今日こそはと、念入りに事細かにたてた計画。その計画表を何度も見直して、ズボンのポケットに押し込んだ。 そして、新一は出かけていった。待ち合わせの場所へと。 貴方に会う為に 待ち合わせの場所は米花駅前。相手はもちろん、初めて素顔で顔を合わせる相手。といっても、偽りの姿では何度もあった事があるのだが。 相手側のやるべきことが終わったことを知らせるメッセージを、今日という日に会えるかという言葉に答える為に向かう。 携帯の電源は切った。これで、警察から電話がかかってくる事はない。お隣にも言われて、今回は我慢して優先しようと切った。 さらに、事件体質であるが故に、人が多すぎず少なすぎずで、なるべく早く着ける道を選んだ。これももちろん、お隣に指摘されてだ。 これであとは会えばいい。会ったとしても、気配は絶対に分かる自身があるから、探してやると、意気揚々と出かけて行きました。 しかし、どんなに計画を立てても、彼の場合は無意味に等しいのかもしれません。特に、大切な日や約束などが関わる時は。 目の前で引ったくりがあり、犯人が自分に向かって逃走してきます。 無意識に身体が反応して、相手を足で引っ掛けて、蹴り倒してしまいました。 周りからはお見事と言われていますが、そんなことよりも盗まれた鞄をとって、被害者に返す方が先です。 その後に、今起こった事を警察に連絡を入れました。もちろん、忘れずに再び電源は切りました。たまに、大阪の探偵や彼を追う探偵から電話やメールが来て時間を潰されてしまうからです。 警察が来た事を確認すると、抜け出したいなと思いました。 警察が来るまでの時間。そしてその後に話をする時間。それを足すと、完全に時間に遅れてしまいます。だけど、無責任なことはしたくありません。 だから、後で話はしますから、用事があるから抜けてもよいかと聞き、なんとか抜け出しました。 駅前の着きました。頑張って走ってきました。しかし、時計の針は約束の時間より15分も進んでいました。 慌ててどこかにいないかと探してみましたが、自分が知る独特な彼の気配はありません。もしかしたら、怒って帰ってしまったのかもしれません。 「どうしよう。」 予定では10分前には着くはずだったのに。確かに事件に首を突っ込んだのは自分だから自業自得だ。やっぱり、見捨てられないのだ。 その後、新一は1時間、2時間と待ちました。日が暮れるまで、待ちました。 結局、5時間程待ちましたが、待ち人は来ませんでした。その間に、声をかけてくる男や女がいましたが、無視。しつこい男は蹴り倒して端によせておきました。気がついたら勝手に帰るでしょう。もしくは、邪魔だと思えば誰かがどこかに連れて行くでしょう。 そんな事を考えながら待ってました。戻ってくるかもしれないと思いながら。 側には、小さめの人の山が出来ていたりしますが、誰も見て見ない不利をしていました。それに、声をかける人も減りました。 だけど、彼は姿をみせませんでした。 やっぱり、帰ってしまったんだと、肩を落として新一は家に帰りました。 家に帰って、何もする気が起こらずにベッドの上に倒れ込みました。ご飯を食べる元気もありません。 嫌われちゃったらどうしようと不安でいっぱいです。だって、新一はずっと彼・・・あの怪盗の事が好きだったのです。 もっと早く家を出ればよかった。せっかく早起きもしたから、家にいないで出かければよかった。そうしたら、間に合っていたかもしれない。 そんな事を思いながら、新一は眠りました。 せっかくの約束。覚えていてくれたのに、自分が遅れてすっぽかすことになるんたんて。 寝起きが最悪な新一ですが、今日はすんなりと起きてはぁと何度目かのため息を零します。 新一が昨日会おうとしていた人は、ずっと片思いをしていて、ずっと己の戦いのために旅立った怪盗でした。 白いスーツにシルクハット。片眼鏡をした、気障な泥棒です。最初は変な奴だと思っていたのですが、いつのまにか好きになっていました。 最初はその気持ちがわからずにあたふたして一人どうしたんだと悩んでいましたが、お隣さんに相談してみてすぐにわかりました。これが恋なんだと。 恋には疎く鈍い新一に訪れたのです。しかし、相手は男で怪盗で、探偵の敵です。何より、相手のことは何一つ知りません。 だから、凄く悩んで諦めようとも思いましたが、それでも怪盗に会いたくて、そして話をするのが楽しくて一緒にいました。 最初は気障な言葉ばかりだった、作られた口調や顔が、たまに本来の彼だと思われるものに変わったりしていて、新一としてはとてもうれしかったのです。 そんな彼は、数ヶ月前に旅立ちました。目的を果たすために。 その時に、もうお別れかと思っていたら、また会いたいと思ってくれるのなら、終わりを告げるメッセージと待ち合わせの招待状を送りますといってくれた。 だから、それがくるのを毎日待った。それなのに。 これで、完全に怪盗と会う手段が絶たれた。新一は何も知らないから、彼が会いに来なければ、会えないのだ。 「・・・キッド。」 もし、この思いが迷惑でも、もう一度会いたかった。そう思った。 それから三日後。あの日から音沙汰なく、周りからはあまり変わったと思われないが、新一を毎日見ていて、彼の本心を知るお隣さんには、無理しているのがばればれであった。 だから、とうとう倒れてしまったのだった。 「馬鹿ね。」 「うー。」 お隣さんからしてみれば、無理に普通を保ち、考えないようにずっと無茶なことばかりしていたら、そこまで身体が丈夫ではない新一にかかった負担が病気を引き起こしてもおかしくない。 「今日は一日寝てなさい。」 「・・・。」 「大丈夫よ。あれぐらいでもう会わないんだったら、こっちからもやめなさい。」 「でも。」 「ごめん。」 謝ってほしいわけじゃないのよと言い、食べれるなら食べなさいとお粥を側の台の上に置いて、彼女は部屋から出て行った。 今日の分のこの家の家事をするために。といっても、ほとんど何もすることはないのだが。 嫌われていたとしても、最後にもう一度会いたかったなと、もう叶わないかもしれないことを思いながら、新一は眠った。 彼女がいうように、今の新一は限界がきているのだ。身体は休息を欲しているため、自然と眠気に襲われた。彼女が処方した薬の影響もあろうだろうが・・・。 次の日。相変わらずかぜっぴきのままで、熱が高くなって悪化していく一方だった。 「お前、学校。」 今日は昨日と違って平日だ。新一にも学校というものがあるが、彼女にもまた、学校がある。そして、彼女の生活というものもある。 だから、自分のことは気にせずにいたらいいと言おうとしたが、先にそんなこと言わないでよと言われては言えなかった。 ただ、黙って布団の中で寝ているだけ。 だるいので起きる元気も、いつもは何を言われても読もうとする本ですら、読む気が起こらない。読んでいたとしたら、彼女から怒りの言葉を受けて取り上げられて、結局読めない状況を作られてしまうのだが。 「きっと、今回は精神的な面があるんだと思うわ。」 「そうだな。」 あの日から、ずっと上の空だし、不安定になっていた。いいかげん、吹っ切ればいいのに。 「貴方なら、探し出せるんじゃないの?」 「でも・・・。」 探られるのを望まなかったら。探る事がないという信頼で近くにいたのなら、それを越える事はできない。 「まぁ、いいわ。」 今日も、大人しく寝ていてよねと言って、彼女はお隣へ帰った。新一が、せめて家に帰って自分のすることをしてくれと言ったからだ。 それまでは寝ないとまで宣言されてしまえば、彼女も帰らざるえない。 言い出したら、聞かない人だから。 大人しく寝ていた新一はふと、気配に気付いて目を覚ました。 それは、自分がよく知るもので、もう会えないかもしれないとも思ったあいつの気配。 すっと、窓が開き、風がカーテンをはためかせて何かが侵入してきたことを告げる。 「名探偵・・・。」 なんだか、少し様子がおかしいあいつが居る。もしかしたら都合のいい夢なんじゃないのかと思ったりもした。 だって、今までこんな顔はみたことがなかったからだ。 「風邪の方、ひどいようですね。・・・でも、熱はそこまで高くないようだ。」 新一の額に手を当てる。少しひんやりしたあいつの手が気持ちいい。 「お前、どうしたんだ?」 「もちろん、病で床に伏せていると聞きまして、御見舞いに来たのですよ。」 どうやってかしらないが、こいつは自分が風邪を引いたことを知っていたようだ。 「それに・・・。先日は大変申し訳ないことをした旨の謝罪にもきました。」 何の事かわかっていない新一は起き上がって首をかしげた。 こいつは別に謝ることなんてないはずだ。反対に、自分が謝らないといけないはずだ。 「あの日。私は突然の別件が入った故に、行けなかったのです。」 「え?」 「メールを入れても反応はなく、電話をしても繋がりません。焦っても、別件がなかなか終わらず、向かった時には日は暮れてしまった後だったのです。」 怒って携帯を無視されていたのかと思うと、何度も会いに来ようと思ってもどんな顔をして会えばいいのかわからず、ずるずるとこんなことになってしまいましたと、あいつは言う。 どうやら、あの日はこいつも来ていなかったらしい。しかも日が暮れてからということは、自分が帰った後に来たのだろう。ようは、入れ違いになったのだ。 そして、携帯と言われて、ずっと電源を切ったまま机の上に放置していたことを思い出した。 あいつに取ってと言えば渡してくれた。そこを見ると、記録にも残っていたし、何通かのメールが届いていた。 あの日は邪魔されないようにと電源切っておいたのに、なんということだ。 「ごめん。気付かなかった。ごめん。」 「いえ、私の方こそ、お誘いをして行けなくなってすみませんでした。」 あいつは、今度こそ風邪がよくなってからお誘いすれば、来てくださいますかと聞いてきた。 それに新一はうなずいて、あいつに腕を伸ばして抱きしめた。 やっと触れられた。やっと近くにこれた。そんな気がした。 あいつは最初は驚いていたものの、すぐに新一の背に腕を回して抱きしめてくれた。 とても温かくて、居心地がよくて、うとうととしだした。 だから、いつあいつが帰ったのかは知らない。 ただ、一週間後にある場所でのあるマジシャンのマジックショーのチケットとカードを残して消えていた。 「・・・そっか。」 これがあいつの名前なんだと、やっと知れた名前にうれしく思った新一だった。 あとできくと、外でうろうろしていたあいつは彼女に捕まり、鬱陶しいから帰れと追い出されたが、でもと踏みとどまり、最終的に彼女が新一の現状を話してくれたのだ。 それを聞いてからやって来たらしい。 あいつも、ずっと好きだったから、会いたいと思ってくれていたらしい。 それを知れただけで、今回はよかったのかもしれない。
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