気配でいるのはわかっていた だけど、ちょうどここに一般の人がいる 巻き込むわけにはいかなかったから
自らその闇に映える白で飛び立ち 囮の的となるように夜空を飛んだ
そして、やっぱりというか しっかりと落ちてしまった
まぁ、ここが民家だったのでここまでは追ってこないだろう
だけど、この民家が少々厄介な場所でもあったりもする
「・・・キッド?」
ほら、この家の主の声が聞こえる 上を最後の力を振り絞って見上げると、二階の窓から顔を出している探偵の姿があった
「・・・死んだのか?」
そんな酷い事をのん気に言っている探偵
どうやら、置いておくのは後々面倒だろう彼が階段を下りてくる足音が聞こえる
傷ついた鳥を癒すもの
散々嫌がらせのような言葉をはいて、気障なその男はいつも去っていく。 そいつがある日、せっかく本を読もうと部屋に入り、手にとったときに現れた。 正確には、何かが庭に落ちた音を聞いたのだ。 いったい何が堕ちて来たのかと窓から覗けば、そこには白い塊があった。 つい、キッドの予告日だったから名前を呼んでみたら、どうやら汚している彼が弱弱しいながらも顔をこちらに向けた。 まさかと思って、でも力なくせっかく向けた顔も下に向けるので、生きているかと聞こうと思ったら死んだかとなんて答えていて。 どうやら、思っているよりも動揺しているようだった。 とにかく、急いで降りて手当てをしないといけない。 リビングの電気をつけて、手洗い場からタオルとたくさん持ってきて、窓を開けた。 そこにはあの馬鹿にしたような白い怪盗の姿ではなく、苦しくて辛そうな、弱弱しい男がいた。 普段体力仕事をしない新一には大変だったが、ひきずりつつもキッドを部屋の中に入れた。 すぐさま窓を閉めて、どこにキッドを狙う敵がいるかわからないのでカーテンを閉めて、救急箱を出す。 今日は、生憎お隣の少女は出かけている。 それに、呼び出しても今は元の姿に戻っているだろうから、あまりよくないだろう。 「おいっ、大丈夫か?」 声をかけて、辛うじて保っている意識を眠らさないようにする。 すぐに上の服を剥いで、治療をする。簡単な応急処置なので、あとでキッドの仲間に頼めばいいと思って。 一番目立ったのは、右肩。あとは、掠り傷と、堕ちた時に打った体に掛かる損傷。 怪我の理由は弾である。きっと、飛んでいるときに打ってきたそれを除けながら飛んでいたのだろう。 よく、これだけの掠り傷だが弾を受けて、無事だったものだと、少し感心する。 「何か、飲むか?」 手当てもひと段落し、まぁ、わからなくもないが人前で気を許そうとしないキッドに聞くと、何も答えなかった。 「なら、寝てろ。別に通報も何もしねーから。」 やっぱりといっていいのか、すぐに寝付く気配話。 「さっさと、寝やがれ!身体休めねーと駄目だろ!」 ぐいっと無理やりソファにこかして、持ってきたタオルケットをかけてやる。 「一分以内に寝ろ。さもなくば、無理やり寝かしつけてやる。」 念のためと、お隣から睡眠薬というものをもらっている。 なので、飲まそうと思えば飲ませられる。 なかなか休まない自分へのお隣の配慮だろうが、以外とこういうときにも役に立ちそうだ。 「・・・手厳しいといいますか、激しい励ましの言葉、どうもありがとうご・・・。」 「そんな馬鹿な事言ってる暇があったら、寝ろ。」 「そうですね・・・。少し、休ませていただきましょうか・・・。」 はっていた気を緩め、目を閉じて、すぐに眠りに入るキッド。 きっと、そうとう気を張っていて、緊張し続けていた体は休息が必要だっただろう。 「話だったら、言い訳でも何でも後で聞いてやるから。今はゆっくり休んでな。」 誰にだって、休息は必要だ。 それは、いつも自分にお隣が言う言葉でもあるが・・・。
うつらうつらしていた時、気配が動いた。 「・・・キッド・・・か・・・。」 そういえば、居たのだと思い出す。 「起きた・・・のか・・・?」 「ええ。お蔭様で。助かりましたよ、名探偵。」 すぐ背後にそいつは立っていた。 「・・・相変わらず、嫌味な奴だな・・・。」 とにかく、お茶でも出して野郎と立ち上がったら、キッドはすっとマジックで何処からともなく取り出したカップを差し出したのだ。 そこには、しっかりと珈琲が入っていて、それも新一の好きなブラックではなく、ミルクが入っている物。 散々お隣から夜にはよくないとミルクを入れろと言われるのだが、こいつまで。 しかも、ここにこれがあるという事は、キッチンに入って勝手にいろいろ使ったという事で。 まったく、手先が器用なのはわかるが、嫌味な奴だとぶつぶつ文句を言ってやれば奴は苦笑している。 「それにしても、名探偵に脅されるとは思っても見ませんでしたよ。」 「・・・脅したんじゃない。家で死人を出さない為の配慮だ。」 「・・・いえ、それは正真正銘、脅しだと思いますが・・・?」 「うっせぇ。」 そんな事ぐらいわかっている。必死だったので猫を被る暇もないし、だいたい、我慢して気を張り詰めている姿を見たら、脅しもしなければ絶対にこいつは休まなかっただろうから、しょうがなかったのだ。 そう、自分自身に言い聞かせて納得する。 そんな新一の心情を知ってか知らずか、キッドはひやひやとしていた。 迷惑をかけたのは悪かったが、実はキッドはこの探偵が好きだったのだ。 呼び出し状のごとく、難しい暗号をつかっても、なかなか来てくれないつれない探偵。 かわりに来るのは熱血刑事と気障で鬱陶しいクラスメイトの探偵。もう、溜息の日々。 そんなある日。まぁ、こんな状況だが幸運が舞い込んできたというもの。 だが、無防備に側ですやすやと寝られていれば、彼も人の子。紳士と言っても、一男子だ。 好きな人を前にして、しかもそんな可愛い姿を見てしまえば理性を惹きとどめるのはとっても大変で。 そのようにキッドが考えている間、相変わらず好きといっても分かってくれない彼は、ぶつぶつと文句を言う始末。 あ〜、悲しいなぁと紳士に似合わないような情けない言葉を心の中でつぶやく。 しかも、カップを口につけて飲んでいる仕草にまた可愛いと思ってしまうなんて、もう、我慢していられないので大人しく立ち去ろうと思った。 が、探偵は見逃してくれる気はなく、マントをぐいっとつかまれて、再びソファに座った。 「名探偵・・・?」 「言い訳言え。」 「言い訳、といいますと?」 「人の家の庭に落ちてきた言い訳だ。だいたい、不法侵入だろうが。」 「・・・しかし、家の中へへは、名探偵が・・・。」 「庭に入った時点で不法侵入は決定されている。それに、怪我の手当てした俺として怪我の理由も知りたいしな。」 言うまで逃がさないと、目がいっていた。 その挑戦的な目がまた、エイプリルフールに会った時の小さい彼にもかぶった。 あ〜、お願いだからはやく家に帰して下さい〜。と神に訴えても、もしかしたら神も虜にするこの探偵を相手にした場合は無理なのかもしれない。 「えっとですね。」 「回りくどいのはいらない。簡潔に言え。組織とか殺し屋。その辺の物騒な奴に目立つお前が撃たれたってところぐらいだろうが。」 「・・・その通りです。たぶん、組織から依頼された誰かが私を狙ったのかと思います。」 「素直でよろしい。で、相手は誰かわかるのか?」 「どうしてですか?」 にやりと見せる笑み。普段ならこの怪盗が見せるようなもの。 探偵が見せたその笑みに、なんだか嫌な感じがするのは気のせいだろうか。 「紅い目の男・・・。紅目の獅子とも呼ばれる、狙った獲物は逃さない殺し屋。」 びくりと、キッドに反応が見られ、やっぱりなと確信する新一。 「数日前、日本に入ってきたという情報があったからなぁ。誰か、仕事をするつもりだろうと、構えていたところだからな。」 なんと、物騒な情報をこの探偵は手に入れていたのだった。 「それで。名探偵はその情報をどこから手にいれ、どうしようと思ったのですか?」 「もし、誰かを殺すつもりなら、見つけ出して阻止しようと思った。だが、足取りがまだつかめていない。だから、今は捜索中。知った相手は一介の情報屋。それ以上答える必要はないと思うけどね、二代目怪盗キッドさん?」 「・・・知って・・・いたのですか?」 「そりゃ、初代を知っているからな。」 ふっと、顔の表情が柔らかく優しくなる。だけど、どこか悲しそうな顔。 「・・・葬式。行ったしな。それに、あの人が死んだ前日に、俺は会っていたし。日の光る元で、な。」 意外なところで繋がっている関係。何もかも知っていた。 「結局、あの人はどうして盗むのかは答えなかった。それを答える事は俺を巻き込むから。」 だけど、話して欲しかったんだと、言う。その表情を見て、ぎゅっと胸が痛くなるキッド。 わかってしまう。新一にとって彼が、父がとても大切な存在であったのだと。 「お前とは、葬式の日に会っている。だが、お前はこちらを見ることはなかったから、知らないだろうけどな。」 辛いのはよくわかるから、声はかけなかった。 かけても、何を言えばいいのかわからなかったから。 「だから、俺はもしお前が怪盗キッドとなる事を選ぶのなら、あの人に返せなかった恩を返せたらいいなと思ったから、今日は助けた。それだけ。これで、満足いきましたか?怪盗キッド殿。」 「ああ、わかった・・・。」 だから、言おうと思う。彼なら、今の彼なら聞いてもただ見守ってくれるような気がする。 それに、きっと父も隠し事はしたくはなかっただろうから。 キッド自信もこの探偵の前で隠し事をし続ける事なんて出来ないから。 「教えてあげる。怪盗キッドの事。初代・・・父さんが新一に言わなかった事。」 耳を疑っているのか、信じられないといった感じ、目を見開いている。 そりゃそうだろう。国際的犯罪者が犯罪を犯す理由を話すと言うのだから。 といっても、今のキッドではなく、10年も前に殺された父がその名を得たのだが。 「父さんが、新一を大切に思っていたのだろうから。だから、言わなかったんだと思う。俺だって、知ったのはつい最近だ。」 そう、時が流れ、理解でき、そして守る術をある程度持つようになってから。 「本当は、隠し事はしたくなかったはずだ。父は、マジシャンとして客から種を隠すが、嘘は嫌いだったから。」 キッドは、黒羽快斗は隠し部屋を見つけて白い封筒を三つ見つけた。 一つは快斗宛。もう一つは寺井と母宛。だけど、もう一つには宛先が『蒼い天使』としかかかれていなかった。その為、わからなかった。 しっかりと封がされているそれを、何度も開けようと思ったが、やめた。きっと、分けてあるという事は内容が違う。そして、それは宛名の相手に読まれてこそのもの。 きっと、その『蒼い天使』とは彼の事だと思う。 その蒼い瞳と、天使のように穢れを知らないようで、闇の部分をたくさん知っているところ。 だが、闇に負けず闇の中ででも光を放ち続ける者。 初代を知っていた事もあわせ。間違いなく彼だと思う。 快斗が知らない事だが、本当は封筒は四つあり、一つはすでに手渡されている事。その相手こそ、工藤優作だが、まだ彼等は知らない。
快斗は話した。 宝石を狙う理由。愚かな夢によって多くの人の命を奪われないようにと、パンドラという名の宝石の内部に紅い輝きを持つものを探す為に盗みをする事。 時によっては、偶然知り合った者が困っていた時に力を貸す為に盗みを行う事。 皆皆話した。初代が、何者かによってマジックの舞台で一番傷つく失敗という形で殺された事。 新一は、ただ真剣に聞いてくれて、最後まで話してそっかと答えた。 「やっぱり、キッドは愉快犯ではなく、探し物を探す為に、夜空を飛んでいたわけだな・・・。」 どうやら、何をどのような理由で探していたかは知らないが、何かの目的の為に必要な何かを探していたのだとは感ずいていたらしい。 特に、気障な台詞でいろいろ言われて弾に我を忘れて、そしてそのスリル感を感じながら対峙する事もあったけれど、やっぱり最後には追い詰めても逮捕するために捕らえる事は出来なかった。 きっとそれは、心のどこかで邪魔をしてはいけないと思っていたからだと思う。 それに、新一も殺されたという事は気付いていたようだ。そして、怪盗キッドと名付けた小説家、工藤優作もそれには気付いていた。 だが、当時では証拠はほとんどなく、あってもそれだけで決め手になるものではなかった。 相手は個人ではなく、一つの集団だったのだから。 「それにしても。やっぱり、むかつくな。」 「あはは・・・。」 いつの間にか、疲れもすっかり忘れていたし、好きな相手に聞いてもらえて、そして理解してもらえて少し心の闇が軽くなった気がした。 それに、むかつくとぶすっとなる新一の姿が、仮面の中に隠すものではなく素顔だったから、余計にうれしかったのかもしれない。 「ほれ。もう、朝が来るだろ。怪盗君はお家へ変える時間だろ?とくに、お子様は。」 「・・・相当、根に持っています?」 「そうだな。あれは、いただけないな。」 「そうですか・・・。」 はぁっと言ってしまった過去を少し後悔するキッド。 「では、私はそろそろお暇させていただきますよ。長いをすると、名探偵の寝不足につながりますからね。」 それではと、まだ暗い空を飛んでいった鳥。 「何が寝不足だ。お前こそ寝不足なんじゃねーのかよ。」 さて、話は終わったし客も帰ったことだし。新一はあと数時間寝ようかと決める。
傷ついた、闇に心が囚われそうな鳥 助けてくれるのは心を占める思い人 まぶしいぐらいの光を放つ人 彼は手を差し出してくれる 犯罪を嫌いながらも そんな彼のちょっとした事で、癒される また、夜に伺ってもよいだろうか?
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