いかにも妖しげな洋館。 外では不気味にたくさんの烏が泣き叫んでいる。 その洋館で、主である女と客としてきた女が何かを話していた。
<<番外編>> 魔女と化学者の優先順位
外はあれだけ晴れているというのに、何故かその洋館だけは曇り。そして、挙句の果てには雷が鳴っている始末。 そんな洋館にいるのは主である女と別の女。どちらも、美女と言われるような美貌を持ち、妖しげな笑みを浮かべて紅茶を飲んでいた。 「本当に、あの人達はしつこいわね。」 「黒羽君も無茶をしすぎなのよ。」 片方は宮野志保、もう片方は小泉紅子。 高校生探偵として有名な工藤新一の主治医をしている、かなり怪しい化学者と全ての男をとりこにする事が目標の自称紅魔女を名乗る二人の女。 そんな彼女達が今話している内容はというと、守りたいと思っている一番優先すべき人物、『工藤新一』に手を出す愚かな人達の事についてだ。 「西の彼。あれでこりたかと思ったけど、こりていないようだったからまた仕掛けて帰ってもらったけど・・・。」 「今度は黒羽君で工藤君に手を出そうなんてね・・・。あの迷探偵は。」 事は少し前の事であった。 何かと迷探偵もどきこと白馬探は快斗の事が怪盗KIDなのではないかと言い寄ってくる。 証拠は入手した髪で結果が快斗以外ありえないとか。 そんなある日だった。いつものように軽くあしらって教室を出て行った快斗。 もちろん、しつこく追いかけてくる白馬。そんな中、困った事が起こったのだった。 「きゃぁ?!」 階段を踏み外して堕ちる女子生徒。いけないと、快斗はすぐさま助けようとした。 その後だ。助けたはいいが、なんとかなったと階段の下で落ちた少女に大丈夫かと気を配っていれば、外で野球をやっていたのか、ボールがこちらへ目掛けて飛んできた。 やべっと、快斗は白馬がつけているのを知っているので、わかりにくいように『力』を使ったのだった。 だが、白馬は目ざとくそれを見てしまった。さすがは探偵という事か、やはり鋭いようだ。 それ故に、あの男は快斗に関する力の事で専門の研究者を集めて研究するようになった。 このままでは、快斗が無茶をしてでもやり返す事はわかりきっているし、『新一』が無茶する事が眼に見えてわかる。 それではいけないとうなずきあう二人。快斗は少々問題はないとしても、『新一』は心を痛める事だろう。それを見るのが嫌なのだ。 新一は必ず無茶してでも回避しようとする快斗をかばおうとする。
「だから、今回の計画を実行、そして完成させるというわけね。」 二人が決めたのは、快斗であって快斗でないものを作り出す事。現代の魔女や最強の化学者である二人が手を結べばなんだってできるようなもの。(と、新一は認識している) 「ちょうど、いいものが手に入ったのよ・・・。」 「私も、この前あれだけ駄目だと言っているのに無茶して出て行った彼の代わりに、止められなかったからということで、あれを手に入れてきてもらったもの。」 志保が手に入れてこいと命令したものは、通常では手に入らないし、かなり法に触れるようなものであった。 窃盗罪があるんだから今更でしょと片付けて、もって来れないのなら追い出すわよと脅せば喜んで手に入れてきてくれた。(実際は、泣きながら無理やり笑顔をひっつけていた) 「さて、これからクスリを作ろうかしら・・・。」 「そうね。私は魔術の下準備をしておくわ。」
仲良くその部屋から出て行った二人。 その後何をしていたかは不明である。間違いなく、何か法に触れていけないような事をしていた事は確かであるが・・・。
そしてその数日後。 見事に完成したクスリと魔術の混合により、快斗は分裂する事となった。 そのおかげで、迷探偵の一人には正体を隠せたし、少し謎であるが、力の事がばれなかった。 そんな二人の思いに彼等は気づく事は無い。 魔女と化学者の優先順位は、大切な人の笑顔と幸せを守る事。 それが、当の二人にとって幸せかどうかは定かではないが、結局は仲良くお茶をしたり会話したりする大切な人である事はかわりない事は確かである。
おまけ 「少し、予想外ね。」 「そうね。予定ではすでに戻っているはずなのだけど。」 次のKIDの予告日を予言で知っていた紅子。それにあわせて分裂した二人が戻るはずだったのだが、何故か戻らない。 「・・・なんだかむかつくわね。」 「そうね・・・。やはり、どちらか引き取ろうかしら。」 もちろん、実験や魔術の犠牲者として。 予告でしっかりと迷探偵を突破したので、あとは一日もあれば戻るかと思われた。 だが、あれはいまだに分裂し、二人が存在し続けている。 「嫌ね。そろそろ戻ってもらわないと、迷惑だわ。」 「本当ね。」 最近はよく、お互いに抜け駆けがどうのと言って騒いだり、離さないと懐いていたりと、二人にとってはかなり迷惑なものであった。 志保にとっては新一の検診が行えないし、快斗は学校にいっていても、警察で呼ばれたときに帰っていたり迎えにいったりする対処がいつもキッドで次は自分が斗とお互いを少し敵視するようになっていた。 「おい。今日は俺が当番なんだぞ!」 「遅かったから、ついででつくったんですよ。新一を待たすわけにはいきませんから。」 たかだか食事の当番で喧嘩をする。 そんな中新一は、二人の喧嘩は仲がいいもからしているのだと、一人蚊帳の外に出て寂しくしていたりする。 決着がつかず、とりあえずご飯を食べようとする二人。その時はすでに新一は流しへ食器を出しているところだったりする。 少しずつ変わっていく三人の心。
「今日も、うるさいわね。」 さらに数週間経過した後。 まだ、快斗とキッドは分裂したままだった。そして、喧嘩の量が多くなったのであった。 「・・・紅子と、何か考えましょうか。」 その時の彼女の表情を見たら、きっとぴたりとあの喧嘩はとまっていたかもしれないが、生憎ここはお隣の地下である。見える事は無い。だが、背筋にぞくっと寒気が走った事は記すまでもなく想像できる事だろう。 「本当に、何か対策を練らないと困るわね。」 それが意味する事は・・・。
「彼が幸せなら、いいのだけど、壊されるのは困るわ。」 彼はいつしか思いに気付く。そして、彼は思いを受け入れる。 自分達の思いには気付かないで、いつまでも幸せで笑っていてほしい。
「彼を泣かせるような事をしたら、絶対に許さないから、覚悟しておきなさいよね。」 次の日、新一が学校へと向かった後に玄関から出てきた快斗と喧嘩で声を出して言い合っている相手、キッドを見かけたときに言ってやった言葉。 二人は呆然としていたが、すぐに苦笑して答えた。同じ言葉を。
「「絶対にありえないね(ありえませんね)」」 |