人世の反対側にひっそりと存在する魔法世界。 そこには、とても大きな学校が一つある。 魔法の力さえあれば、誰でも入学が出来る学校。 つまり、魔法世界だけではなく、人世の者でも力さえあれば入学が出来るのだ。 その学校に、かつての卒業生の息子がやって来る。 今までは両親が魔法使いであるとは知らなかった青年がやってくる。 たまたま出会った青年からその事をしり、通う事にしたのだ。 これは、その二人の青年と一人の少女の魔法学校でのお話。
1st act はじめての一目ぼれ
「今日も楽勝〜♪」 と、白い目立つ衣装を身に纏った泥棒の青年が、高価な宝石を手で遊ばせるように宙を彷徨わせ、扱う。 もしここに警察関係者がいれば、顔を真っ青にして、次には真っ赤にして怒鳴りながら追いかけてくることだろう。 だが、生憎彼等はここまで彼を追いかける事はない。 いつも、ここへ来る事は出来ないのだから。 「それにしても、最近暇だよなぁ。」 さて、どうしたものかと、宝石をぱっと消して、今日は帰って寝るかと考えた時、突如背後から声を掛けられた。 「・・・何やってんだ、おめー?」 えっと、突然聞こえた声に振り向く彼、怪盗キッド。かなり驚いていたが、お得意のポーカーフェイスで隠す。 するとそこには、たまに騒がれて新聞や女優の息子として雑誌に載っている名探偵と呼ばれる青年がいた。 それには、かなりびっくりだ。呼ばれるまで気配を感じなかっただけか、情けないことにも一目ぼれをして動きを忘れてしまっているのだから。 そう、探偵なんてクラスメイト同様に鬱陶しいもので、自分をここまで来て追い詰める事の出来るものはいないし、他人の栄光なんて興味はないので放っておいたが、勿体無い事をしたなと思う。 絶対に、新聞や雑誌はこの彼、工藤新一の半分も魅力を写しきれていないと思う。 「おい、どうした?」 突然振り向いたまま動かなくなった怪盗にどうしたと、新一は目の前で手を振って見るが、相変わらず反応はなし。 まったく、どうなっているのだ。 「お〜い、どうした〜?聞こえてねーのか?」 返事ぐらいしろよと、少々短気な彼は少し機嫌を損ねたようだ。 突如空気も冷えたその場に、やっと意識が戻ってきたキッドは慌てて返事をする。 「これはこれは、工藤探偵。わざわざこんなところまでお出ましとは。いったい、どのようなご用件で?」 「なんだよ。口聞けるんじゃねーかよ。」 ぶすっと、無視されていたと思った新一は文句を言う。 「申し訳ございません。まさか、ここにまでやって来る方がいるとは思いもしなかったもので。」 確かにそうなので、そのまま答えると、少し機嫌が直ったようだ。 誰も見つける事が出来ないこの場所を見つけたという、彼の謎を追い求める好奇心がキッドの言葉で宥められたのだろう。 「それで、工藤探偵こそ、どのようなご用件でこちらへ?もしかして、私の逮捕ですか?その割には今夜は警備に参加していないようでいしたが?」 「警備には参加してないよ。第一、泥棒は専門外だ。」 「そうですか・・・。」 せっかく、楽しめるというのに。それに、一目ぼれした相手と少しでも一緒にいたいと思うのに。 どうやら、一筋縄ではいない相手を好きになってしまったようだ。 「宝石、違ったのか?」 「っ!・・・お気づき、でしたか。」 「ああ、わかりやすいからな・・・。って、本当は違うけどな。」 「・・・?どういうことでしょう?」 「それはまた・・・な・・・。どうやら、お前へのお迎えが来たようだしな。」 遠くで聞こえてくるサイレンの音。 まったく、せっかくの楽しみを邪魔してくれた警部に、少々怒りを覚えながらも、新一に言葉を欠けて、夜空へと舞い上がる。 舞い上がっていなくなったキッド。だが、新一はまだそこにいた。 「・・・また会いましょうね・・・。」 言わなくても、会えるじゃないか。もうすぐ、入学式なのだから。 あの人の息子だ。きっとあそこに入学するだろう。 こちら側学校へも行きながら、両方を両立させるだろう。あの人もそうしていた。 「その割には、なんだか可笑しい気もするが・・・。」 自分が背後に降り立った時にかなり驚いていた。そんな事は、彼に限ってありえないはずだ。 「・・・もしかして、まだ知らされていないとか・・・?」 それはありえる。 「・・・一度、入学願書チェックするか。」 新一も、その場にそれ以上留まらず、闇に紛れて消えた。 まだ、そのビルの下では紅いライトが動き回り、サイレンが響いていた。 |