きらびやかな照明の中を、人々の視線を一身に受けた一組のカップルがいた。 一人はびしっときめ、相手の女性をエスコートする紳士的な男。 相手の女性はこれほどにまで美しく、惹かれるような魅力を持つ女性がいたのかと思うほどの美女。 片方は灯矢。女性の方は、営業スマイルを顔に貼り付け、内心ではかなり荒れ狂っている新一。 目撃情報を元に、仕事もあるのでしぶしぶやってきた二人の魔術師の視線に気付く事はなかった。 かなり、荒れ狂うように嫉妬していたのだが・・・。 やはり、相手は鈍かった・・・。
噂の真実を突き止めろ <後編>
勝手に抜け出したり、二人いる事が目撃されたり、さらにはあの力を使用したりして、トラブルになったときに対処するために来ていた哀。 なんだか、知らない間に展開が進んでいる見たいねと、歩いてきた二人組をそれを嫉妬の炎を燃やして睨むように二人組を見ている二人の魔術師を眺めていた。 見ているほうとしては、ある意味馬鹿らしいが、本人達はそれぞれ事情というものがあるのだろう。 哀はあの魔術師よりも、新一と一緒にいる男の持つ独特の気配から、顔をしかめる。 「・・・何事もなければいいのだけれど。」 それでなくても、事件を惹きつける探偵ででもある、今は女装している彼。 女装していて、かなり似合っているのは気のせいではないだろう。 普段の魅力が断然増加して、余計なものまで惹きつけている。 無事に一日は終えられないかもしれないと考えながら、もしもの為にと薬を用意してきて良かったと、こっそり微笑むさまは、まさに恐ろしい魔女のようであった。 そう、あの紅い魔女と同じような、恐ろしい笑み。
「うーかったるい〜。」 「言葉遣いには気をつけてほしいなぁ。本当。」 そんなんで、ばれないかと気にするのは間違っているといえば、うっせぇと返される。 まぁ、人が近づけば気配に敏感な彼はすぐさま演技に入るだろうから心配なはいが。 「それにしても・・・。」 痛いぐらい背後から突き刺さる嫉妬の視線。 まだ、物にしていなかったようだ。 「まったく、あいつ等もあいつ等だなぁ。」 新一の心情はしっかりとお見通しの彼は前々から失恋していたが、完全に無理だなぁと諦めモード。 だが、悪友という名の関係はこれからも続くだろう。 「それにしても、あいつ等。聞いたらさらに嫉妬するんだろうなぁ。」 初恋の相手に対して、それはもうすごいだろうと予想する。 「以外と、楽しいかもな。」 独り言をぶつぶついいながら楽しそうな彼に、じとーっと可笑しな奴を見るような目で見ていると、そんな目で見るのは止めて下さいと言われた。 本当に、つくづく思ってしまう。 自分の周りにはまともな奴はいない。 両親ですら、まともな人物に入っていない。反対に詐欺師だと言うぐらいだ。悪く言えば、化けて出た狸だという所。すでに、人間として扱われていない。 本人が聞けば、かなり悲しむであろう内容。だが、それがまた演技で嘘っぽいので、相手にしないのだろうが。 「ライバルは近いところに、そして高いところに有りってね。」 彼を選ぶつもりなのだ。それぐらいの壁ぐらい覚悟してもらわないと困る。 「さて、そろそろ、仕事にとりかかりますか。」 なんだか、リズムよく語尾にハートマークか音符のマークがくっついているような気がする。 「てことで、もう少し付き合ってな。そうしたら、彼等のところに帰っていいから。」 そういわれて、会場の舞台を見て顔を真っ赤にした。 彼に自分の思いを知られているだけではなく、まさか彼等がここに来ているなんて。 「お前まさか・・・。全部、はかっただろ!」 「そりゃぁ、最初はびっくりだったけどな。わかりやすくって、またそれが可愛かったしねぇ。」 ほら、今はまだ仕事の相棒ですよ、お嬢さんと手を差し出されたら、それに答えるしかなくて。 とりあえず、なんとかして今を乗り切ろうと策をめぐらす新一だった。 このままでは、いいように遊ばれる。まぁ、それは好きだからこそちょっかいをかけたくなるのだが。やはり恋愛には鈍い彼。灯矢の気持ちにこれっぽっちも気づく事は無かった。
そろそろ、仕事で動かなければいけないという時に、舞台が始まった。 それと同時に現れるマジシャン。そして、近づいてきたいかにも胡散臭い老人。わざわざ気配を殺して近づいてきたのだ。 妖しいくて、いかにも胡散臭いと思う新一は間違っていないはずだ。 「あんたが、何でも依頼を受けて実行してくれるという、『グラジオラス』か?」 「そうですが・・・貴方が、私に仕事を依頼してきた、あの人から紹介された『狐』さんですか?」 「いかにも・・・。もう、引退したがな・・・。今は四代目が受け継いでおる。」 なんだか、いかにも妖しい会話をしている二人。 「それで、そちらさんはどちら様じゃろうかな?」 この綺麗で美人な女も仲間なのかと聞けば、ちょっとここへ入るために頼んで来てもらった部外者ですよと答える。 「・・・部外者?」 「大丈夫ですよ。知り合いには違いありませんし、腕のよさは知っていますよ。私が、適わない相手ですし。」 そのあたりは彼もいろいろ知っていますから仕事の邪魔にはなりませんよと言う。 なら、いいと判断したらしい。まぁ、ずっと見ていてそれぐらい彼も手誰らしく、わかるらしい。 「で、依頼の内容だが・・・。」 「あの・・・。」 言おうとしているところにまずいと思ったのだが、さすがに仕事の内容を聞くわけにはいかないだろうと思ったのだ。 「大丈夫。そこまで知られて問題のある内容じゃないし、新一はしゃべらないだろう?それに、『狐』を知っているのなら尚更。」 老人は少し眉をひそめて、名前に引っかかった人物をあげた。 「新一・・・工藤、新一か・・・?」 やはり、多少あの女優の面影がある少女。 「ご名答。探偵という立場ですが、こういった事では問題ありませんよ。彼はただ、犯罪者を追い詰めて捕らえるように導くだけじゃないのですよ。犯人を自殺に追い込ませず、自らの意思で自首するように導く方ですから。」 どうやら、相手も新一なら問題はないらしい。そうかと、何故か口元が緩む。 そして、なんとなく記憶の中で引っ掛かりを覚えて、あっとついに思い出した。 「狐・・・。銀狐の一族・・・。」 「これはこれは。覚えていただけたようですね。光栄ですよ。」 実は、過去に会った事がある人だったのだ。 「それにしても、大きくなられましたね、新一。お父上とは最近会わないが、聞く限りでは元気そうでお互い何より。」 「あれは、元気すぎて困りますが・・・。」 でも、意外なところでだが、自然と顔が綻ぶ。 まだ、幼い頃の事。力が上手く制御できずに、周りに危害が加わらないようにと、旅行先で姿を消した。 ちょうど、人が寄り付きそうにない薄暗い山の中に入ったのだ。 そして、そこに一件の大きなお屋敷があった。 そこが、銀狐と呼ばれる一族が住む屋敷だった。 「そっか。・・・銀・・・狐雅さんは三代目でしたね・・・。もしかして、四代目って璃狐さんですか?」 「その通り。まだまだ未熟だがな。」 新一はその時、銀狐三代目こと社祇狐雅(やしろぎこが)と出会い、力を鎮めてもらったのだ。 そもそも銀狐と呼ばれるのは、彼等が持つ不思議な力が妖の持つ妖力と似ていることと、初代が月夜に靡かせた髪が銀色に輝いていた事と、まるで野生の獣のようなしなやかで素早く、獲物を狙う様から、当時ある地方に現れた時に目撃されて名付けられたのだ。 そこは、狐を神と祀る土地であった為、狐様が現れたと騒いで、それがきっかけだったらしい。 事実、彼等は生まれつき新一同様に怪しい得体の知れない力を持っている。 だが、全員が自然から力を借りるもので、属性も様々だ。 「でも、狐雅さんがいったい何の用でこんな胡散臭い奴に依頼なんかしようと?」 「胡散臭いって・・・ひどいなぁ。」 「ふっ、どうやら、本当に彼には適わぬようだな、『グラジオラス』。」 「そうですよ。彼には大抵の人間は適いませんよ。とくに、闇へと足を踏み入れたものにとっては、まぶしいほどの光を見せて、近づけさせませんし。」 「何だよそれ。」 「知らない?君の側にいる魔女もよく言わない?」 「・・・光の魔人?」 「そう。」 だが、彼等は紅子とは面識がなかったはずだ。 「誰もが強い光に見せられ、罪の重さを自覚させられるのさ。誰かが言っていたのだよ。新一は元から有名だったからね。」 光を持ち、闇を照らす魔人のような蒼い瞳の探偵。 「あまり、目立ち過ぎるなよ・・・。隠すに隠しきれなくなった光は、多くの闇に狙われる。」 そんな力を持っていたら余計になと言われて、どうやら幼心が自然と心の奥底へ追いやって忘れていた力が戻った事に気付かれていたようだった。 「やはり、戻ってしまっていたか・・・。」 「すみません。」 幼心で封じたといっても、やはり手助けをした人間がいて、それは狐雅が施したものだった。 「近くに懐かしい力の気配がし、尚且つ引かれる相手がいたから、思い出してしまったのだろうな。」 ふと、舞台の方を見る狐雅。やっぱり、そんなにわかりやすいかなぁとさらに顔を赤くする。 「まったく、ポーカーフェイスは上手いようだが、気配が乱れておる。」 まだまだ自分も彼も狐雅にとってはひよっこだ。 その後、依頼の内容を話した。だが、これに新一が関わる事はない。 それは、明日ある屋敷に侵入してとあるものを持ってきてほしいというものだったし、今日依頼人に会うために付き合っているだけだし、これ以上は志保達が心配するので帰らなくてはいけない。 「わかりました。明後日には必ずお届けしますよ。」 こうして、商談は成立した。そこへ、一人の女の声が聞こえてきた。 「やっと見つけた。まったく、ちょろちょろどっかいくなよな。しかも、何ナンパしてるんだよ。」 新一を見て、ナンパと言う少女。だが、間違えることはない。これは彼の気配だ。」 「・・・まさか、璃狐・・・?」 少々疑いつつ尋ねてみれば、どうしてばれたんだと、慌てだす相手。 「ふっふっふ。まだまだ修行不足のようだな、璃狐よ。そんなんで四代目とは、先々心配じゃな。」 「え〜?!で、でも〜〜〜。」 と、慌てている璃狐はふと気付いた。 あまりにも美人な彼女。気付いた力の気配で、嘘だろと思う。 「ま、まさか・・・。」 「その通り。お前も女装で付き添いかぁ。大変だな。」 にこっと微笑まれれば、さらに慌てふためく璃狐。どこにも説明は無いが、璃狐は正真正銘男の子である。新一より年上で、屋敷で出会って仲良くしてくれた可愛くていいお兄ちゃんだ。 「可愛い新一君が、まさかこんなに美人になっているとは・・・。さすがというべきかどうか・・・。」 「美人美人って、何だよ。」 生憎、彼は可愛いだったり美人といわれるのが嫌いなので、さすがにぶすっとする。 其の顔がまた可愛いと言われるものだというのに、まったく本人はわかっていなかった。 「とりあえず、大変そうだし頑張れよ。四代目君。」 「あ〜、やっぱりばれてるのね〜。」 そう言いながら、狐雅を連れてまた遊びに来てよねねと言って、会場をあとにする。 しっかりと最後に、『怪盗の二代目君と仲良くしてね〜』といわれ、どうやら彼等全員に新一の思いはばれてしまっていたようだった。 「さすが、何だかんだいっても四代目を継いだだけあるねぇ。そう思わない?」 「・・・全てはお前のせいだ。」 「えー?なんでそうなるんだよ。ま、確かに原因は俺かもしれないけれど、新一にだってあるんだぜ?」 「はぁ?何があるんだよ。」 最後のマジックを舞台でしているマジシャンにちょっとした意地返し。 顔を近づけて耳元で話す。頬にキスしているかのように見える角度で見せびらかしてやる。 「ずっと気を舞台へ向けていて、自分達を見ている目よりもやさしい目で無意識に見ていたら、そら誰だって気付くさ。」 「なっ?!」 無意識なので、本人は自覚なし。 「さて。帰りますか。」 「ああ・・・。」 「ちゃんと、あの二人にお届けしてやるから心配するな。」 「なっ、やめろ!馬鹿いってんじゃねー。家に連れて帰れ、家に!」 こうして、長い夜は幕を閉じようとしていた。
灯矢の宣言通り、家に連れて帰られる事はなく、何故かホテルの一室に置き去りにされていた。 「あの野郎・・・。」 実はまだ、すぐに戻ってくるからといわれて待っているのだ。それに、女装なので下手に出歩けない。 服はすぐ持ってくるからと言っていたが、本当かどうかも妖しい。 「やっぱり、胡散臭い奴じゃねーか。」 酷いといわれたので訂正してやろうかと思ったが、決定してやろうと決める。 そこへ、灯矢にしては珍しく、部屋をノックする者がいた。 「何だよ。入るならいつも通りは入れよ。」 飽きてきた新一はベッドの上で寝転がりながら本を読んでいて、視線を戻さずに言ってやった。 怒こっているんだぞと、無視してやると決め込みつつ。 だが、すぐに扉が相手入いってきた二つの気配に気付く。 そして、その気配が知っているもので、さらに驚いた。 はっと、近づいて止まった気配を見て、やっぱり驚いた。 そこには、間違える事はない、彼等が立っていたのだ。 やはりといっていいのか、怒っているというのか不機嫌丸出しでそこにたっていた。 さすがにそんな二人を見て、起き上がって慌てる新一。 「か、快斗に、キッド。」 あいつは何処いきやがったと、心の中で悪戯をつきながら、事の内容を説明しようとしたら、何故か二人がそれぞれ腕をつかんで、押し倒された。 「え?何?」 まったく状況が分からない新一は首をかしげるばかり。 そんな様子の新一を見て、はぁっと脱力する二人。それがまた、同時で一体何をやらかしたんだろうと思うと同時に、むかついた。なんだか馬鹿にされるというのか何と言うか。 「お願いですから、こんな姿で人前に出ないで下さい。どれだけの醜い視線が貴方に向かっていたとお思いですか?」 「そうだよ。舞台の最中もずっと知らない男と老人と話してさ。ちっとも見てくれない。」 嫉妬して可笑しくなりそうだったよと言う二人。 「だ、だってな。あいつが・・・。」 「一番むかつくのが、あの男がわざわざここまで連れてきた事ですね。」 「へっ?」 そういえば、あいつは二人の元へ送ってやると言っていた。 だが、これは二人をここへ持ってきたの間違いじゃないのだろうか? 「確かに、新一のこんなに綺麗な姿を見れた事には感謝してもいいでしょう。」 「だけど、最初に見たのがあいつっていうのがむかつく〜!」 だんだんと可笑しな話へと移りつつある二人。 「馬鹿いってんじゃねー。あそこが男女で行かなくちゃいけないからいけねーんだ。だいたい、お前等もあそこで仕事だったんなら、あいつだけ入れるように手配してくれたら良かったんだ。」 そうしたら、自分は今頃こんな格好をしなくても良かったのだ。 「そうはいいましても。知る前に新一はでかけてしまいましたし。」 「紅子が知らない男に連れられていったっていうから、もう心配で心配で。」 その件に関しては謝る。だが、過保護な男達にはきっとわからないと思い込んで、視線をそらす。 せっかく言おうと決意したのに、あまりに子供を面倒見る親のような感じで言われては、胸が痛むし、言おうにも言えなくなってしまう。 鈍い彼は、相手からの好意に対してはかなり鈍いのだった。 「ずっと、新一の事が好きだったんです。」 「お願いだから、無防備に笑顔みせたり、笑顔振りまいたりしないで〜。」 「何だよ、お前等・・・。・・・え?」 しつこいし、そろそろどけと言おうと思ったら、何故か言われた言葉。 どういうことだと明らかに目が訴えてくるので、やっぱりわかってない〜と二人は嘆くのだった。 「好き?」 「そう、好きなんです。探偵だろうが、男だろうが、私達は新一という人が好きなんです。」 「同姓同名?」 「違う。だから、今目の前にいる工藤新一が好きなの。何度も言わせないでよ〜。」 分かってもらう為にここまで言わなければいけないなんて、キッドの時に口説いていたのにわかってもらえていなかったようで、ショックを受ける二人。 「お前等・・・というか、元々は一人か。俺のこと好きなのか?」 「そうです。」 「そうだよ。」 新一からの良い返事は別に期待はしてないかった。友達同士だという友好的な面があっても、それが恋であるかは別。 新一が突如顔を赤くして、せっかくあわせてくれていた視線を、再び違う方向へと向ける。 「・・・俺も・・・お前等の事が・・・・・・・・・。」 そこまでいえても、なかなか次が言えない。二人も、返事がどうなんだろうとかなりドキドキして聞いていた。 「俺は・・・お前等が・・・好き・・・だ・・・。」 さらに顔を赤くしてまたそれが可愛い。 快斗は新一の手をとって身体を起こし、キッドはお得意の魔法で服を普段のものへと変える。 実は、連れてこられた時にまだ着替えていないからと、渡されていたのだった。 そう、昼間着ていた服。 「あれ?」 状況がいまいち理解できていない新一。 「とにかく、帰ろうか。」 「そうですね。新一から返事いただけましたし。」 かなり頬がゆるんで笑顔な二人。ポーカーフェイスはどこかに落としてきたようだ。 ではっと、キッドが使う正真正銘の魔法。 瞬きの間に、ホテルの玄関へといて、そこには迎えに来てくれた博士の車があった。
さぁ、帰ろう。 家では待ちくたびれた科学者と魔女が待っている。 そして、今日から少し位置が変わった彼等の生活が始まる場所へ。
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