だるいが、今日も仕事

今日の死人名簿に載せられた名前は少ない。

まぁ、この前はハードだったので、上が上手く割り振ったのだろう。

「え〜っと五人かぁ。28歳男、会社員。お、とうとう来るんだな、其野江のじいちゃん。」

何故か死神が見えるので、よくお茶のみ友達として仲良くしてたおじいちゃんである。

普通ならいいのかと思うが、ここ最近では老人の一人暮らしで寂しい思いをしている者が多いので、別に死神だろうが話し相手がいる方が楽しいからいいらしい。

「じゃぁ、賑やかになるかな?」

どっちにも行かず死神界に留まりそうで怖いが。

「それと、10歳少女事故死。うーん、偶然を装って助けちゃ駄目かなぁ?」

突然名簿に載ったらしいし。ここで事故死にならなければ、少女は夢を叶えられる。

「考えとこっと。おっ、婚約者の片割れ。こいつ、面倒な事になりそうだなぁ。」

だいたい、結婚間じかの女というものは恐ろしい。

「トラブルが起こるかもねぇ。」

仕事が増えるのはご遠慮したいがと、最後の資料に目を通す。

「事件に巻き込まれ、事故死。高校生・・・新一・・・?」

資料の中にある他の内容を読んでいけば、間違いなく彼であると確信できた。

「・・・まじで?」

かつて、まだ幼い新一に出合った事がある彼は、どうしたものかと少し考える。

 

 

 


 番外編 真っ黒男と白天使

 

 




人間世界へ入ってきて、会社員を案内して仲良くなったじいちゃんと話をして、現在三人目のところへと向かう所。

結局、突然運命が変わったのなら、再び突然でも問題はないと、人で言う奇跡を起こして見せましょうとふよふよと飛んでいる時。

「新一も助けたいけどなぁ。」

一日に二人も助けるのは大丈夫だろうか。さすがに、無理が通じず、自分以外の死神に連れて行かれる可能性がある。

「さて、どうしたものか。」

前までは忙しかったが最近はとっても暇を持て余している。10に満たない人数だからそう思うのだろう。

忙しい時は100単位だから。

例をあげるのなら、戦争や伝染病などでの本人が望まない、不慮の事故以外の死。

「久々に、新一と話をしたいかもねぇ。」

会うまでに考えておこうと、移動をはやめる。

 

 

 


そんな死神バードが新一を知っている理由。

有名人の二人の親を持つ少年は、可愛さもあってよく狙われた。

その誘拐された先で、犯人の一人の恋人が病持ちで、お金が必要な為に誘拐をした。

子供は純粋だったから、感覚でその犯人に自分を殺すような邪悪なものはないと感じ、大人しくしていた。

バードはふよふよと、その犯人の恋人を追いかけた。

どうやら、恋人がしでかしている事に気付き、慌てて来たのだ。走れば命を縮めるかもしれないというのに。

その時に、犯人と新一と警察関係者と遭遇した。

「おぉ、すごいねぇ。」

人がいっぱいだと空からのんびりと見学中のバード。

何せ、彼女が死を迎えるのは、手術が間に合わなかった時。まだ、間に合う可能性があったので、大人しくその時がどちらに転がるにしろ、ふよふよと見張るようにいたのだ。

そこで、新一と目があったのだ。

「・・・誰?」

そう、言葉にしなくても口がうごいた。

在る意味、バードは驚いた。しっかりと見えないはずの自分の姿が見えているのだから。

しかも、通常は怯えるか泣くかの状況にあるはずだというのに、新一は泣くことなく、大人しく状況をじっくり見定めながらそこにいる。

「・・・すごいね・・・本当・・・。」

人の多さにすごいと思うより、もっとすごいと思う。

さて、どうしたものか。見えていても、他の面々には見えないのだから、仲間に入っちゃう?

まだ時間があるのでそれでもいいやと、近づく事にした。

周りでは犯人と恋人と警察がいろいろやっているが、犯人の腕の中に大人しくしている新一の側にバードは降りてきた。

「いったい、どうなってるわけだい?」

犯人には聞こえないが、新一の声は聞こえる。不信に思いながらも、誰も目立つバードの存在に気付いていないので、彼に頼めばどうにかなるかもしれないと考えた。

だから、口の動きだけで新一は答えた。

誘拐されて、今警察と恋人の人が必死に説得中なんだそうだ、と。

よく見ているねと感心する。子供の割には、周りを良く見ている。そして、いつも演じている。

さすがは、女優の息子という事か。バードはたいていの人物のデータは頭に入っている。

突然、死の名簿が変わる事もあるからだ。できる限り、名前と生年月日を覚えておくのだ。

姿を見て会えば、自分はこの人だとわかるから。

まぁ、それはすべて今までの地道な努力の賜物なのだが。

「それで、何かしたら良い事とかって、あるわけ?」

どうやら、協力してくれるらしい態度を知り、じゃぁと新一は頼む。

得体の知れない奴でも関係はない。今は、誰もが助かる方法を選ぶのが一番だ。

いくら犯人を見つけても、追い詰めて死なせてしまえば、立派な殺人だ。

もし、自分が言わなければ、その人が死ぬ事はなかったから。

だけど、やはり犯人には罪を改めて欲しい。

とくに、殺人は悲しい事が繰り返されるだけ。何かが失われると同時に、さらなる何かを知らぬ間に失うのだ。とくに、大切なものが。

その事をよく知っている。

人の命はとても尊く、誰にも殺すという権利はない。殺されて良い人はきっといないはず。そう願いたい。

だから、新一はこの犯人を捕まえたい。

このままだと、この犯人の恋人は確実に命を落としてしまうから。そうすれば、犯人も自殺を選ぶかもしれない。

「男からこの腕を解いて助けて。そして、男がもっているあれを、取り上げて。」

突然子供が話し、何だと子供に視点を変えたとき、突如風が吹き、ひるんだ好きに子供が誰かに引かれるように犯人の腕から離れ、男がもっていたものもなくなっていた。

 

 


男は逮捕されたが、新一が必死に訴えて、有罪として牢屋に入る事はなかった。

今、新一の頼みでお金の援助を得た恋人は手術を受けた。

そんな時に男がいなかったら、助かる命も助からないと新一が主張したから、困りながらも、自殺されてはせっかく援助しても困りますからねという優作の言葉で、警察はそれ以上言わず、まずは援助のお金を働いて少しずつ返す努力をするように言った。

本当は、こんな事はいけないのだが、新一本人がかたくなに言い、恋人が死んだら警察のせいだと散々言い、認めさせたのだ。

自分は誘拐されたのかもしれないが、逃げれても逃げなかったのだと。だから、わかっていて一緒にいたのなら同罪だといろいろ言う。

新一の年齢には思えないほどしっかりとした意思で言う為、警察がおれたというところ。

そして、この事件は何事もなかったかのようにもみ消される事となった。

 

 


それから数年後。

死神にとっては数日は人にとっては数年。感覚が違う。

たまに、新一を見ていた。

よく、新一の現場での死人を担当する事もあったからだ。

だが、たまに死ぬはずだった者を助けて死が無効になる事もあった。

そんな時、すごいなと思う。

名簿を書き換えずに、運命を変えてしまうから。

そんな彼が、ある日突然死を迎える事となった。あれは驚きだ。

それに、あの彼が大切に思う人を思い、悲しそうにしているから、今度は助けてあげたいと思った。

いつも、人を助ける彼への、ご褒美かもしれない。

それからしばらく二人の様子を見ていようと決めた。

きっと新一は覚えていないだろうが。

ちょうど、今は暇を持て余しているから、いようと思う。

幸せそうに笑う彼の姿を見ながら、楽しくあの二人も含めて騒ごう。

現在自分は居座っている。

いつまで居座るかは死神界に呼ばれ、父の後を継ぐ時ぐらいまでか、それとも三人の死を見取るまでか。

できる限り側にいようと決めて、今日も二人と一人の日々の会話に入りながら、一緒に騒ぐ。

 





     あとがき

 出会っていても、新一さんの記憶には残っていません。
 第一に、知ろうにも知っている人が他にいないので余計にそうなるのかも・・・。
 このときからすでに失恋ですか、バードさん。
 というか、得体の知れない人に協力を頼むなんて。いいのか、新一君。
 快斗が知れば、どうしてそこに自分がいなかったんだと後悔するでしょうねぇ。
 そして、そこで自分が助けてどうのって考えている事でしょう。



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