるのであった。

もちろん、お隣でも遅い朝食だったが、目の前では固まった例の人がいたが、気にせずに珈琲を啜っているのだった。

 

 

 

その頃。

「あー、やっぱりちょっともったいないなぁ。」

ほしいと思ったら手に入れたくてしょうがない一族。

また、今度頑張ってみようかなと、密かに弥宵は考えていたらしいが、それが実行されたかどうかは彼等のみが知る。





     あとがき

 少し遅くなりましたが、100000HITおめでとうございます。
 ということで、魔術師第六話を贈呈します。



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