六章 なくしたものを探す者 <後編> 着いた場所は、確かに知っている場所だった。 そこは、工藤優作が所有している別荘の一つで、始めて盗一と会い、魔法に魅了された場所。 そして、一つのキーワードを思い出した。 「結局、親父が裏で糸を引いてやがったのか・・・。」 ここは以前、日本人とどこかの国だったか忘れたが、外国人と結婚した夫婦が日本とその国で交互に過ごしていたという、日本の家。 なんでも、日本が恋しいから、たまには帰りたいと言ったことを叶えた家。 それを、主を失っては荒れるだけだからと、知り合いでもあったから優作は以前から自分達がいなくなった上げると言っていたので、思い出を残す為もあって引き取ったのだ。 たまに、ハウスキーパーが掃除をしたりしていてそこまで荒れていない家。 その主こそ、きっと彼女の両親だった人達の家だったのだろう。 そして、こここそ、彼女が帰る場所。残された、彼女の居場所。 「一度だけ、来た事があったらしい。それっきりだったらしいけど。」 だから、もう一度来たかったのかもしれない。そして、追い続けるのなら自分を知ろうとするだろうから、必然的にここが導き出される。 「それを、試したいのかもしれない。」 だが、そんなにのんびりとしていられないようだ。 全員瞬時に取り囲む気配に反応した。 「・・・迷惑なお客様のご登場ですか・・・。」 胡散臭い奴は黒い服を好む。そして、妖しい実験をするものは白衣を着る。 現れたのは四人の黒服と白衣を着た男だった。 「ここに来ると、思っていたよ。」 ここは、組織が彼等に手配した場所だから。今は別の人間が所有者だが、あの女が帰ってくる場所はここにきまっている。 見つからないから、彼等も探っていたのだろう。 そして、新一達が来たのを見て、案内させようって魂胆だ。 「さて、大人しく言う事を聞いてもらおうか。あの女はどこにいる?」 サッと、五人全員が銃を持ち、新一達の方へ向けた。 「くそっ。」 こんな所で時間をとられている暇なんかないのに。舌打ちするクラウドににやっと笑みを見せる竜。 「じゃぁ。俺が足止めするから、皆は先行って。」 竜がひょいっと全員の前に出た。手に、タロットカードを持って。 「こんなのに付き合う必要はないよ。時間の無駄だよ。だから、行って?」 そもそも、ここへ来たのはリオンに会うため。必要な人間は新一とクラウドと美矢灯。中に潜んでいたらいけないから、力で勝てない美矢灯を守る為にキッドと哀を先に行かせる。 「でも・・・。」 さすがに五人と一人だと心配になる新一。彼の実力はそれなりに知っているつもりだが、もし怪我をしたらと考えると置いていけない。 「大丈夫。だって・・・。」 「俺達もいるからな。」 銃が放つ音とともに、そこに現れたのは、両手にそれぞれ銃を持つ和也。 「三人いたら大丈夫だよ。ね?」 和也の他に、細身の短剣を持った麻都もそこにいた。 「じゃぁ、任せるよ。」 クラウドは新一達と共に家の中へと向かう。これ以上ここにいては彼等の足手まといになるし、何より美矢灯が今ここにいるから。 「大丈夫でしょうか?」 「大丈夫だよ。彼等は強いから。・・・きっと相手の方が大変だろうけどね・・・。」 新一がそこまで言うのなら、実力は本物なのだろう。 「こっち。地下に入り口があるんだ。」 そこにこのペンダントをはめ込んで、暗証番号を入力したら扉は開かれると言う。 そして、その暗証番号こそ、新一の過去の記憶の中にあるのだと言う。 「・・・ああ、大丈夫だ。一つ、気になっていて何の事かわからない言葉がある。」 それがきっと、その扉の暗証番号だ。 「なら、問題ないね。」 地下への扉を開き、階段を下りた。そして、行き止まりとなったそこの扉を開くと、個室のような場所があり、壁に五つの穴と、暗証番号を打つキーがそこにあった。 「さて。これを嵌め込んで、あとは暗証番号だね。頼むよ、新一君。」 皆がそれぞれの穴にペンダントを押し込み、新一は深呼吸をして、ゆっくりと覚えている言葉をそこへ打ち込んだ。 「さて。皆いったことだし、はじめましょうか。」 「そうだね。急いで追いかけたいから、死んでもらうよ。」 五人が一斉に三人を殺すべく、銃を発砲した。だが、いくら撃っても弾が彼等に当たることはない。 余裕で彼等はそれを交わし、攻撃も仕掛けてくるので、彼等はとてもやりづらかった。 「くそっ。」 黒服は二手に別れて、白衣と三組になり、それぞれが相手をする。 「まぁ、集団で固まっているよりは賢いけどね。」 俺にはあまり関係ないよと、竜はタロットカードを彼等に投げつける。 まるで、カードは生きているかのように彼等に襲い掛かり、意のままに操られているかのように、いつの間にかカードは竜の手元に戻っていた。 実際は動いている間に竜が回収しているのだが、自然な動きで速いためにまったく気付くことはなかった。 「さて。まずは一人目。チェックメイトだよ。」 カードを投げ、気を取られた隙に間合いに入り、背後に回った竜が綺麗に首に決め、右足で蹴り飛ばして踏みつけた。 「よしっ。終わりっと。」 ぱんぱんと手を叩いて、もう一人の方を見る。 「今度は君だよ。・・・俺は負けないよ。失うことを知らない、わからないようなあんた達にはね。」 だから、失わないようにクラウドに協力したのだ。 「ほら。はやく来てよ。はじめようよ、続き。・・・容赦するつもりはないし。」 さすがに、もう一人は竜に対して警戒し、すぐには近づこうとはしなかった。 来ないなら行くよといわれても、相手は動く気配を見せなかった。 同時にこちらでは、和也が銃を扱いながら、隙をついては蹴りを入れたり攫んで投げ飛ばしたりしていた。 だが、相手も相当しつこくて丈夫らしく、あまりきいていなかった。 でも、これだけ丈夫なら、隣のお嬢さんは喜びそうだが・・・。そんな事を考える者は生憎ここにはいなかった。 「そろそろ、お休みしてもらおうか。」 すっと、懐から特殊な針を取り出して投げる。 その間、相手の弾をよける事は忘れない。 「一人目・・・。あとでしっかりといろいろと吐いてもらう。」 背後に回りこんで蹴りを喰らわせたと同時に、針を相手へ刺した。 「当分は夢の中だ。」 ばたりと、一人は倒れ、残った一人を見る。 「次はお前の番だ。」 感情のない男が、迫ってくる。 だが、ここで引くわけがない男は何か策はないかと相手を伺いながら考えるのだった。 「なかなか、いい腕を持っている。おしいな。」 ここで殺すのは本当におしい。嫌悪感を懐きそうな嫌な笑みの男を見ても、無表情な麻都は睨み続けていた。 「どうです。仲間として、一緒に来ませんか?」 「断る。」 「そうですか。残念です。無駄な殺生はしたくありませんが、いたしかたない。」 その言葉が合図であるかのように、二人は同時に動く。 「ほぉ。銃をその小さな刃で弾くとは・・・。やはり、死なすのにはおしい逸材だ。」 だが、刃向かうものを生かしておくほど優しくはないし、彼ほどの実力なら、仲間にならないのなら潰しておくべきだと、殺す気満々で仕掛けてくる。 しばらく互いに攻防が続いた時、ガシャンと男の銃と麻都の刃が交じり合った。 それと同時に、二人はその場で動きを止めた。そして、男はまた話しかけてきた。 「あの女は、天界から追いだされた天使。その手を紅い人の血で染める禁忌を犯し、その背に漆黒い翼を持つ死神だ。」 お前達にも不幸を運ぶかもしれないな。と、男は言う。その笑みは和也と麻都には気にいらないものだった。 「どのみち、あの女が生きる術はない。居場所がないのだからな。あれは、化け物だ。」 漆黒い翼を背に持ち、手を紅く染める堕天使。けたけたと神経を逆立てるように高笑いをする男を無表情で容赦なく切り捨てる。 「なら・・・。俺も同じだ。すでに手は人の紅い血で汚れ、もし翼を持つのなら、この背の翼は漆黒いだろうな。」 壊れた笑みのまま、命の灯火が消えた男を見下ろす。 「それに、お前も愚かな堕天使だろうが・・・。ただ、背にある翼は同じ漆黒い翼であっても、ぼろぼろで飛ぶ事が出来なくなっただけの・・・。」 もう、興味はないと麻都は男から視線を外す。 そして、他の二人がそれぞれ一人を眠らせたり気絶させたりして、残りは二人となった。 「さて、あとは仕上げだね。」 「・・・なんてこともない。弱いな・・・。」 「・・・弱いからこそ、人というものは集まるものだ。」 三人がそろい、近づいてくるのを見て、一歩、また一歩と下がる黒服の二人。 「逃げられないよ。」 「狙いをつけた獲物は逃がすつもりはないからな。」 「・・・それに、気に入らないしな。」 すでに、人ではなくなったお前達には何の興味はない。それが三人の意見。 そう、彼等はリオン同様に、人ではない。 かつては人であったが、愚かな行為で人を捨てた愚か者の末路。壊れれば動かなくなるような機械のような者達。 「人形遊びはもう、終わりだよ。」 今度は竜の言葉が合図。 開かれた扉の先へと進む新一達。 そして、そこで見た者に驚き、そして、言葉をなくす。 「・・・リオン。やっと追いついた。やっと、・・・見つけた・・・。」 透明の棺の中で眠る彼女。その棺は特殊な装置がついているらしく、中は冷凍庫のようになっているようだ。 つまり、彼女は現在仮死状態で存在している。 「・・・やっぱり、あの時大怪我をしていたんだな・・・。」 最後に彼が見たのは、崖から落ちて流れる水に飲み込まれる彼女の姿だったという。 「・・・親父が手配したんだな。」 今度あったらとっちめてやると決める新一。 「で、起こす方法はわかっているのかしら?」 「大丈夫。」 クラウドは棺の横にある装置を止めるボタンを押し、棺を開けた。 そこから冷気が出てきて白いものが溢れていたが、しだいに消え、そこにはだんだんと体温が戻り、淡い肌色となったリオンが眠っていた。 それからどうするつもりなんだと見守っていた新一達は、出来れば後ろを見ていたら良かったと思う光景を見てしまった。 なんと、リオンとクラウドのキスシーンだ。 美矢灯なんて、はじめてみたので照れてキャーッと叫んでいるし、快斗は羨ましそうに見て、ちらりと新一を見てくるし、哀は呆れた顔をしているし、新一は快斗の視線に気付いて言葉に詰まっていた。 彼等の唇が離れた後、リオンの瞼がかすかに揺れ、ゆっくりと開かれた。 「やっと追いついたよ、リオン。」 「・・・クラウド?」 いまいち状況がわかっていないらしいリオンは、ゆっくりと身体を起こし、そこに立っていた面々を見て、目をぱちくりとして、なんでという顔をしていたが、すぐに自体を理解した。 「なるほどね。」 最後のペンダントを彼女から受け取り、暗証番号を知る彼を連れてきてたどり着いたという事ねと理解した。相変わらず状況理解ははやいリオンだった。 「じゃぁ、捕まったから遊戯は終わりね。」 「で、返事は?」 「さぁ?」 「・・・さぁ?あの、それは・・・。」 クスクスと笑って、リオンはクラウドの頬に手を添えて、触れるだけのキスを彼の頬にした。 「・・・いい加減にして欲しいわね。」 二度も彼等のラブシーンを見て、いい加減どうにかしたいと考える哀。ちょっと物騒な考えに行きそうなので、どうしようかと悩む新一と快斗だった。
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