一通の白い差出人のない招待状

 

シンデレラの魔法が解ける事を知らせる鐘の音

出会いを始めましょう

 

鐘の音の後は、魔法が解けますから

私は俺として貴方に会いたいと思ったから

 

 

 

 嘘が真実に変わる日

 

 

 

予告状はないのに招待状が来ていた。

こんなことをする奴は自分の知る限りで一人しかいない。

例外として別にもいるのだが、この最後に描かれたイラストから誰のものかはっきりとわかる。

新一は深いため息をついて、招待状をポケットの中に押し込んだ。

まったく、何を考えているのかわからない奴だ。

敵である探偵にわざわざ警視庁へ送る予告状と同じものを送りつけて挑戦してきたり、挙句の果てにはベランダに現れる。

そして今日、予告状とまったくもって関係のない招待状というものがポストの中に入れられていた。

「・・・ポストにも防犯対策をしておくべきか・・・?」

勝手におかしなものを入れられないように。

だが、すぐにそんなことは無駄だと思い、考えをやめた。

あのこそ泥には常識が通じないのだ。前にあってそれは立証済みである。

「・・・どうすっかなぁ。」

これを受け取ったとあれば、行かなくては何を言われるかわかったものではない。

確かに、自分が好きな難しい暗号で書かれていて、解読するには何も問題はない。だが、その後が問題なのである。

あのこそ泥のことだから、来ないと家に押しかけてくるのは間違いないだろう。

何せ、あれは空を飛ぶ鳥だ。それも夜にも映える白い鳥。目撃者がいれば対応にかなり大変な迷惑な訪問者。

お隣の頼りになる少々危ない少女に対応を頼もうかと考えたが、今は何かいけない気がしてやめた。

この前から地下に篭って何かをしている。きっと、新しい実験だろう。

前回検診をすっかり忘れていた時、今度ばかりは許してもらえず、なにやら妖しげな薬品を注文してきたぐらいだ。

間違いなく、奴は格好の餌食となる事だろう。さすがにそれは可愛そうな気がする。

「そういや、服部の奴。あの後どうしたんだろ・・・。」

つい先日またも突如連絡もなくあらわれた西の探偵の事を思い出した。

はじめは不機嫌で気にもならないし気づく事もなかったのだが、どうやら隣の少女に連れて行かれたらしい。

その後は姿を見ていないが、たぶん無事に帰っただろうと、今まですっかりと忘れていた。

それを聞けばひどいやんけ〜と涙ながら訴える黒い男の姿があるだろうが、生憎彼は今は動けない事だろう。

何かを彼に、少女は間違いなくした。

別に自分に害はなかったので放っておいた。何より、少女は実験の効果を試せてあれだけ不機嫌だったが今はとてもご機嫌である。

一応泥棒といえども、西の探偵ほど迷惑なわけではないので可愛そうだと思う新一。

いちいち訪問してきたりうるさいのだが、少女は新一に害はないし、夕食を作ってくれたりしていたのでその事に関しては認めているらしい。

「・・・灰原に出かける事だけ伝えておくか・・・。」

警察の呼び出しでも不機嫌になって止めようとする少女。なので、言っておかないと後でどうなるかわからない。

そんな事をしているうちに、招待状の当日がやってきた。

といっても、真夜中なので、昼間は学校へ行くし警視庁へ行く。

もちろん、少女の検診を受けてその旨を伝える。

「・・・まぁ、いいわ。」

「本当か?」

「ええ。その代わり、はやめに帰ってきなさいよ。でないと、彼に言っておきなさい。今度はどうなっても知らないからとね。」

ふふふと笑う少女の顔は何か企んでいるように見えた。

何より、少女が言っている言葉から、どうやら過去にあのこそ泥も被害を被ったらしい。

「わかった。伝えとく。」

「そう。ならいいわ。でも、温かい格好で行きなさいよ?」

「わかってる。」

「そういいながら、薄着で出て行く人は誰かしら?」

「・・・。」

名探偵と言えども、お隣の少女、それも主治医には勝てない。

「ほら、これならいいでしょう?」

いつの間にか上着を持ってきてくれた。

「さ、今から行かないと間に合わないんじゃない?」

現在の時刻は9時過ぎ。時間と場所を伝えていないが、はやめに行っておいて問題はないだろう。何せ、あの神出鬼没なこそ泥だ。きっとはやく来ているに違いない。

「じゃ、行ってくる。」

「はいはい。」

しっかりとコートを着て、体調を崩したとき用にクスリを受け取って、隣家を出て行った新一。

「・・・今夜辺りからかしらね・・・。」

きっと、これから隣は賑やかになる事だろう。

「気付いていないのは本人達だけのようなものよ。ま、会っている事を知らないから他の人は知らないでしょうけどね。」

温かいお茶でも用意して待っていようかしらと思ったが、馬に蹴られるのもごめんだし、今夜帰ってくる保障もないのでやめておく。

「明日でいいよね。」

つぶやきは空の月だけが知る。

 

 

 

ギイィっと、時計台の上へ出る扉を開ける。

そこには、まだ時間には数分あるというのに、すでにいる白い人影があった。

「これはこれは、名探偵。ようこそおいで下さいました。」

優雅に一礼して下りてきて、新一の傍に寄ってくるのは世間を騒がす大怪盗、通称KIDであった。

「これ、いったいどういうことだよ。」

招待状を相手へ向けて問いだす。

「まだ、時間ではありません。しばらく、私の魔法で夢の世界をお楽しみ下さい。」

勝手に話をそらして勝手にはじめる。

でも、新一はKIDのマジックは嫌いではないので、それに見入っていた。

自然と見られる笑み。それに満足そうな白い男。

 


ゴーン―――――

 


時計が時間を知らせる。それと同時に、魔法は終わりだと手を止めるKID

「さ、招待状に書いたとおり。魔法を解く時間ですね。」

「だから、何の魔法だよ。」

すっと手を伸ばして新一の身体を捕らえる。

「・・・私は名探偵が・・・新一の事が好きなのです。」

「はぁ?」

「この思いを止めることは出来ません。」

「・・・。」

「新一・・・。貴方は私の事が嫌いですか・・・?」

いつもと違いかなり弱気な男。予告状を出して警察を翻弄して手玉にとる男と同一人物には見えないほど。

「・・・別に、嫌いじゃないし。嫌いだったら呼び出されても来ないし。」

「なら、少しは希望を持ってもいいって事ですね?」

「・・・?」

「新一。私は昼も貴方の傍にいたいのですが、傍にいる許可を頂けませんか・・・?」

突然の申し出。しかも、昼だと言う。

普段なら予告状を出される夜に限定されている。そしてその後でも夜にベランダにふと現れる程度。

「・・・別に、好きなようにしたら?」

「なら、そうしますよ。」

「でも、そんな白いのはおいて置けないぞ?」

「大丈夫ですよ。魔法は解けるのですから。偽りは終わりですからね・・・。」

そう、今日は・・・先ほどまでは41日。エイプリルフールという嘘をついても良い日。

だけど、今は違う。真実を言っても何の問題もない。偽りの日が終わった日。

「はじめまして。」

ふわりと、マントをはためかせれば、そこにはすでにラフな格好の自分と同じような背格好の少年がいた。

「・・・お前。馬鹿か・・・?」

「馬鹿だ何て酷いな。これでも、IQ400ぐらいあるんだよ?」

「・・・勿体無い。」

「・・・。」

「で、名前は何なんだよ。名前がないと不便だろ?」

そういってもらえた事がうれしかった。

「黒い羽に快いに北斗の斗で黒羽快斗と言います。」

「へぇ。くろばかいとね。」

「・・・なんだか、区切りを間違えられているような・・・。」

「気のせいだろ。」

 




その日、白い奴が黒くなった。

そして、それを家に持った帰った。

何かと便利だが、何かと五月蝿い。

でも、自然と傍にいる。

 

はじめから、許していたんだと思う。

そう、はじめから。

自分はあいつの事が好きだったんだ。

偽りは終わって魔法が解けた日。

 



 





その後

 

現在は朝の六時。

「あら。お帰りなさい。」

「灰原・・・?」

背後に立っている新一に似ている男をちらりと見てすぐに手元の資料に目線を戻す。

「あ、こいつ・・・。」

「白いこそ泥さんでしょ?」

「・・・。」

「何?あ、貴方達に朝食でも用意してあげようかと思って、こっちにいたのだけど・・・。少しはやいけど食べる?」

「いや、いい。」

快斗としては、一発で見破られているのが少し情けなく思っていた。

「で、こそ泥さんを、この家にかくまうつもりかしら?」

「違う。」

「ま、いいけどね。工藤君が幸せならそれでいいわよ。」

そういって、片付けは勝手にしてちょうだいと、隣へと帰っていく少女。

「・・・何者?」

「最強の小学生で俺の主治医。」

「へぇ・・・。」

 





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