七章 新たな始まりを告げる堕天使

 


リオンが目覚めて、新一達は外に出る事にした。

すると、そこでは倒れている五人の姿と、まるで何事もなかったかのようにそこに立っている三人を見つけた。

「・・・見事なものね。」

白衣の男は完全に事切れているが、他の四人は眠っているか気を失っている。

「それにしても、タイミングよく来たものね、貴方達。」

まるで、自分達の後を着けて来たかのようにタイミングよく現れた二人を見て、実際はどうなんだと聞いてみる哀。

「なんだかね、聞いたら和也の組織の方でいろいろあって、あのいかれた白衣のお兄さんに用があったらしいんだよ。」

「・・・後始末をしにきただけだ。」

「そう。」

組織同士。裏でいろいろあったのだろう。和也が支配するCROWは組織といっても、哀やあの男たちがいたような組織とはある意味正反対で、迷惑をしていたから後始末する為に来たら、偶然重なったという事らしい。

「じゃぁ、彼はどうして?」

「蓮がさ、連絡してすぐに行けって。だから来たら和也とあって、ちょうどタイミングよく着いたらいたから出てきたんだって。」

「・・・それなら、もっとはやくから出てきてほしいものね。」

だが、結局は無事に終わったのでよしとしておこう。

細かい事は家ででも話は出来る。

「それで。どうするの、彼等。」

「目を覚ましたら催眠で吐かす。」

「息のない彼はどうするの?」

「元からこいつは心臓を持たない。・・・ただの機械人形と成り果てた哀れな人間の末路だ。問題ない。」

ここにいる彼等は、少なからず何らかの理由で本来の体の一部を失い、機械で補って生きてきた者。

ほとんど人となりえない白衣の男は、もう人ではなくなっていたのだという。

完全な、機械と化している。それを、人と呼ぶことは出来ない。

その言葉は、リオンに深く突き刺さる。自分と同じ、人ではないもの。

自分自身にも、人ではない別の物だと壁を作られているような感じがして。

だが、隣にいるクラウドはトンッと肩に触れて、大丈夫と小さな声で言い、いつも自我を保てているのは彼のおかげなんだと思いながら、ことの成り行きを見ておこうと思った。

そんな時、今まで黙っていた新一はなにか言いたそうだった。

「だけど・・・。」

「工藤君。人ではなくなれば、確かに切り捨ててもいいかと言われたら違うと答えるのが人かもしれない。しかし、彼に対しては違うわよ。あの男、見たことあるもの。」

新一が言いたいこともわかるが、コレが一番なんだと、哀は新一に説明しようとする。

哀がかつて組織にいた頃に、同じ科学者として名前と顔を知っていた。

「彼は、もう何十年も前から、同じ顔よ。」

つまり、人間と言う区切りを越えてしまっているのだ。だから、彼の顔を見たときは驚いたぐらいだものと答える。

「・・・じゃぁ・・・。」

「人間業じゃないわ。すでに人ではなくなった。・・・そうね。どこかのお馬鹿さんが探している愚かな夢のようなものじゃないかしら。」

もしくは、西洋で流れた吸血鬼のような。年をとらない化け物となるもの。

放っておけば、暴走し、多くの犠牲を作る化け物。

結局は、人に破滅をもたらすようなもの。正気であってもなくても、やる事は同じだから。

「彼はいてはいけないのよ。きっと・・・。」

哀の言葉は重く、美矢灯には組織だとか言われてもわからなかったが、哀にとって辛い話であり、壊れたものはもとに戻らない事も知っていたから、なんだかやりきれない気持ちになっていた。

その時だった。油断していたのかもしれない。

目の前にいた白が宙を舞い、軽やかにその場へと着地する。

「油断は禁物。・・・皆さんが一番よくわかっていることですよ。」

「うそっ・・・。」

「っ、まだ生きていたのか?!」

突如、動き出した白衣の男。まるで、先ほどの痛手はなんともないかのように。

何より、傷口から血はすでに止まり、怪我も治りつつあった。

「ククク・・・さすがにこたえました。・・・が、しかし。私には効きませんよ。」

立ち上がって、彼等から距離をすぐにとる男。やはり、周りで倒れて動かないものとは明らかに違う。

「彼女から話を聞いたのでしょう?そうですよ。私はほとんどが機械化。しかし、人と変わりはない。何せ、もともとは人であったのだからね。」

ただ代わりがあるとすれば、と言葉を続ける。

壊れても、機械のように修理したり再起動をかければ、再び動けることでしょうかと、相変わらず嫌な笑い方で、男はそでぺらぺらとしゃべる。

「壊れたら終わりとなるものもありますがね、私のように終わらないものもあるんですよ。」

そこにいる彼等はまだまだ試作品段階の不良品のようなものですからと、たとえ同じ仲間であっても切り捨てる男。

損な男を、リオンはただじっと睨みつけていた。

「今回は、リオンの件は引きましょう。しかし、近いうちに再びお伺いしに来ますよ。必ずね。・・・また、会いましょう。」

貴方達が堕天使と天使なら、私は審判者ですと男は言い、背後に広がる木々に紛れて姿を消した。

「審判者・・・。捌きを下す者。・・・相手の運命を選び、審議を下す者。そして・・・復活に再会に再生であると同時に、真実を見失う、破壊という意味だね。」

竜のタロットでの意味を言う。自分の持つ審判者のカードを取り出して。

そこに描かれたものが彼には合わないと思うが、真実を見失って破壊するという意味では、ぴったりかもしれない。

だが、新一にはあの男のことは許せなかった。

「ふざけるなよ、あいつ。」

人が人を簡単に裁くことなどできない。運命だって、人は返られるが他人が強制させることなど、絶対にすることは許されない。

「・・・新たな始まりを告げる天使・・・。・・・羽根を持たない天使が機械仕掛けの羽根を手に入れ、手を紅く染める禁忌を犯し、堕天した、哀れな天使。」

「哀れなんかじゃない。あんなのっ、ただの馬鹿だ!」

竜の言葉をかき消すように怒鳴る新一。

なんだか、大変な事に巻き込まれたなと思うが、少しわくわくする美矢灯には、誰も気付いていなかった。

これから彼女をどうしようかと考えている新一達を他所に、巻き込まれる気は満々だった。

そんな彼等の隣では、必死に感情を抑えようとするリオンと、心配そうにリオンを見ているクラウドがいる。

「・・・あの男は、絶対に・・・っ!」

憎しみに溢れた心。唯一、殺す事が出来なかった男。

あの時、あの場所にすでにいなかった男。

家族はあのようにした一番の原因である男。

「無茶はするなよ、リオン。」

「わかってるわよ。・・・それに、それを止めるのは貴方でしょう、クラウド。」

やっと名前を呼んでもらえたなぁと、のん気に思うクラウドだった。

「漆黒い翼を持つ天使と、機械仕掛けの翼を持つ天使。そして、人の心を持つ天使。・・・次は、何が出てくるんだかね。」

曇り始めた空を見て、そろそろ引き上げようかと竜がいい、他の皆も無言でうなずいた。

つい少し前に占いした、結果である『運命の輪』のカードを見ながら、どんな運命の変わり目なのかと、考えながら、竜はカードをしまった。

いくつもある輪は、一つずつ確実に回り始めている。

神が描いた未来へと進める為に。

 


 

 

 


帰ってきたら、廉が全員分の珈琲を用意してくれていた。

「お疲れ様。そして、おめでとうと言うべきかな、お二人さん。」

よくよく考えてみれば、捕まえたら告白を受けるというようなもので、何気に快斗は先を越されていた事実に気付き、一人いじけるのであった。

「どうしたんだ?」

「・・・何でもないよ。」

告白されていたことをすっかり頭の中から消し去っている新一は、快斗の思いに気づく事などなかった。

ちらりと横目で、哀れねと思いながらも、新一にも自分にも害はないので放っておく。

「おーい?苦かったのか?」

怪盗とは日常でもよく会っていたので、甘党なのは知っていた。まぁ、あれだけ白くなって砂糖も大量に入れるのを一度でも見たら、嫌でも記憶に残るだろう。

だから、珈琲が苦かったのかと聞いてみるが、違うらしい。

「・・・はぁ・・・。」

「なんなんだよ、お前は。」

辛気臭い奴だなと、ぶつぶつ言いながら珈琲を飲み干す。

そして、疲れたので新一は家に帰ることとなり、またなと店を後にする。

もちろん、快斗もしっかりと新一と一緒に家に帰る。

 


 

 


いつまでも辛気臭い快斗を放っておくと、そのままいじけていそうだったので、無意識の天然は凄いというか、新一は快斗を部屋に連れ込んで、ベッドに連れてきて、一緒に寝たのだ。

そう、何もすることなく寝たのである。

蛇の生殺しだと、さらに眠れず悲しいかな、泣いていた快斗に気付くことなく、新一は穏やかに寝ていた。

人が側にいると意外と安心するのか、自ら近づいてきて、何度快斗が泣きそうになっていたかなんて、知るよしもない。

 







     あとがき

 敵も無駄に強いというのか・・・?やっぱり、どっちも一筋縄でいかないのがいいかなと。
 そして、やっと次で終わりです。長かった。はぁ。



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