ふとした瞬間

力はコントロールを失い、暴走する

 

旅行先での事

入り口の花瓶が割れてしまった

従業員達は慌てて謝って始末をし始めるが、原因は自分だと彼にはわかっていた

だから、すぐにその場所から逃げ出した

驚かせたのだと心配しているようだが、新一の中では違う

本当は、ごめんなさいと謝らないといけない

だけど、こんな力があるなんて言っても信じてもらえないし

言ったところで信じてもらっても気味悪がられるだけ

父さんと母さんにそんな事で嫌な思いをしてほしくなかったから

 

彼は逃げた

人がいないだろう山道を走って

 

それが奇妙な屋敷に住む

奇妙な力を持つ狐に出会う為の道だった

 

 

 


 銀狐一族のお屋敷

 


 

 

結構走っても、やっぱり一本道だからわかるかもしれない。

子供の足ではこれぐらいが限界で、そろそろ休みたいと思っていた。

そんな時、ふと先に見えた屋敷。大きくて立派な日本家屋。だけど、なんだか不思議な力の流れがあるように感じられる、いかにも奇妙なお屋敷というようなところ。

だけど、今の自分には似合っているかもしれない。

少し覚えた興味と、その力の流れから、新一は屋敷のチャイムを鳴らしてみた。

すると、結構年の若い男の声がした。

「どちら様ですか?」

「えっと、あの・・・。」

そういえば、何て言おうか。自分は突然ここに興味を覚えてチャイムを鳴らして、客人でもない人間だ。

これだけの家だと、部外者は駄目と追い出されるかもしれないと思うと、何も言えなくなった。

「ああ、ちょっと待っててね。」

なんだか、あっちは結構あっさりしているというか、すぐに大きな扉は開いた。

そうして、顔を見せたのは、新一より少し背の高い少年だった。

「久々のお客さんだ。いらっしゃい。迷子?」

でも、一本道だから、迷子というよりは探検かいと、話しかけてくる彼。

「あ、僕は璃狐。この屋敷の現当主の孫だよ。最近、人が減ってもう、でかいだけで寂しいって感じでさ。」

あ、あがってと、何やらたくさん勝手に話す少年。

だけど、今はあの宿には戻るつもりは無いので、何よりこの少年には不思議な何かを感じるから、興味を覚えて、いつも父に知らない人には絶対についていくなと、息子を溺愛するあまり言い聞かせてきたのだが、生憎好奇心の強い彼は父のいい聞かせをあっけなく無視した。

あまりの親バカぶりに、この年で彼は父親から上手くすり抜けたり反抗したりするようになったのであった。

まぁ、有名人の息子という事で、誘拐されるという事件も多発していたが、優作が自宅につけたセキュリティと彼自身が勝手に上手い事して帰ってくるので、あまり酷い被害はないのだが・・・。

やっぱり、父親はどんなに息子を溺愛して何でもしてあげても、彼の好奇心と謎には負けるのであった。

 

 

 


何故だか屋敷の中へと入れられて、お茶とお菓子を出してくれた。

一応両親があれなので、ここに出ているものがかなり高いものだとはわかる。

それを、ただチャイムを鳴らして好奇心でやって来たような子供にだすのだろうか。

「さぁ、食べて。」

にこにこと見られながらだが、勧められては食べないわけにはいかない。

いただきますと、お菓子を口に入れた。

甘い物があまり好きではない新一だが、とてもおいしく食べられた。

「おいしい?」

「あ、はい。」

「うんでいいよ。僕としては年の近い子がいなくて寂しいからさ。」

新一もそれは思うので、お言葉に甘えて、うんと答える。

「おいしい。」

「そう?良かった。」

どうやら、これは彼の手作りらしい。」

「どうも最近、お菓子作りに嵌ってさ。じいちゃん・・・ここの当主だけど、甘い物が好きでさ。最近甘さ控えめの奴考えていたんだ。」

甘いほうが良かったと聞かれたが、新一は甘いものより今の方がいいので、首を降った。

「そっか。なら、食べてね。」

そこでふと、彼は気付いたらしい。

「そう言えば、君はどこの子?ここら辺の子じゃないでしょ?これほど変わった力の流れを持つ人って、近くにいたら分かるから。」

名前も、出来たら教えて欲しいというので、いつもならあまり名乗らないが、つい名乗ってしまった。

「へぇ。工藤新一君かぁ・・・。ってことは、ここの近くの宿に宿泊だよね?じゃぁ、工藤優作さんの息子さんだね。」

そっかそっかと、なんだか一人で納得している璃狐。

どういうことだろうかと首を傾げていたら、ごめんごめんと言いながら、理由を話してくれた。

「今日ね、お客が来るんだよ。それも久々に。それが、優作さんなんだよ。」

どうやら、今の当主とは古い知り合いらしい。

「そっか。じゃぁ、来た理由はその力の制御の為かな・・・?」

「・・・わかるの?」

「この家の者はね、新一君みたいな不思議な力を持っている人間の集まりなんだ。最近では減ってきているから、一族も少ないけどね。」

だから、新一が何らかの力を持っている事はよくわかると言う。

そこへ、部屋の障子が開いた。

「おや。誰か来たかと思えば、新一君か。」

父親と同年齢ぐらいの男が現れた。

「あ、やっぱりわかった?」

「今な、優作から電話があってな。探してほしいと言っておって。そうか、来ていたのか。探す手間が省けたな。」

なんだか、何でもお見通しのようでちょっと気に喰わない。

「そっか。じゃぁ、心配しているみたいだから、帰る?」

新一はふるふると首を横に振る。まだ、帰るつもりはない。それに、自分の父親が少し気に食わないので、ちょっとした反抗でもあった。

「まぁ、ゆっくりしていけばいい。部屋もたくさんある事だし。」

「ほら。仕事が残ってるんでしょ?」

「ひどいもんだな。年寄りはいたわれ。」

「はいはい。そう思うなら、仕事を終わらせてからもう一度言ってください。」

どうやら、璃狐はこの人を追い出したいらしい。

「あ、ごめんね。すぐに追い出すから。」

「追い出すとは何か。おじい様に向かって。」

「なら、おじい様は部屋で大人しく仕事して下さい。」

なんだか、この人は父親に似ている気がすると思っていたが、ふとある言葉が気になった。

「おじい様?」

「そう。若そうに見えるけど、かなり年喰った化け狐だから。」

にっこりというが、なんだか笑っていないように見える。

何処で見たことがあるのかと思えば、自分と父親に似ているのだ。

「じゃぁ、ここの当主さん?」

「そうだよ。それなのに、この孫ときたら・・・。」

「はいはいすみませんね。」

追い出すのは結局無理だったらしい。

結局、この部屋に腰を下ろした。そんなに仕事が嫌なのだろうか。なんだか、そういうところも遊び感覚でやっている父親に似ている気がした。

やっぱり、友人になるような人間は同類なのだろう。きっとそうだと、納得させた。

「あ、お茶のおかわりいる?」

「うん。」

入れてくるねと、出て行った璃狐。

その間にしっかりとお菓子も平らげた。好みにあっていてとても満足していた新一に、当主の雅狐が声をかけた。

「新一君は、その力が無い方がいいと思うのかね?」

「・・・。」

「生まれ持ったものはどうしようもない。だが、使いこなせるようにする事も可能だし、奥に封じ込めて眠らせる事も可能。」

どうすると聞かれて、結局自分はどうしたいのだろうかと考える。

この力は通常はないもので、なくても不便はないはずだが、活用している新一にはなくなっては少し不便になる。

かといって、使いこなすまでに時間がかかれば親に迷惑がかかる。

「新一君程の力を持つ者ならば、いくら封じてもある程度年をとった時に自然と力は戻るだろうから、身体の成長が落ち着くまでは封じておくか?」

どうせ戻るのなら、言われたとおり落ち着くまで封じておいた方がいいのかもしれない。

「優作は相変わらず親バカをやっているようだが・・・。今回こっちにきたのも、ここへ来る為。」

新一次第だと言われて、新一は答えた。

最近は溢れすぎた力が制御できなくなっている。だから、封じておいた方が、それにそのまま忘れてしまった方がいいのかもしれない。

「出来るの?」

「ああ、出来るさ。」

すっと、大きな手が新一の顔を覆った。

「ゆっくり目をつむってごらん?」

言われたとおりに目をつむる。すると、なんだか眠気に襲われて、すうっと意識が遠のいた。

その後の事はあまり覚えていない。

 


「・・・もう少し後で来てくれたら、もっとゆっくりと新一君とお話が出来たんだけどな。」

「大丈夫。優作が連絡をよこして、今日はこちらに泊まる事になっておるから。」

「そうなの?」

「それに、目を覚ます夕方には、一度顔を出すとも言っておったしな。」

とりあえず、奥の部屋で休ませて置こうと、抱き上げた。

「この前まで赤ちゃんだったんだがな。」

「この前って何時の話だよ。」

「八年前ぐらいかな?」

「・・・生まれてすぐじゃないか。」

そんなにぼけたなら引退したらどうと言われつつも、四代目がしっかりしていないから無理だと答える。

 


その後、優作が現れて、何がどうなっているのか分からずにいた新一。

その時にはしっかりと記憶はなかった。

その力を持っていたという事。

 

だけど、個人的に仲良くなった新一と璃狐はたまに互いの家へと遊びに来るようになり、新一は銀狐の一族のことを知ったのだ。

 

 





   あとがき

 銀狐の二人に会った時のお話。
 でも、詳しい仕事内容が出ませんでしたね(汗



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