「はぁ?青子が誘拐された?!」 なんでまたと、久しぶりに家に帰ってきた快斗は、知らない間に起こった事件に声をあげた。 本当に、どうしてお隣の幼馴染が誘拐されたのか意味がわからない。 「人違い、みたいなんだけど、そのせいで、酷くお隣さん沈んでしまって・・・。」 いつもの勢いがなく、ただ心配で何かしようと思ってもすることが出来ず、祈る気持ちで警視庁にいるらしい。 人違いには気をつけて 「人違いって、本当は誰を?」 「毛利小五郎って知ってるわよね?」 「ああ。・・・まさか、彼女?」 「ええ。」 事件を調査する探偵に握られた証拠。まだ探偵は気付いていないから、それを回収しようとさらに罪を重ねる犯人だったが、似ていて間違えてしまったらしい。 最近、何故か彼女と仲が良い幼馴染で、昨日も一緒に出かけたらしい。 本当は二人とも連れて行かれそうになったが、目的の人物は空手で犯人を蹴り飛ばした。 なんとか気絶しなかった犯人は青子を連れていってしまったらしい。 彼女も追いかけたようだが、車には適わない。 ナンバーはない車だったので、黒い車としての特徴しかわからない状況。 今ももともと追いかけていた一課の人間が捜査しているが、手が足りないのが現状。 同時に起こっている別件でも忙しいらしい。 「それで、お隣が静かだったんだね。」 帰ってきたら、いつも目ざとく見つけては声をかけてくる幼馴染の姿がなく、おかしいなとは思っていたのだ。 「でも、犯人はすぐに見つかると思うけどね。」 「どうして?」 「彼が必ず見つけて貴方の元へ連れてきますからって、ほら、貴方が今押しかけている新一君が中森さんの旦那さんに言ったから。」 「へ?」 それを聞いて間抜けな声が出て、また危ないことするつもりだと、家を飛び出した。 「まったく、忙しい子ね。」 にこにこしながら、快斗を止めない母。だけど、いつも心配している。夫と同じようなことにならないかと。 そして、たまに会う友人の息子。・・・新一が危険の中に飛び込む度に祈る毎日。 「貴方も、あの人と同じね。」 同じものに惹かれてやはり親子だと思う。 「さて。」 頑張っている彼等の為に、美味しいご飯をご馳走しようと立ち上がった。 終わる頃には家に来るように連絡を入れるつもりで。 そういうところは強引で強い母だった。 かかってきた電話から、新一はすでに警視庁にいることを知って、真っ直ぐ向かった。 電話の相手は竜で、今日は一緒にいるらしい。 ま、無茶する彼なので、一人は必ずついて行くのでわかっているが、側にいない自分が悔しくてしょうがない。 そして、警視庁について、出てくる人物を見て声をかけようとして失敗した。 「お、快斗。」 出てきたのは間違いなく新一だ。そして竜と高木という刑事。 「どうした?あ、俺がわかんねーのか?」 おーいと目の前で手をひらひらとする新一。 その手をがしっと捕まえて、どうしてそんな格好してるのと迫った。 「どうしてって、じきに人違いだって気付くだろうし、男より女の方が油断するかなって。」 そう、目の前の新一は可憐な少女の姿になっていた。 普段は嫌がるのに、捜査のために、それも幼馴染の頼みは断れない彼が引き受けたのだろう。 それがまた似合っていて、それを最初に見たであろう竜がうらやましくてしょうがない。 「それに、お前の大事な幼馴染だろ。ちゃんと見つけてきてやるから。」 快斗の心情はわかってないらしく、青子の事を心配しているのだと思っている新一。 快斗からしてみれば、青子は刑事の娘であって度胸はあるし、いざとなったら身を守る術を持っている。 それに、下手に犯人を刺激してはいけないことぐらいわかっているから大人しくしているだろうから、そこまで心配していない。全然心配していないことはないが、彼女よりも新一の方が心配でならなかった。もしも何かあれば、己の身を犠牲にしてまで守ろうとする人だから。 そんなところも好きになったのだけど、やっぱり怪我はしてほしくない。 「俺も、ついていくからね。」 「そうだよな。心配だもんな。」 やっぱり、新一が心配ということではなく、青子が心配と思われているようだ。 でも、心配なのは事実なので曖昧に笑ってみせるだけで、話を止める。 「で、場所はわかってるのか?」 「電話があったんだよ。『毛利小五郎の娘に例の物を持たせて米花駅まで来い。』ってね。女の子一人ってところが無理な要求だよね。」 だから、新一が代わりに行くということになったらしい。 いくらあの男でも、娘が大事でそんなことをさせるかという言い分。わからなくはないが。 新一第一主義な快斗にとってはこの上なく迷惑なものであった。 「警察は絶対に駄目らしいから、お友達ならいいかなって。」 だから、付き添いと言う竜に俺もと快斗も立候補する。 「ということなので、これ以上大人数は目立つので、本当に大人しくしていて下さい。何かあれば連絡をしますから。」 そういうが、目暮にとっては、新一も大切な息子同然の子。昔から知っていて大事にしているので、危ない事にすぐ首を突っ込んでいってしまう彼にいつもはらはらさせられている。 しかし、快斗のことは知っていたので、今回は手を引いた。 下手に犯人を刺激して、青子の命を危険に曝したくなかったからだ。 だって、新一が背を向けて歩き出したとき、振り返った快斗とはじめて顔を見た竜という青年が見せたあの笑みにより、誰もその場から動けなかったから。 こうして、警察抜きで乗り込むことになった三人。 「お前も、凄く変わるよな。」 「キッド程じゃないよ。」 「どっちもどっちだ。」 背後で何をやってるんだと振り返れば、警察に圧力をかけている二人を見て、ため息をつきながら引っ張ってきたのだ。 「だいたい、抑えとけよ。そんなもん。周りに迷惑だろ。」 「だから、普段抑えてるじゃん。そんな、普段からキッドやってたら肩がこるって。」 「そりゃそうだ。」 「さて。場所は分かってる?」 「○○ビル。」 「占いどおりの方角だね。間違いなさそうだ。」 どうやら、方角も占えるらしい。というか、何時占ったのでしょうと疑問に思ったが、答えてくれないだろうし黙っていた快斗。 「さて。迷惑なおばかさんにお灸を吸えますか。」 犯人はまだ気づいていなかった。 敵に回してはいけない者達を敵にまわしてしまったことに。 彼が無事に生きてこの世にいられるかは、彼自身の行動によるだろうが、きっと地獄を見ることは間違いないだろう。 彼等が行ってから数十分が経った頃。やはり心配な面々は大人しく待機しながらもいらいらしていた。 そんな待っていた目暮達のもとへ、一本の電話が入った。 「はい。」 『あ、目暮警部。』 「新一君か!どうだった?!」 電話の相手は新一で、何かあったのかと思えば違った。 「中森警部のお嬢さんは無事に保護しました。犯行に及んだ者達も縛っておきましたので、引き取りにきてもらえませんか?」 「あ、わかった。今すぐ行く。」 その後、言葉を続けようとしたが電話は切れた。しかし、犯人を一刻も早く捕まえなければと急いでパトカーに乗り込むのだった。 その頃、快斗は青子を連れて中森家へ行き、新一は竜と共に家に戻っていた。 かなり新一と一緒じゃなくて渋ったが、新一や竜は幼馴染の仕事だろと言って快斗に行かせた。 それに、中森も竜や新一みたいな部外者より知り合いの方が感情を出しやすいだろうから。 それでなくても、あの人は探偵というものを嫌っているから。 快斗からしてみれば、新一は認められていると言うけれど、やはりここは快斗だろうと任せた。 最後まで渋ったが、幼馴染も別の意味で大切なんだろう。大人しく帰っていった。 「でも、すぐに戻ってきそうだよね。」 「そのへんはな。だが、中森警部に少し捕まりそうだけどな。」 「それもそっか。大変だね怪盗君も。」 暢気に話をしながら二人は工藤邸へと戻るのだった。 こうして、誘拐事件は解決した。 しかし、犯人達はそれはもう完膚なきまでにやられており、いったい何があったのか目暮は問うべきかどうか悩んだが、結局うやむやのままに処理された。 ちなみに、その原因は新一に向かっていったために、快斗と竜が少しばかりぷちっといって徹底的にお仕置きなんてものをした結果だったりする。 「貴方が無事なら他の人のことはどうでもいいわよ。」 少しばかり擦り傷を負った新一の手当てをするお隣さんも、快斗達と同様に何気に酷い事を言っていたのはお愛嬌。
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