これはまだ、一人の人間が二人に分裂する前のお話。

 

それはある晴れた日の事。

鼻歌を歌いながら、スキップランランといった感じで、かなり妖しい青年が愛しい恋人の家を訪れようとしていました。

 

 

 

 新一と快斗の出会い

 

 

 

「新一〜、会いたかったよ〜。」

と、帰ってくるなり出来ついて押し倒す青年、快斗。

毎日のことでありながら、今回も油断をして簡単に押し倒される青年、新一。

「か、快斗!どきやがれ!重いんだよ!!」

必死に抵抗してどかそうとしても、怒鳴っても、効果はなし。一向に退く気配もなく、挙句の果てに、顔にすりすりとしはじめ、犬に懐かれているような感覚に陥る。

「快斗!まじで、どいてくれっ!」

完全に身動きが取れない新一が頼めば、少し考えて離れてくれた。

「ったく、帰ってくるなりやめろよな。いつもいつも・・・。」

「だぁってぇ〜。いつも一緒にいたいのに、いられないからさ。これでも、我慢しているんだよ?」

「何処か我慢しているんだよ。」

授業中も昼もメールを大量に送ってきておいてよく言う。

そんな彼等だが、意外と仲がよく、一緒にいる事が多かった。

今では、ほぼ快斗は新一の家にいる。いない時間の方がなかなかないぐらいである。

それだというのに、まだ恋人同士ではない二人。誰がどうみてもそう見えるほどラブラブだというのに、そこまでいたっていない。

鈍い新一と、新一に気付いてもらえない快斗だからこそ、このような状態なのだろうが。

もちろん、初対面の時から、新一は快斗がキッドだと見破っている。だから、その点での問題は今のところない。

しかし、一向に恋人同士になれない快斗は最近、いろいろ考えているようであった。

そんな彼等が、日常で交わる事となったのは、ある魔女と化学者に付き合って外を歩いていた時事だった。

 




 




「なんで、紅子に付き合わなきゃなんねーんだよ。」

「白馬君が無理だと言ったからに決まっているでしょ?それに、何より貴方をとりこにする事はまだ諦めていないわよ。」

「馬鹿いってるんじゃねーよ。俺は好きな人がいるの。だから、お断り!」

その好きな人とは誰か。

その答えはもちろん、かの有名な、そして恋愛にかなり鈍い名探偵君である。

そんな叫びながらの会話をして道を歩いていた時、ふと快斗の視界にその愛しい名探偵の姿が見えたのだった。

「あ・・・。」

「・・・へぇ。そう。」

見ていた方向と、紅子も感じ取ったのであろうその強いオーラをまとう人。

「光の魔人なら、確かに叶わないかもしれないわね。」

珍しく、負けを認める紅子に何があったんだと反対に驚いてしまう快斗。紅子は失礼ねといいながら見るが、快斗はそれ以上に内心ぐるぐるといろいろな事が巡っていた。

だからか、気付かなかった。

すぐ目の前にその名探偵が来た事に。

「あ、小泉さん。」

「久しぶりね。」

「お久しぶり、二人とも。」

何故か親しく話をする三人。ふと気付いて三人の顔をそれぞれ見る快斗。

「え、紅子、知ってるの?!」

いろんな意味で驚きだった。自分よりも先に、この女は愛しい名探偵君と出会い、親しくなっていたのだ。

快斗としては先を越された〜というかなり打撃的なショックに襲われていた。

ガーンという、お決まりのような表情を見せている。

そんな彼の姿を見て、何馬鹿やってるんだ、この白いのと言う。

名前をまだ名乗っていないし、まだ制服を着ているために、白いというよりも黒い自分。名前も黒がついている事もあるし。

だが、間違いなく彼は白いといった。つまり、これは快斗の裏を示す言葉だろう。わざわざ名前で呼ばなかったのは、彼なりの配慮なのかもしれない。

何気に、そんなことを考えてうれしく思う快斗。よし、ここはしっかりと自己紹介をしてお近づきに!と意気込むが、敵は多かった。

「工藤君、彼は私のクラスメイトで、貴方も気付いての通り、白い罪人こと、あの怪盗KIDよ。」

「やっぱり、彼がそうなのね。かなりイメージとかけ離れているけれど。」

「面白そうな奴じゃん。」

志保は詐欺ねと言うし、紅子は地でも詐欺のような男よと言うし、新一はあんまりよく知らないが、確か江古田のお祭り男だと言う。

そういえば、幼馴染みの少女とその友人と共に江古田の文化祭に来ていた記憶があり、その時に認識されたのだろうと思う。

なんだか、認識のされ方が酷い物で、さすがに快斗もよよよと、ショックを受けて地面にのの字を書く。

だが、女性二人は馬鹿なのねと言って相手にしてくれないし、新一はというと、この前のKIDと同じだと指差しで言われるし。

だがやはり計算高くて気障でタフなお祭り男。すぐに復活して、新一の手をとって名前を改めて名乗り、マジックで薔薇を出して渡した。

「やっぱり、すごいよな・・・。盗一さんと同じ、暖かい何かをくれるマジックだよな、お前。」

「え?親父知ってるの?」

首をかしげて、いつの事だと記憶を振り返る。

記憶力は昔からよく、客の顔は大抵覚えていたのだ。だが、記憶に該当する人物は思い出せない。

「う〜。」

いつだと、意地になって思い出そうとする快斗へ、何うなってるんだという新一の声に、やっと意識が戻ってきた快斗。

「へ?」

いきなりで、かなり間抜けな返答を返してしまった快斗。側では、志保が本当に詐欺だわと、文句をつらづらと並べているが、聞かないフリをしておく。

「たぶん、知らねーと思うぞ?俺が舞台を見たのは一度きりで、その時はお前と顔を合わせる事はなかったし、その後合ったのは、舞台とは違う別の場所での個人的なショーを見ただけだからな。」

つまり、自分の父親とはそれなりに知り合いで親しく、そして個人的なショーに招待されるほどの仲だったという事だ。

ますます、周りのいろんな人間に遅れをとっているのだと気付き、焦る。

快斗は、一度興味を持ったものや大切なものは絶対に手放すつもりはないし、逃すつもりもないし、何より手に入れるつもりでいるし、手に入れれば強い独占欲や嫉妬で溢れ帰るようなお子様だ。

聞けば聞くほど、面白くないといったところだ。

「でも、その話は初耳よね。」

「そうか?」

滅多に自分から自分のことを話さない新一。聞かれれば話すのだろうが。

「よかったら、その時の話を聞かせてくれないかしら?」

その瞬間、新一の顔が赤くなり、駄目となにやらうろたえながら逃げ腰になっていた。

そうなれば、気になってしまうのがこの三人である。

今まさに、追い詰められる犯人のような心境である。

「え、あ・・・。それは・・・ちょっ・・・と・・・。」

聞かないでほしいと思っているのだろう。だが、その顔がまた、いじめたくなるような可愛いもので、そして、そこまでされると余計に気になってしまうもの。

「逃がさないわよ、工藤君。」

さもないとと、何やら取り出そうとする志保。

「あ、それは駄目!出すな、志保!」

志保の腕を攫んで、ポケットから出させまいとする新一の行動。羨ましい反面、そうまでして隠したい、そのポケットの中身も知りたくなった。

「とにかく、話してちょうだい。ちょうど、ここは喫茶店の前だしね。」

つまり、入ってゆっくり話をしましょうと言う奴だ。

もちろん、ここは快斗のおごりだと、何故か勝手に紅子に決められている快斗もいる。

 

 

 

美男美女が四人入ってきたことで、中にいた人々の視線を一気に受けるが、本人達は気にせずに奥へと入っていく。

注文をとりに来たウェイターに簡単に注文を済ませ、すぐさま取り調べのような状態に入る。

もう、逃げられないと覚悟したのか、新一はぽつりぽつりと話し始めたのだった。

「俺がまだ5歳の頃。初めて両親に連れられて、すごい友人としてよく話しに聞く『盗一さん』の舞台を見に言ったんだ。」

その時から、黒羽家と工藤家は繋がっていたようで、快斗はそれならどうしてもっとはやく新一と繋がりをもてなかったのかと、悔しがっていたが、誰も気付いていないし、気にしてももらえなかった。

「そして、その時に会ったんだ。話しももちろんした。ただ、問題だったのは俺の服装だったんだ。」

そこで、ふと気付いたらしい志保。

「この写真と同じように、可愛い服を着せられていたわけね。」

その可愛い服とはいったいどんなものかと、突っ込みたかったが、話を止めると後々この二人に何を去れるかわからないので、大人しく話しを聞いている快斗。

「そう。それよりも、すごかった。誰も、男だとは信じてくれなかったね、あれ。」

それ程までの可愛い新一を、どうして自分は知らないんだーと、叫びたいのだが必死に抑える。そこはさすが怪盗だというほど、ポーカーフェイスもうまかったので、周りの客には気付かれていないだろう。

「そこで、本当はあいつとも会っていたんだ。」

そのあいつとは、もちろん快斗の事。

「え?嘘〜?!」

そんなはずはと必死に記憶をさかのぼる快斗。

「薄い桃色の服で、白いレースでフリルのついた、胸にりぼんがあって、頭に何かおそろいの飾りつけてた子供だよ。」

服の特徴を言われて、一つずつ記憶をさかのぼって当てはめていく。そして、思い当たる、自分の初恋の子。

「うっそ、あれ、新一だったの〜?!」

つまり、快斗は二度目も新一に惚れてしまったのだった。だが、いまだに報われないという悲しい現実なのだが・・・。

「へぇ。それはおもしろいわね。是非、見てみたかったわ。」

「見なくていい・・・。」

当時、両親・・・いや母親と快斗の母親に遊ばれていろいろびらびらした服を着さされていたのだ。

それが恥ずかしくて今まで言わなかったのだ。きっと、ここまで追求されると思っていたからだ。

それなのに、快斗の顔を見て、盗一の事を思い出していたらぽろりといってしまった。

「それで、それだけじゃないんでしょ?どうせ。」

「なんで、わかるんだよ・・・。」

そう、新一と盗一とはそれだけではなかったのだ。

その後、怪盗KIDによる舞台が始まった時に、出会い、そしていとも簡単に見破ってしまっていたのだった。

それを聞くと、やはり怪盗KIDは親子同じで、この名探偵には叶わないという事がよくわかった。

 


それから、快斗はいりびたるようになった。

たまに、久しぶりに会った彼の母親に会えば、また来てねと言われ、行くようにもなったが・・・。

 


実は、三人に話した中で、偽りが一つあった。

怪盗KIDとは、ただ単に仕事の最中に会ったわけではない。

そう、その時から組織に狙われていた盗一を、幼い頃持っていた快斗と同じ力で助けたのだった。

それが、本当の出会いではじまり。

 


だが、成長と共に自分は力が消えてしまった。

だけど、快斗と出会い、そして二人の女性によって分裂した彼等と過ごす間に、自分の力が再び戻ってきた。

最初はうつったのかと思ったが、本当は少し違う。

眠っていた本来の力が、彼等によって再び表へと出されたのだった。

だが、自分も確かにこの可笑しな面々と同類なんだなと、最近思うようになった。

まだ、自分に本来は持っていたが、伝染のように移ったといっても可笑しくはないこの力の事は、まだ誰にも言っていない。

まぁ、すぐにばれるだろうが。

 


こうした、彼等は分裂する前の日常と、そしてその後も違和感なく居ついた快斗(キッド)と過ごす事になった新一のお話があったのでした。





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