一人は新たな神となり、世界を背負う者 一人は生贄として、世界を支える人柱となる者 愚かしい人の言葉が持つ力が今 二つの魂を引き裂こうとする 全ての引き金を引いたのは、魔の力を持つ魔人 そして、未来を知りえながらも変える力を持ち得ない魔女 ・・・何も知らない愚かな人間達 全てが少しずつ、彼等を引き裂こうと迫ってくる 時が来た 神が新たな風を起こす 争いが耐える事はなく、ただ人と翼ある者達が戦い続ける。 互いの領土の為、技術や資源、その他様々な利益の為。 いつしか、有翼人達も戦いの日々で本来の目的を忘れ始めていた。 争いを止めて、平和な日常を過ごせるようにするという事を。 「いつまでたっても、結局は同じで、愚かなんだ。」 自分の腕の中で規則正しい寝息をたてて眠っている愛しい新一の髪や頬に触れながら、快斗は遠くをぼんやりと眺めていた。 快斗にとっては、世界などどうでもよいものだった。新一さえいるのなら他にはいらない。 新一と過ごす場所がこの世界だからこそ、ここにいるだけ。 他に場所があったら、もしそこに自分達だけの場所があるのなら、いつでもそっちに行って、こんなところを捨てても構わないぐらい。 「どうする。新一・・・。どんなに俺達が止めても、人の数だけ、人の欲の大きさだけ、続けられる。」 人が死んでも生きていても。欲がなくなる事なんかないのだから。 快斗だって、欲が尽きる事はない。新一に関しての欲は尽きるどころか増えてたまるばかり。 今だって、誰とも顔をあわせない争いから離れた場所で二人でひっそりと過ごしたいぐらい。 そんな事をしたら、遠くで送っているであろう争いの事を感じて悲しむのはわかっているから、新一が悲しむことはしたくないからしない。 「でもね・・・。我慢するのも結構辛いんだよ。」 二人で一人。だけど、二人分のものがある。ただ、有翼人としては二人で一人前。 でも、快斗にとっては新一となら二人で一緒でも構わない。 「また、今日も争いは止まる気配なしだねぇ。」 毎日愚か者で溢れかえっていて嫌になる。快斗はふぅと溜息をつくのだった。 ほら、今日も遠くからかすかに聞こえてくる指導者の叫び声。村から上げられる狼煙や飛び交う精霊達。 「・・・ん・・・ぃと・・・。」 「あ、起きた?」 まったく、迷惑だよねと遠に見える土埃を見ていた。 「また・・・はじまるのか・・・。」 新一は、ここずっと争いが始まると目を覚ます。 「どうする?」 「・・・行く。」 一人でも多くの人が生き残れるように。そして、平和な日常で過ごせるようにと。 だけど、そんな新一の願いも空しく、毎日がくりかえされるのだけれども。 新一は決してやめることはなかった。それに、快斗も無茶しない限りは手伝うのだった。 少しでも長く、新一と一緒にいたいということもあったが、何かの予感ともいうか、側を離れたら失ってしまうような感じがしてならなかったのだ。 ここ最近その不安は強くなる一方だ。 「行こうか・・・。」 「・・・うん。」 空に舞い上がる。一対の翼を広げて、二つの影が争いの中心へと向かい、飛ぶ。 どうしたものかと、頭を抱える。 「長様。あまり悩まないで下さいませ。」 長の前に座るのは、長い黒髪を靡かせた、独特の雰囲気を持つ美女。 彼女は、先代を継いだ新たなこの村の預言者。つまり、魔女である。 「悩むに決まっている。」 この村を、世界を救う事の出来る力を持つ二人の者。この前まで知らされていなかった事実を知り、長は頭を抱えていた。 「はっきりと、未来が見えたのはこの前。だから長様へ伝える事が遅れて申し訳ございませんでした。しかし、未来は変えられません。その力を持つのは、神だけ。」 長は重い息を吐き、どうしたらいいのかと、そればかりつぶやいていた。 「私も、未来がわかっているのなら変えたいのですが・・・。」 予言をする魔女には、そんな力はない。 「神は何の為に、彼等にこのような重い試練を与えなさるのでしょうか・・・。」 ねぇと、魔女は背後にある気配に問う。 「気付いていたの・・・。」 「気付くわ。魔女だもの。」 「そうね。私も気付くものね。魔人だもの。」 気配には敏感だものねと、互いは苦笑していた。 「私も、こんな事になるなんて思ってもいなかったわよ。」 あの時のあの愚かな人の願いがこんな事になるなんて。 「何時の時代も人は愚かな生き物だということよ。」 「そうね。」 重い沈黙が続く。 「本当に・・・。・・・本当に、未来は変えられないのかね?」 「・・・変えられるのなら、それは神だけ。・・・彼等次第ですわ、長様。」 これから起こる未来。 もしかしたら、世界が崩壊するかもしれない。だが、それはこの地で生きる者達の自業自得だ。 気がつかない愚かな者達の集まりだから、神から裁きが下ったのだと諦めるしかない。 「わたしとて、彼等の幸福を願っていたのだがな・・・。」 どうして、彼等の幸せを邪魔する事ばかりが起こるのだろうか。 魔女も魔人も部屋を退室し、外へ出た。 これから起こる最悪ともいえる事態を見届けるために。 そして、新たな神の誕生を見届け、世界の行く末を見届けるために。 今にも争いが始まろうとしていた。 「お前達の居場所もなくなるな。ごめんな。」 側に寄ってきた妖精に辛そうだが笑みを見せて、新一は言う。 それに、妖精は首を振って、新一の頬にキスをした。妖精なりの親愛の証であり、新一を励ますつもりらしい。 まぁ、それはいつもの事なのだが、新一の事が大好きな快斗にとっては、いつも見ていて落ち着かない。 その事に気付いていてわざとからかう妖精もいれば、気付かずに首をかしげる妖精もいた。 この妖精は後者の方だったようで、首をかしげて、どうして快斗が眉間にしわを寄せているのか考えているようだった。 それを見たら、何も言えなくなって、自然と眉間から皺は消える。そうしたら、妖精もにっこりと笑って、快斗にも頬にキスをするのだった。 それが、その妖精からの加護の証でもある。 頑張れといわんばかりに手を振って、妖精はふわっとその場から消えた。 「さて。彼等にはお帰り願いますか。」 「そだね。」 快とが支えて、新一が言葉を紡ぐ。 この世界では、言葉は様々な魔力を持ち、新一が使えば、それは一つの呪文となる。 「争いの心を浄化し、平和を愛する者となれ。」 一人でも多くの人が血を流さなくてもよいようにと、新一は祈りを込めて力を使う。 そして、今日も止める事が出来たのだ。 だが、まだこの部隊は余興であり、本体がひっそりと近づいている事にまだ誰も気付かない。 「お疲れ様。」 いつもの場所に戻ってきて、新一を腕で抱きしめて、よしよしと頭をなでる。 どうやら、新一は頭をなでてもらうのが、両親や快斗の両親によくされていたので、そのぬくもりを覚えているからなのか気持ちがいいのか、大人しくしているし、ご機嫌になるのだった。 「少し休む?」 「うん。快斗は?」 「新一が寝たのを確認してから寝ます。」 「む。今日は快斗が先!」 いつも自分が先に寝ていて気にしているのか、それとも別の理由があるのかわからないが、今回は必死に力を使った後だというのに眠たくなるのを堪えて快斗の顔をじっと見ているものだから、快斗も降参して眠る事にした。 「一緒に寝よ。」 その方が暖かくていいしと、快斗は新一の身体を抱き寄せて、気の幹を背中にして座った体制のまま目を瞑る。 「・・・しんどくないのか?」 「新一がいたら大丈夫。」 「・・・。」 「あ、何その目は。本当なんだよ。もう、新ちゃんがいたら癒されるんだよ〜。」 すりすりと、動物のように新一の頬に擦り寄ってくる快斗。人のぬくもりと言うものは温かくて、ぎゅっと快斗の背に腕を伸ばしで抱きついた。 「あったかい。」 「新一もね。さ、寝よ寝よ。また、来たら大変だから。」 煩い人達はきっとあれだけじゃなくてまた来るだろうから。休める時に休んでおくのが一番なのだ。 「おやすみ、快斗。」 「おやすみ、新一。」 頬にキスをして、今度こそ快斗も眠りについた。 快斗の寝息が聞こえたのを確認した後、新一もやっと目を瞑ったのだった。 あの時のように失うような恐怖が忘れられず、こうやってこのぬくもりを感じていないと怖くてしょうがないなんて、快斗には言えないから。 だけど、どこかで快斗も新一が怖いと思っていることに気付いている。だから、存在を確認したい為に先に眠ることなんて事、したのだと思う。 「・・・ありがと。」 弱い自分でいたくないのに。もっと強い自分でいようと思うのに。 快斗の存在は大きくて、きっと快斗がいなかったら自分は生きていけないかもしれない。 それだけ、快斗に依存している。いや、気付こうとしなかっただけで、快斗は大切だから気付かないふりをしていたのかもしれない。 「・・・きっと、俺はずっと快斗の事が・・・。」 その先の言葉は、風の妖精の悪戯か、吹き消された。 残ったのは、静かに寝息を立てて眠る新一と、新一を抱き寄せたまま眠る快斗の姿だけ。 まるでその場所だけ切り離されて、止まった時の世界にいるかのようであった。 新たな戦いの火蓋が落とされた。 それは、最初から計画されていたが、一部のものしか知らない計画で、ほとんどの者から知られることなく実行された。 そして、気づいた時には敵は近く、新一も眼が覚めて感じた時には戦う為に剣を交え、血を流す者達が現れた後だった。 「どうしようっ!」 「止めるんでしょ?急ごう。」 新一のせいではないのだが、新一は自分を責めるから。快斗はできる限り協力するつもりで、新一が悲しむのを宥めながら空へと舞い上がった。 争いの中心の上空へ来た時だった。 力を使おうとした新一の補佐をしているときに、こちらへの視線に気付いて快斗はその先を見た。 そこには、こちらを見つけて狙う愚かな人の姿があった。 力を使っているときは安定が悪く、下手をすれば自分に還る。だから、下手に動けずにいたから、遅かった。 「平和であることを願っ・・・・・・ぃ我の願いを聞き入れ、神よ我に・・・ち・・・から・・・を・・・。」 なんとか言葉を言った後に、ぐったりとする新一。それはそうだ。いくら快斗が除けたといっても、一瞬の判断の遅れで、新一に怪我をさせてしまったのだ。 「新一っ!」 横腹から滲む紅い命の水。 すぐに狙った者は動けないように力で押さえつけているから心配はない。 「くそっ。今回の狙いは俺達だったんだ。おびき出して、止める邪魔な俺達を・・・っ!くそっ!」 近くの高めの場所で降り立ち、新一の怪我の具合を見る。 本当に掠っただけで、傷が出来ているぐらいで、命の別状はなさそうだが、力を使った後という事で体力が消耗している時なので、油断は出来ない。 「新一・・・嫌だよ、死なないでよ。」 自分の着ている服を破って怪我の手当てを施す快斗。 気を失っていた新一だが、快斗が手当てで最後にぎゅっと結んだ時に少し痛みが走ったのか、目を覚ました。 「・・・ぃと。」 「あ、新一・・・。良かった。」 傷に響かないように気をつけながら新一の背に腕を回す。 なんとなく状況がつかめて、新一はここへ来る前に、快斗を失いたくないと思って、快斗の温もりに寄り添って寝ていた時。 ずっと忘れていた。忘れたいと思っていた両親が言っていた話を思い出したのだ。 そして、自分はどちらかを選ぶ。快斗もまた、選ぶだろう。だけど、まだ彼は思い出していない。 だから、新一は自分が先に選ぶ。 どちらも残る事も消える事も望まないけれど。残って快斗のいない世界で生きて行くのは辛いから。 快斗に先にごめんと言って、何を言ってるのと苦笑している快斗の顔を見て、新一もまた苦笑して、頬に手を伸ばした。 どうしたのという感じでいるが、快斗は新一の好きなようにさせてくれるので、これが最後だという事もあり、新一はそのまま最後の力を振り絞って快斗の顔に自分の顔を近づけた。 そして、決して新一から仕掛けることのないキスをしかけた。 額でも頬でもなく、快斗の口へ。 離れた後も突然の事に驚きながらも、うれしそうに微笑んで、一層新一の身体を抱きしめた。 「俺、快斗が好き・・・。好き・・・なんだ。」 「俺も好きだよ。新一が一番大好き。」 言えた事。そして、それが聞けたことが新一にとって満足で、弱弱しい力だが、快斗の肩を押して快斗を見て、ありがとうと言って微笑んだ。 そうして、ごめんと小さくもう一度言って、再び快斗の口にキスをした。 これが最後だから。 すうっと、快斗の口から離した時、新一の体が散りのように消えてしまった。 「えっ・・・?し・・・ん・・・いち・・・?」 そして、ふわりと、快斗の背中には自分の持つ羽根よりも立派な純白の一対の翼があった。 「どういう・・・こと・・・?」 背中には小さくてみすぼらしい片翼しかなかったのに、立派な純白の一対の翼があり、腕に抱いていたはずの新一の姿はない。 ただ、先ほどまで新一が着ていた服を自分の腕が攫んでいるだけ。 「どこ・・・新一、どこいったの?!」 どこだと、立ち上がって、新一の姿を探そうと飛び出そうとしたときだった。 「・・・このときがきたのか・・・。」 背後から聞こえる声。そこにいたのは滅多に屋敷の奥から出る事のない、自分達の村の長だった。 「どういうことですか!」 知っているのなら教えてくださいと、長の服につかみかかり、切羽詰った様子で叫ぶ。 「・・・一つの予言があった。お前達が生まれる前から。それは、世界を変える力を持つ者が現れるということ。」 そして、最近わかった予言が一つ。 「・・・神の代替わり。新たな神が即位する。・・・片方の翼を持つ者。一人は新たな神として。一人は神を支える生贄として。・・・先に彼が選んだのは、お前を神にし、生贄として翼と力を与える事。」 そんなと、快斗は聞いた事実を理解したくないと耳をふさいだ。 「嘘だ。そんなの嘘だ。」 新一が消えていなくなるなんて。そんな事があるわけがない。 新一とはずっと二人で一緒にいるって言った。 「俺は、そんな話知らない!」 「そうね。貴方は知らされていない。知らす前に、自体が変わったから。だけど、彼は話を聞いていた。その夢をさっき見た。だから、選んだ。」 はやく神を立てないと、世界は壊れるもの。 現れた魔女が冷たく快斗に言う。 「新一がいないんだったら、こんな世界なんていらない。新一をかえしてよ。翼も力もいらないから。新一を、新一―っ!!」 膝を突いて泣き叫ぶ快斗。だけど、どんなに叫んでも新一が帰ってくることはない。 この運命を選び、この運命が未来として現れた。 快斗は神としてこの世界で生きる事となる。 「・・・そもそも、こうなったのは私のせい。だから、貴方が望むのなら、世界を壊しても構わないわよ。」 ただ、この世界と貴方を守ろうとした彼の意思を無駄にする行為だけどね。と、新たに現れた女の姿。 「・・・誰だよ、あんた。」 「私?私は魔人。愚かな人の願いを過去に叶え、それが影響して、貴方達の運命の選択に強いられた原因といえばいいのかしら?」 ぎっと睨みつける快斗。その様はまさに獣のようで、死をも恐れない危ない何かを秘める者の目。 「でも、続きがあるわ。」 「そう。どうするかは、この後は神次第。つまり、壊す事も創り返る事も。」 「そして、彼の魂を取り戻す事も。」 どういうことだと、少しは希望があるのかと、快斗の目が少し緩んだのを見て、微笑む魔人。 「生贄が提供するのは翼と力。つまり、魂と肉体は関係ないもの。だから、呼び戻す事は可能なの。ただ、それが出来るのは神だけ。」 「俺だけ・・・?」 長が快斗に言う。魔女も魔人も言う。なら、まだ希望はあるのだろうか。その話を信用してもいいのだろうか。 新一とまた一緒にいる事は出来るのだろうか。 「願えばいい。名を呼べばいい。この世界の理はこれから全て貴方次第。」 なら、新一と二人だけの世界にいられるかもしれない。 快斗は目を閉じて、新一を顔を思い浮かべて何度も名前を呼んだ。 名前は一種の呪文。縛る事も解放する事も出来る魔力を持つものだと言っていた。 なら、新一という名前はどんな魔力を持つのだろうか。 呼び戻す力があるのだろうか。 新一、もう一度会いたい そして、ずっと一緒にいたい 新一が好きっていってくれてうれしかった なのに、新一がいなくなったら悲しさでいっぱいで うれしさは飛んでいってしまう だから、帰ってきて 新一 新一、新一、新一っ! とっくに争いは終わっていて、長は村へ戻って村の者達を迎えないといけないと、後のことは魔女と魔人に任せて後にした。 きっと、二度と彼等は村に来る事はないだろうと思いながら。 あとがき 10000HITお礼品が、なんと三作目になってしまった・・・。 気付いたらついつい書いて、ついつい長編に・・・。あわわ。 しかも、展開がだんだんと暗くなっていきますし。 でもでも、次回作があれば、それは甘々でらぶらぶな予定なんですよ。これは本当。 戻る |