朝が来た

キッドが、快斗がゲームを持ちかけて一夜

甲斐甲斐しく朝食を用意して、うきうき気分で新一を起こしに行く快斗

「新一〜、起きて〜。」

「う〜。・・・うるせぇ。・・・まだ・・・寝る・・・。」

邪魔するなといわんばかりに手で、起こそうと新一の身体を揺らす手を払いのけた。

 

数分格闘の末、やっと起きてくれた

その間にあった発言で快斗は少々涙を流しつつも、朝食を食べようとリビングに戻ってくるのだった。

 

「・・・なんで、どっからわいて出た〜?!」

そこには、のんびりと先ほどまでは確かにいなかったはずの萩野蓮の姿があった

「やぁ。降りてくるのが遅かったじゃないか。」

そして、手を振りながら、もう片方にはカップがある。中には、しっかりとこの家で入れられた紅茶なんかが入っていた。

 

 

 


  影から見守る者達

 


 

 

とっても不機嫌です。顔がポーカーフェイスなんかで覆い隠せないほど、誰でも分かるほど不機嫌なオーラと顔で朝食を食べる快斗。

何がそんなに不機嫌なんだと、いつもの彼にしては子供じみたそれに呆れる。だが、可愛いかもしれないと思ったのは秘密だ。

「まったく。失礼だね。だいたい、いくら君がセキュリティを改造しても、私や他の彼等にはまったく通用しない者だって事ぐらい、わかっていただろう?」

そう。工藤邸はかなり高度なセキュリティが敷かれている。それに、天才とも言う頭を持つ快斗がさらに手を加えれば、簡単に誰かが侵入するなんて事は出来ない。

にもかかわらず、彼は侵入を難なく果たし、キッチンに入って勝手に紅茶なんかを入れて待っていたのだ。

まったくもって、不愉快だ。

「そろそろ、学校だろう?」

「そうだな。で、お前は居座るつもりか?居座るなよ。帰れ。」

「ひどいなぁ。用件を伝えに来たというのに。」

「何なんだよ。俺は用事ない。・・・もしかして、もう何か動く事でもあったのかよ?」

用件があるとしたらそれぐらいだろうかと問うと、聞かなければ良かったと思った。

そして、さらに不機嫌になる快斗。新一は今は関わってもどうしようもないので大人しく観察している事にした。

「昨日、連絡くれただろ?」

「そうだったな・・・。・・・もしかして・・・?」

「しっかりと家に送り届けたから、日常に差し支える事はない。わかったかい?」

ばきっと箸を折ったように見えたが気のせいだろうか。

今はしっかりと箸を持っているから違うのだろう。ちょっと、色と柄が違うような気がするが・・・。

「あ。しっかりと記憶は消しておいたよ。もし、使えるようなら、足として使おうかなと思ったけど、邪魔っぽいから。」

この、悪魔めー!と快斗は心の中で叫ぶと同時に、親父に似てきたなぁとしみじみ最初に会った時と同じでありながら少し違う彼の事を考える新一。

「もういいわ。留守番でもしててよ。家に誰か得体の知れない奴入れたら容赦しないからね!」

びしっと人指し指でさして文句を言う様は、まさに子供だった。

「ほら。学校遅れるぞ。」

「あ、新一〜、待って〜〜〜。」

鞄をとって、後片付けしとけと仕返しのように言って、新一の後を追いかけて行った快斗。

まるで、嵐のように騒ぎ、そして時には太陽のような笑顔。

見ていて飽きないねと思う。そんな彼を新一も気に入っているようなので、昨日のゲームの事も何も言わないが。

「片付け、しないとなぁ。どうしよう?」

「はなっからする気がないくせに〜。よく言うよ。」

突如ひょっこりと現れたのは、天野竜だった。

快斗のように癖毛なのか、それともわざわざ髪をそのようにセットしているのか。明るい黄色の髪が動きに合わせて揺れる。

「昨日は突然頼んで悪かったね。」

「大丈夫。大阪に行くって言っていた人が丁度いたからさ。ついででお願いしておいた。」

その会話から、なんとなく恐ろしい事を知ってしまったような気がするが・・・。

彼等がにこにこしながら話すものだから、やはり闇へと真実は葬り去られているようだった。

「でも・・・。今日は彼等。あまり良くないかもね。」

にっこりと無邪気に笑う竜が蓮に見せる一枚のカード。

タロットのようでタロットとは違う、世界でたった一つしかない、祖母から貰ったそのカード。

タロットのように扱い、占いをする事が出来るそれ。

「・・・死神、ですか。」

「そう。もう一枚、あるんだけど。それもまた微妙だった。」

「・・・今度は、破壊者ですか・・・。・・・また、事件を引き寄せるのでしょうか?」

「たぶん、そうかもねぇ。その解決策は『導く者』。だから、お迎えに行かないと、また巻き込まれてしまうだろうね。」

ふぅっと蓮に見せた三枚のカードを一緒に他のカードとしまう。

その仕草は、本当に自然だが、まるで快斗が見せるマジックのように、種が見えずに手から消えたのだった。

「・・・マジック、ですか?」

「そう。一時期すっごく好きでね。ほら、怪盗キッドの影響で。」

「ああ。そうですね。彼は、最高のマジシャンですから。」

「もう、種がわからなくって、だけどそんな事を考える前に魅了されて。あまりにもすごかったんで、ちょっとだけ頑張ってみた。」

今は亡き、ある意味同じ場所にいるようで遠い、夢と希望を見せるマジシャン。

決して手札は見せず、それでいていつも余裕を見せて翻弄する。

「さて、問題です。彼は偉大なる父を越える事は出来るでしょうか?!」

「・・・なんですか、その問題は。」

「暇つぶしにどうかと思って。」

にかっと、相変わらず何でもゲームのように楽しむ男は、20代の割には10代に見えるような感じで、きっとその笑顔でかつて新一がしてきたように騙されているのだろうなと思う。

「・・・そうだなぁ。」

答えは二人とも同じ。

 

「いつかはきっと、越えるだろう。」

 

それが、二人の答え。

 

 

 


竜は音楽を聴きながら後片付けをして、昼食を二人でのんびりと食べた。

また、蓮はノートパソコンである人物にメールを送ったり、資料を読んだりしている間に片づけをする竜。

そこへ、ひょっこりと現れたのは闇猫と名乗る絵画泥棒。本名土田雅魅がやって来た。

「おや。男装はやめたんですか?」

「彼には必要ないから。」

「だったら、新一のお迎えを頼んでもいいですか?」

「お迎え?いいけれど、まだ授業中よ?」

「早退の届けは出しましたから、すぐに迎えに行って下さい。」

そう、先ほどのカードの未来が来る前に、未来を変えてしまおうと言うもの。

何だかんだ言っているが、竜の占いは良く当たるのだ。だから、情報屋としてだけではなく、占いで客が来る事もあるのだ。

「わかったわ。」

「さて。快斗君にも連絡を入れておきましょうか。」

「じゃぁ、お茶の用意でもしとく?」

「そうですね・・・。あ、ちょうどいいところに。」

本日、小学校は午前中で終わり。

薬で元の姿に戻ったりもするが、基本的に志保は灰原哀として過ごしているのだ。

それは、少年探偵団の事が心配なのと、彼女自身が彼等の事を気に入っている事にもある。

「あ。お迎え?ちょうどいいでしょう?」

そして、被害を葬った紅目こと、蘇芳麻都は、無言で怒りを見せながらも迎えに行ったと言う。

門でいかにも不機嫌だと立っていた男を見つけて、何の用かと聞けば、なんと迎えに行けと命令されたからだとか言われて、少年探偵団の彼等を関わらせるわけにはいかないから、校門でわかれたが。

現在、工藤邸には和也以外の者達が集結していた。紅子はこちらの方が面白そうだからと、一緒に早退してきたらしい。

「さて。今日は検診日だから、大人しくお隣へ行ってね。」

にっこりと言われて、すっかりと忘れていた検診を思い出さされた。

「そうだったわね・・・。それで、この人がお迎えね。なんとなく、わかったわ。」

行くわよと、離れたくないと新一にくっついたままの快斗も一緒に連れて、お隣へと行く三人。

「さて。集まったところでお話しましょう。」

「やっぱり、何かあったわけね。」

「・・・例の奴。動いたのか?」

「そうなんだよ。もう、『闇の使者』が出たからどうしようかと思って。」

闇の使者は、危ない誘惑や危険が迫っている事を指していたり、自らが何らかの表紙に何かをしでかしてしまうような意味を持つ。他にもいろいろあるが、今は置いておこう。

「ですから。烏丸さんが今、動いてくれています。それで、どうやら明日、もしくは明後日には動くみたいなんです。」

ただの逆恨みだが、彼等にとってはそれが正しいと思い込んでいる。

そうやって、新一はどんどんと事件に巻き込まれる。だが、逆恨みだけは許すつもりはない。

今回の事件の発端である事件だって、新一がかなり心を痛ませて解決へと導いた事件だったから。

「私は、下手に動くと新一は気付きますからね。」

「だから、集めたんだろ?動ける人間が必要だったから。」

「まぁ、そうですねぇ。それで、お願いできますか、紅目殿。闇猫殿。」

「・・・わかった。そういう奴は嫌いだからさっさと片付けてやる。」

「私は、まだ彼の珈琲を飲みたいからね。それに、綺麗な宝石は、守らないとね。」

それに、絵画の保管としてここの地下を少し借りていることだしと言う。

「では、お願いしますね。」

話が付いた頃に、三人は帰って来た。

志保は先ほどメールで今のことを話してあるから、知っているので、話が付いた彼等を見て苦笑する。

きっと、皆わかっているだろうけれど、せざる得ない。

隠れて勝手に隠蔽される事。

表に出る前に処理される、事件。何かが起こる前に解決できるのは新一が何よりも望む事。

だけど、隠れて彼等だけが巻き込まれて苦しむのが許せない新一だから、ばれた時はどうなる事やらという感じ。

「ちょうど、お茶がもう一杯入りましたから。」

どうぞと、三人に差し出されるお茶。

不思議なメンバーが集まる中でのお茶会。

 

 

 

こうして、知らない間に何も起こらずに処理された事件。

決して彼の耳に入ることなく、そして警察にすら届けられる事のない事件。

何があったかは彼等だけが知る。

 




     あとがき

 志乃香samaへの1000HITお祝いとして差し上げた物です。
 1000HITおめでとうございます、志乃香sama
 頂いて下さって、どうもありがとうございました。





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