結局戻ってくるのね・・・
呆れたといった魔女の声と、彼等が幸せならそれはそれでいいかもしれないと苦笑する魔人
一人は神となり、その背に純白の立派な一対の翼を持ち 一人は翼と力を失いながらも、ありのままの姿で神のもとへ戻り
微笑ましいような、胸焼けがするような甘い日々が続いていた
神は愛する者を風で包む
神が願い、愛しい者を取り返した後。 そのまま誰にも縛られずに姿を消すかと思われた。長も魔女も魔人もそう思っていた。 だがしかし、彼等は今もなお、普段と変わりないあの場所で過ごし続けていた。 長はそれに驚いていたが、彼等がそれを選んだのならと気にしなかった。 そもそも、快斗はおさらばしたかったのだが、両親の事と森に住む妖精達の事で新一が離れたくなさそうだったので、一緒にいられるのなら同じだし、やはり快斗も両親の墓のある場所から離れるのはいろいろと複雑で。 そんなふうに、彼等は一年と言う月日が流れ、今日も相変わらず二人一緒だった。 「あ、でたな、紅子。」 「相変わらず失礼な男ね。」 魔女こと、紅子と一年の間でいろいろと会う事もあって今では呼び捨て状態。だが、彼女は未だに名前を呼ばず、『白い罪人』と呼ぶ。 「こんにちは。」 快斗を背中におぶるような状態だが、笑顔で迎えてくれる新一に、自然と笑みがこぼれる。 「駄目だよ、新一。そんな笑顔見せちゃ。」 もったいないと、一層ぎゅうっと新一を抱きしめて、彼の背中にある翼で新一を覆い隠す。相変わらず、独占欲前回で、心の狭い男ねとぼそりとつぶやく紅子。 「で、何の用だ?」 紅子が来るのは大抵からかいに来るのだが、たまに用事で来る事もある。なので、一応用事はあるのかと聞くのだ。 ちなみに、聞くようになったのは、以前新一あて用事があったにもかかわらず彼女を追い返した事で新一が怒ったからである。 つまり、結局この男は新一以外の事は一切頭に入らないし聞く気もないということである。 「長が呼んでいたわよ。そろそろいいだろうとね。」 「?何がそろそろいいんだ?」 紅子が言いたい事がまったくわからない快斗。 「来ればわかるわ。明日の太陽が一番高く空に上がった頃。迎えに来るわ。」 じゃぁねと、すっと姿を消した紅子。さすがは魔女だ。 「・・・なんだろうね。」 「さぁな。だが、長だろ?断るわけにはいかないだろうな。」 長はこの村で唯一、二人を気にかけていてくれた人で、両親達の古い友人でもある。 「両親がらみかもしれないな・・・。」 「そうだね。」 明日起きるならと、今日は何もする事もないのではやめに休む事にする二人だった。
「用意は整いました。」 「ご苦労。もう、下がってよいぞ。」 「はっ。」 長は男を下がらせて、二人の人物の名前を呼んだ。 すると、何もないその場所から、二つの人影が現れ、姿を見せた。 「用意は出来たのですね。」 「ああ。」 「それにしても、やっと決断されたのですね。」 「・・・そうだな。」 一人は魔女の紅子。もう一人は魔人の志保。 「もっと、はやく決めるつもりだった。」 「予定が狂ったのは、はやり予言のせいですか?」 「それもあるが、私自身が、迷っていたのだ。」 あの二人は、大事な古い友人の形見。だが、彼等はそれを知らない。そう思っていた。 「今まで出来なかったからな。」 あの二人だけ、成人の儀が行えていない。まだ行っていない者は交わりを許されない。 そして、彼等は他の者達と少し違う。特殊な絆を持つ者。 魂が本来一つである彼等。 神と神を守る為に牙を向く守護獣。 あれは本来一つの魂が分かれ、互いを守る為にそうなった関係。 「運命を覆すほどの力を持つ者。神ははじめからどちらがなるか決まっていた。」 「そうですね。・・・そして、戻ってくることも、神を守る守護獣となる彼の事も。」 全てははじめから決められていた。それを、ただの人や一介の魔女や魔人には覚られないようにしていた神。 「かつてもそうだった。神は半身とも言うべき右腕として働く守護獣を愛した。」 「私達から彼等への。婚姻の儀も合わせた儀式。」 「つらいのう。寂しくなるわ。」 今ではすっかりと父親気分の長。 「祝福しましょうか。五人だけの成人の儀と婚姻の儀で。」 「驚くでしょうね。」 楽しみだわと、明日が待ち遠しい紅子と志保だった。
次の日。 紅子が昨日の予告通り現れた。 ただおかしいなと思ったのは志保がいたことと、二人とも正装していたことだった。 「行くわよ。」 それぞれが快斗と新一の腕を攫んで、一言呪を唱えてその場所から目的の場所へと飛ぶ。 高等魔術とも呼ばれるそれだが、この人数を簡単な呪だけで飛ばせる二人は相当な力の持ち主だとこれでわかる。 だが、それ以上に力を持つのが、この二人でもあるが。 「お連れしました。」 「ご苦労。」 連れてこられた場所は、何やら儀式をするような場所。 「何するつもり?」 儀式とは生贄やお供え物がつきものだ。自分達を呼んだ理由がはっきりとしない以上、もし新一をまた取られる羽目になるのは御免だと、しっかりと回した腕に力を込めて、睨みつける。 「大丈夫よ。彼を生贄にするつもりもお供えにするつもりもないもの。二人をあそこに座らせたいだけだもの。」 と、指差された場所。 たまに両親に連れられて村で集まる儀で長や上になる者達が座っている場所にあたるところ。 「えっと、どうして?」 「あら?わからない?貴方達の成人の儀がまだ終わっていないことと、どうせいちゃいちゃしてるのなら婚儀も済ませておこうと思ってね。」 さっさと座りなさいと、言葉で言う前に魔術の風で席まで飛ばされた。 突然のことでまったく理解できずに互いの顔を見合わせて、呆然としていた。 「まずは衣装も着替えてもらわないとね。」 と、いつものように魔術で簡単に着替えさせた。 だが、これには快斗は黙っていられない。 「新一を着替えさせるのは俺だけっ!」 紅子だろうと許さないと、着替え終えた後に文句を言いまくる。 「でも、可愛いから、これは許す。」 不機嫌も新一が側にいたらすぐに飛んで行くようだ。 皆呆れ果てる。さすがの新一も呆れる。 「さて。はじめるとするか・・・。」 成人の儀と婚儀と、そしれ、守護獣の目覚めを祝う儀を。
ただ、成人の儀があっても見ているだけで何も代わることなく過ごしてきた。 少ない人の集まりだが、祝いはうれしい。 いつも二人だけだったから。 新一に、いつもとは違う笑みが見られた。 五人だけの祝宴で騒いだ後、もう終わりかと快斗も新一も思っていた時だった。 「さて、本題をはじめるとするか。」 きっと、彼等が残った事も本当は意味があったのだろう。 まだ目覚めぬ守護獣を目覚めさせる儀を行える場所と力のあるものが揃うこの場所。 無意識に、そのことがわかっていたのかもしれない。 たとえ、名目上は両親や故郷から離れる事が嫌だと言っていても。 「何だよ?」 突然、祝宴の時とは違う優しいが、どこか真剣な顔と声が、自然と快斗に警戒心を持たせ、新一を抱きこむ腕に力が入る。 「すでに私達は気付かずに運命の輪はその通りに動いていた。」 「それが?」 「君が神となることも、彼が一度この世から切り離される事も。」 損失という恐怖を味わった快斗は、その言葉を重く聞きとめる。 「そして、戻ってきた彼にどうして翼がないのか。」 「俺がもらってしまったから・・・そうじゃないんですか?」 自分と同じ翼を持っていた新一から、奪ってしまった翼。 あの時、腕の中から身体が消えたときの恐怖は今も忘れられていない。 新一は戻ってきても、彼の背には翼は何も残っていない。ただ、あったという証拠として、背中に跡が残っているだけ。 その跡がまた、快斗には痛々しくて、神ならどうにかしてあげたいと思うのだが、そんな力が自分に今ないことぐらいわかっていた。 「かつて、一つの魂が分かれ、この世に生まれる魂の双子。同じ母から生まれなくとも、双子と呼ぶに相応しい。それが生まれる原理を知っているかい?」 「・・・いえ。」 「あくまで推測でしかないのだが、一つは偶然、もう一つは必然。世界の理にあるのはこの二つ。君達の場合は必然であった。」 どういうことだと、きっと真実を知っているのであろう隣に立つ紅子や志保を見る。 だが、話の続きを聞けと目で言われ、再び長に視線を向けた。 「神には、いつも側に守護獣がいた。それが彼だ。」 今は力がなくとも、間違いはないと話す。 本当は、これも全て両親達が生前に話しておきたかったことだった。 いつか、神か生贄として死を選ぶかの選択と、そのあとに待つであろうこのことを。 「あの時は、全ての予言が悪い方向へと向かい、誰も本来の未来を見れるものはいなかった。わしも、彼女達もそうだった。」 だが、今は違う。今ははっきりとわかる。 「だから、お前が心の中で苦に思っている思いを取り除くと共に、婚儀の誓いと成人の儀をした。私がしてやれる、最後のことだしな。」 だから、しばらく離してくれぬかと言われ、新一も頼むというので、快斗は新一を腕の中から解放した。 本当に、新一に自分と同じ、かつてあったあの翼のように立派な翼がその背に戻るのなら。 「異端と言われた、片翼。どうして片方しかなかったと思う?」 生まれつきはかなりまれであった。とくに、この村では。 それでも、同時期に生まれた二人の子供。それぞれの片方にしか翼を持たない、二人で一人前の子供。 「強すぎる力は、小さな器では命の危険にさらされる。・・・貴方達の身体では、押さえ込み扱いきれない強大な力であったから、生まれ変わるたびに、片方の翼を目印にして、力を封印してこの世に現れる。」 「それを解き放ち、完全なる神と守護獣を君臨させるのは、村長で神に誓いとされる彼と、私のような封印の刻印を壊せる魔人と、呪いを受けないように呪いで守る魔女が必要なの。」 三人がそれぞれ新一を囲うように立てば、自然と浮き上がる魔法陣。かつて、ここで何度も守護獣や神の封印を解いてきたそれが今も残されている。 「目覚め、神の支えとなれ。」 「取り戻せ、その器に相応しきその力を。」 「解放の時が来た。」 何かが破裂するように、強い力で部屋が荒れる。 そして、その中心にいるのは、かつて持っていた片翼異常に立派な、一対の純白の翼があった。 「新一っ。」 「快斗っ。」 互いに良かったと言い合う。 一人は相手の翼を奪ってしまったという苦から、彼に相応しいそれが戻ってよかったと。 一人はそれに苦しみ、心配しても顔に出さず、たまに無理に笑顔をつくっていた彼が本当の笑顔を見せたから。
ふわりと優しい風があたりをつつみ、神と守護獣は姿を消した。 きっと、愛しい者を独り占めにしたい神がねぐらに帰ったのだろう。 あとがき 15000HITどうもありがとうございます。 前回の10000HITに続き、現在サイトにある二品と今回の新作。 たぶん、これで終わりかと思われます。はい。 フリーではなかったニ品とこのお話の三品ですが、お気に召しましたらどうぞお持ち帰り下さいませ。 バックブラウザでお戻り下さい |