「また、何か企んでいるのですか?」

「いや、なに。企むといっても、息子の心配をしているだけだがね?」

「・・・。」

 

本当に、それだけだろうかと思っていれば、案の定。

 

「そうだ。家政婦代わりに誰かつけよう。」

 

そして、計画は立てられ、実行されることとなった。

それぞれ信念を持ち、その信念の元生きる者達を集めて、一つの集団を作ってしまおうと。

 

そんなそれぞれの意思の元生きる様がまるで天使のようだと言い、

ANGEL』という名をつけ、それで活動しようと言い出したのだった。

 

また、突拍子もないことを言われ、それに基づいて実際に動くのは自分であったため、

溜息が零れる。

 

 

 

 


ベルとナイトバロン

 


 

 

 

そんな彼等が出会ったのは、本当に些細な偶然が重なって起こった出会いだった。

頭の切れる者として警察に手を貸す何でも屋の『ベル』。

それが、最初で会った時のその男を指す名前だった。

後で知れば、『ベル』は鈴の事で、綺麗な音色を奏でる鈴を作る男に育てられた事からそう名乗っていたらしい。

その男は、ある組織の争いに巻き込まれて命を落とした。

だから、復讐を決めたのだ。ただの殺人者にはならなかったけれど。

彼、『萩原廉』は本来の両親は生まれたときに死んだ為、養父としてその男に育てられてきた。

だが、後で知ったが両親もまた、同じ組織のいざこざに巻き込まれたのだと知った。

だから、余計に許せなかった。

その為、利用できるものは利用し、生きる為に窃盗もたくさんしてきた。

まだ10もない子供が世に出ても、何も認められる事も仕事をする事もできなかったから。

正確には、両親すらいないそんな怪しい子供に手を差し伸べるものなんていないのだ。

彼は、男が作った鈴をお守り代わりに持って、家を飛び出した。

あの家は、男の兄弟が奪っていくと知っていたから、出て行くしか道はなかったのだ。

それからは、毎日戦いのようなものだった。

言葉は読み書きできたのでそこまで困る事はなかったが、やはり知識はできる限り必要だ。

毎晩、本を読む為に大きな屋敷や図書館の書庫などへ侵入しては読み漁った。

そして、食べるものを手に入れる為に盗みもした。

その際に、鈴の綺麗な響く音がすることから、彼の事を鈴で『ベル』や『リング』と呼ばれるようになった。

それが世間に広まったのは、やはりお金を手に入れる為に金持ち家に盗みに入ったときだ。

それはもう町で嫌われていた金の亡者で、天罰が下ったのだと誰もが言った。

第一に、彼の為に何人もの者達が苦しんだのは事実だ。

彼は必要以上に取るつもりは無かったが、数日前自分に親切にしてくれた老婦人がこの男にお金を奪っていかれた事を思い出し、大目に頂いていった。

その時にも、鈴の音は鳴り響いた。

それが、金の亡者の男に聞こえていて、警察に訴える時に鈴の音を鳴らすこそ泥を捕まえてほしいといったそうだ。

そして、親切にしてくれた老婦人のもとへ、チリンと鈴の音がして、彼女は飼っていた猫の首輪の音だと思って扉を開けてやった。

すると、そこには猫はいなくてお金が入った袋が置かれていた。

それは、奪われたお金の数だけあって、ラジオでニュースを聞いていたから、取り返してくれたのだとわかった。

そして、その鈴の音でもう一人思い出したのだ。数日前、家の裏で丸くなっていた少年を。

それから、お金持ちの家に現れては貧しい者達へと金を分け与えるようになった鈴の音を鳴らす泥棒。

優しき恩人には恩を、力でねじ伏せる悪には牙を。

そうして、廉は毎日を過ごしていた。

 

 


そんなある日だった。

今時レトロな怪盗がいたものだと思った。

わざわざご丁寧に予告状を出したかと思えば、それは難解な暗号でかかれていて、それも夜に目立つ白い衣装をまとう怪盗紳士。

何故か、興味を覚えた廉は、何が目的でこんな面倒な事をするのかと、見学するつもりだった。

難解な暗号はすでに解けていたから、逃走経路から追いかけようと考えたのだ。

其の方が、邪魔警察の方々抜きで話を出来ると思ったから。

それが廉の人生を大きく変えるきっかけとなる人物と出会ったのだ。

追いかけていくと、一つのビルの屋上へと降り立った事を知り、生憎エレベーターは止まっていたので階段で昇ったのだ。

すると、そこには怪盗キッドだけではなく、スーツを来たまだ若い男が立っていたのだった。

少し、それには驚いて見ていたら、二人とも自分の存在に気付いたようで、さらに驚かされた。

これでも、自分は気配を殺すのが上手い。

だが、それ以上に彼等は上手く、そして感じるのも鋭かったのだ。

「これは、珍しいお客様ですね。」

「本当に・・・。やっぱり、暗号が手抜きになっているんじゃないか?」

「それはそれは手厳しい・・・。」

どうやら、この二人は知り合いのようだ。

一人は仲間というわけではなさそうだが、捕まえる気もなさそうだ。

一方の怪盗は逃げるどころか楽しそうにしている。

「どうしたんですか?そんなところにいつまでもいないで、こちらにきたらどうですか?『鈴を鳴らす泥棒』さん。」

どうやら、廉の正体も知っているようだった。

「・・・知っている、んですか?」

「そうですね。・・・貴方の両親及び養い夫を殺した組織を知っている関係でね。」

「・・・っ!」

意外なところで意外な人物に合うというのはこういうときだろう。

その場ではこれ以上話は物騒な世の中だからということで、怪盗キッドと名乗る男は空へ飛び立ち、話しがあるなら来るが良いと、その男、工藤優作と名乗る男についていくこととなった。

どうしても、其の組織の事は知りたかったから。

 

 


その後、連れてこられた部屋で、怪盗キッドがあの有名なマジシャンだと知らされ、工藤優作という言葉に引っかかっていたら、これもまた有名な推理小説家だと知った。

そして、自分と手を組まないかと言われた。

一人ですることには限度がある。とくに、廉のような力も何もない者にとってみれば、その誘いはうれしかった。

だけど、この手をとってもいいのかと迷った。

工藤優作はよく警察に手を貸す。その切れる頭のため、警察に頼まれる事もあるからだ。

「大丈夫。君を差し出したりなんかしないから。」

なんだか、全部が全部、彼に負けている。

「本当は、ずっと君を探していたんだ。」

手を取ってから言われた言葉にどうしてと優作を見ると、苦笑しながら答えた。

自分の両親とは知り合いで、組織のいざこざに巻き込まれて死んだ事を知り、一人息子の自分の存在を知っていた為に会いにきてくれていたらしい。

だが、その時既に養父に連れて行かれていて、それなら大丈夫だろうと彼と少し話をして帰ったそうだ。

だけど、事は起こってしまった。

養父もまた、同じように巻き込まれた。

丁度締め切りで忙しかった彼は知るのが遅れ、会いに行ったときには既に家に誰もいないことをいい事に好き勝手にしている養父の兄弟達と変わり果てた家があっただけだった。

その後、調べ続けてくれていたらしい。

そしてたどり着いたのは鈴の音。

優作と有希子。そして、盗一も持っているその飾りの鈴の音色と同じ。

確認しに行けば、やはり夜の闇に紛れて聞こえる澄み切った鈴の音が聞こえた。

彼は生きているのだと知ったが、すぐには声を駆ける事は出来なかった。

目的の為に、怪盗キッドと同じような生き様の彼を止める術はなかった。

「本当に、無事でよかったよ。」

そう言われて、抱きしめられて、思い出した過去の記憶。

まだ両親がいた頃にやって来た顔も覚えていない男。

腕の温かさは同じだと、記憶が告げる。

 

 


こうして、一緒に過ごすようになった。

優作と出会ってからリンと名乗らず、ナイトバロンと名乗る事にした。

名前も、『萩野蓮』と変えた。

その後、怪盗キッドの死で優作が独りになった時に涙を流したのを知り、これ以上の犠牲は絶対に止めると誓う。

 

 


だからか、優作の頼みは断れない自分がいた。

まぁ、息子の新一も優作同様に困ったもので、確かに誰かが側にいないと危なくてしょうがない。

計画を実行しようと決めた。

 

さて、ゲームをはじめようか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し前の事のように思い出される記憶。

「だーくっつくな。暑苦しい!」

「え〜、いいじゃんか。」

「鬱陶しい!」

「今は新一にアタック中だから、大人しくして下さい。」

「誰が大人しくしていられるかっ!」

目の前で繰り広げられる光景。

すぐに日常の一コマになったそれ。

これに近い事を、彼等の両親はしていた事を、彼等は知っているのだろうか。

「どうしたの?やけにご機嫌じゃない?」

「猫さんもご機嫌じゃないですか?」

二代目怪盗キッドが新一に告白をしてから数日。

それはしっかりと知っているメンバー達。

お互い惹かれているのに、面倒なものねと志保が言う。同じように、どうなるものかと蓮も思う。

雅魅もまた、この日常が続けばいいなと思う反面、二人がどう動くか楽しみだった。

「さて、仕事をしてきますか。」

「あら?珍しいわね。」

「そんなことはないですよ。」

今日も、空は蒼い。

あの日と、同じ空の蒼。

 

 

久々に、戦友に会いに行こうかと考える。

もう一人の策士と共に。

 






     あとがき

 始まり変の天使達の様々な事情シリーズその1!!
 まずは、蓮と優作氏の関係の始まり編。
 ここから全てははじまったのです。
 二人はこう考えると、結構長い付き合いなんですよねぇ。
 彼も大変な人と共にいることを選んだものだ。



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