平和な地『エターナルグラウンド』。 絶対的な力を持つ神が君臨する今だからこそ、その平和は保たれていた。 しかし、神によって服従させられている十の使者はよい顔をしない。 元々、神は強かったが、それ以上に強くなれたのはこの十の使者の力のおかげなのだ。 そんな十の使者もまた、平和に好き勝手に過ごしていた。この地では光の当たらない闇世界とも呼ばれるその場所で。 そんな彼等の前に神が姿を見せた。そして、彼等の名前を言い当てて、己の服従者として縛りつけた。 彼等にとって名前はとても重要なもので、神のように強い力を持つ者に対しては、一種の呪としての効果を持ち、縛られてしまう。 そんな彼等は、最初は睨み合い状態だったが、次第に大人しくなって、命令を聞くようになった。 Chapter 1 名前を呼ばれて、十人は神である優作の前に姿を見せた。 「来たか。」 そう言って王座から立ち上がった優作。腕には何かがあり、それを大切そうに抱えている。 「用がないんだったら、帰るよ。」 「これでも、暇ではないんでね。」 いつもなら一人だったり二人だったり、必要な人数をそれぞれ名前で呼ぶのに、今日は十人全員だ。いったい何事かと思って来た彼等は、優作の言葉を聞いて、目が点になる。 「私の三人目の息子だ。」 そう言って、近づいてきた優作が彼等へと見せる。 今は眠っている赤子。優作の息子にするには持っていないぐらい綺麗で、強い光を身に秘めた赤子。 「三人目・・・。よくやるよ。」 「兄になるあの二人よりは、いいけれどね。」 十人は上の二人の事はひどく嫌っている。成長するにつれ、どんどん嫌いになっていく。性格もだが、何より内に持つものが気に入らないのだ。 それに、自分達をただのモノとして見ているところなんて、最悪だ。 この赤子はどうなるのだろうかと思いながら、その日は帰った十人。 半年が経った。 大分単語ではあるが、言葉を発するようになった子供。 あの兄達とは比べ物にならないほど賢い子供。すぐに十人に懐いた。 最近では住人が子供・・・新一の面倒を見るようになった。守るようには頼まれたが、もし兄のような者であれば無視するつもりだった彼等だったが、成長するにつれ、もっと新一の事が大切になり、自ら新一の側にいようとするようになった。 「かーと、きーど。」 今でははいはいしながら舌足らずな新一が名前を呼んで近づく。 その姿を見て、笑みを見せて二人が手を伸ばす。抱き上げられて、喜んでぎゅうっと腕を伸ばす新一。 この時になって、十人、とくにキッドとカイトはあの男に名を奪われた事に喜んだのだった。 そこへ、姿を見せた二つの影。 「シホ、アカコ。どうした?」 「キッド、カイト。仕事よ。」 「・・・まったく。」 「嫌だなぁ。」 新一と離れるのが嫌な二人。しかし、今の彼等には神の言葉は絶対に服従して従わなければいけないもの。 「早くやって帰ってきなさい。」 「そうですね。では、いってきますね、新一。」 「また、あとでね。」 そう言って、姿を消した二人。 「珍しいわよね。」 「そうね。」 あの男達が興味を持つ者が出てくるなんて。はじめてかもしれない。 「私達も同じようなものだけどね。」 抱き上げれば、腕の中で笑みを見せる子供。そして、呼んでくれる名前。 あの男ではなく、彼に呼ばれる名前はとても心地よい。 もうすぐ十二歳になる新一。 今ではすっかり、父よりも十人に懐いている新一。寂しい反面、少し心配になってくる優作であったが、新一の笑顔が消えないのであればと、気にせずにいた。 しかし、時が来てしまった。 「どうしたんだ?ケンジにジンペイ。」 仕事で出かけたばかりのはずの二人が姿を見せたので、首をかしげて二人に近づく。 「何でもないよ。」 「そうだ。気にする必要はない。」 いつもと変わらない二人。 ふと、背後にも気配が現れて振り返る。 「お前等も・・・。確か今日は・・・。」 優作や兄達や自分の誕生日には、必ず十人そろって見せる儀式があり、それで祝福する。その用意で忙しいはずで、本当なら寂しいが誰もこの部屋に来るほど余裕はないはずなのだ。 それなのに、目の前にはケンジとジンペイ。背後にはワタルとシホとアイ。 「今日は、皆で出かけるから。」 そう言って、五人が新一を中心にして五角形を作るように立つ。そこで新一は気付いた。 十人いる中で、五人揃えば結界や移動させるといった、大きな術を確実に使える事が出来るという事を。 「まさか、前らっ?!」 「大丈夫だ。」 「一瞬だからさ。」 「すぐに、他の五人も来るわ。」 「嫌なら目をつむっていればいい。」 「突然、ごめんね、新一君。」 五人はそれぞれ一言いい、その魔法を発動させた。 そして、一瞬で別の場所へと移動した。 そこは確かに大きな屋敷、自分が今までいた場所に近いけれど、外の景色には光がまったくない場所。 「まさか・・・。」 「そうよ。闇世界と呼ばれる、エターナルグラウンドの端にある場所。アンダークラックよ。」 「僕達が本来いた場所だよ。」 「時間は丁度ね。」 その場所には、アカコとコナンとベルモットがいた。 まったく、状況がつかめない。今、いったい何が起ころうとしているのか。そして、起こってしまっているのか。 ふっと、動揺している新一のすぐ背後に見せた気配。 それは自分がよく知るものだった。 振り返ると、やはりそこには彼等がいた。カイトとキッドの二人がいた。 「カイト・・・キッド・・・。いったい、何が・・・っ。」 もしかしたら、と考えてしまうこと。前々から、彼等は父や兄達の事を好きではなかった。どうしてかと父に聞くと、苦笑しながら、嫌われてもしょうがないことを私がしてしまったからだと答えた。 だから、もしかしたらと。 「あの男に賭けを仕掛けてきたのですよ。」 「そうそう。五年以内に、新一を自分の手元へ連れ戻せたら、城へと行き着けばそちらの勝ち。駄目だったら、あの男の負け。・・・契約から解放される。」 彼等を縛る見えない鎖。今、彼等をそれを断ち切ろうとしている。その為に優作が彼等を縛る名をなくしてしまわなければいけない。つまり、一度断ち切り、彼の記憶からその名を消し去る必要があるのだ。 「そのためには、不安定にさせる必要もあるし、自らこの忌々しい鎖を切ってもらわないといけないし。」 新一に恨みはないけれど、付き合ってねと、背後から抱きしめるしっかりとした腕。 「嘘・・・。」 「嘘ではありません。ま、新一が傷つくのは私達も心苦しい限りですが、いい加減あの男に付き合うのにも飽きましたしね。」 へなっと座り込む新一。カイトもそれに合わせてしゃがむ。キッドも新一の前に立って、腰を下ろす。 「ですから、しばらく付き合って下さいね。・・・貴方には彼等も危害を加えませんから。光のない場所でありますが、生活には不便なことはないと思いますから。」 いつもの、キッドのあの笑顔。 でも、やはり安心できなかった。何かが少しずつ違っていっている。 それは、勘違いなんかじゃなかった。
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