動物特有の能力を持つ人々が住む帝国がある。 そこには頂点に立ち、支配をする王がいる。 王は、先代の王に認められるか、現王を倒せば、その地位を継承される。 その頂点に立ちながら、その地位に退屈を覚え、王に仕える者達から脱走する、困った王。 現在の王はまだ若い、双子であるはずなのに、両親からそれぞれ受けたものによって別々の遺伝子を持ってしまった、白い鳳と黒い狼の二人。 二人は今日も、ひっそりとそれでも大きく成長した帝国の宮殿から脱走をする。 そして、彼等は生まれてはじめて恋に落ちたのでした。
アニマルキングダム
すがすがしい早朝。今日もアニマルキングダムでは朝がやって来て、宮殿のメイド頭が直々に現王である双子を起す為に部屋へと向かった。 コンコンッという軽いノックをした後、「失礼します」と、礼儀正しく部屋へと入る。そう、入った。 だが、そこには誰もいなかった。いるはずの部屋の主人はすでにいなかったのだ。 メイド頭はもしかしてと、隣にあるもう一人の王の部屋へとノックをきちんとして中へ入った。 やはり、部屋はもぬけのから。二人はお決まりのごとく、またも脱走していたのだった。 「ちょっとー!またなのー!!」 メイド頭のアオコはわなわなと拳を握り締めて、宮殿中に響く声を上げた。 先代であり、その問題の二人の父親でもある盗一はというと、また始まったようだねと、暢気に考えながら、もうしばらく寝ていても罰は当たらないだろうと、二度寝を決めていた。 今日も、メイド頭を筆頭に、警備隊や使用人達の二人の王の捜索活動が始まった。 ガサガサッと、二つの影が木々の間を上手にすり抜けるように走っていく。 只今宮殿内で大騒ぎで、捜索活動の標的である二人の王様であった。 背中に真っ白で大きな四枚の翼を持ち、服も上から下まで白で統一し、いかにも動きにくそうな服で、頭には青い布を巻いた白い鍔のある帽子を被り、方眼鏡を掛けている青年。彼が長男冷静で魔術師とまで言われているキッドと言う。 大き目の黒いピンッと先が尖り、暖かくて綺麗に光を受け止めて艶を増す耳と、黒い肌触りの良さそうな尾を持ち、キッドとは正反対に黒で簡単で動きやすそうで真っ黒の服を着た青年。彼が次男で明るく誰に対しても同じカイトと言う。 二人は双子としてこの帝国の王子として生まれ、ついこの間、王として引き継ぎ式を行った。 だが、神出鬼没で誰にも勝つ事も捕らえる事も出来ないあの男、トウイチの息子だ。二人もしっかりと、そんな縛り付けられるような生活で大人しくしているはずがない。 案の定、毎日毎日、飽きる事なく脱走を繰り返し、そしてどんどんレベルアップさせて行き、現在に至る。 彼等は元々頭が良いので、どんどん自分の力と知識を付けていき、だんだん手を付けられなくなっていった。 そんな二人にも、もちろん弱点はある。そして、苦手な相手もいる。 弱点は知っての通り、アレ。 そして、二人が恐れるほど苦手としている相手は二人いる。 一人は自称紅魔女と名乗る、宮殿専属の予言師であるが、怪しげな力を持っているが、男ならすぐに惚れるだろうと思われる程の美人であるアカコで、もう一人は自称科学者と名乗る、宮殿専属の医師であるが、美人なので騙されやすいが、裏の顔は思い出すだけで恐ろしいシホである。 こんな追いかけっこの中、捕まれば、この二人に何をされるかわからない。だが、二人がそれで諦めて脱走を止めるという事はなかった。 「だいたい、アカコもシホちゃんも可笑しな事をしすぎなんだよね〜。」 「あれがなければよいと、何度思った事か・・・。」 二人とも、苦労が絶えないようです。だが、そんな二人の脱走のせいで苦労をする警備隊長の彼の事、気にしてあげてほしいところである。 「今日は何処行く〜?」 「そうですね・・・。確か記憶では、この先に泉があったかと?」 「じゃぁ、そこね。決定〜!」 と、二人は足を止めず、さらに加速して木々の間を突っ走った。 そもそも、ここは町や集落のない場所なので、誰にもあう事がない。なので、宮殿へ目撃情報が行く事は少ない。 「アカコだったら、見てそうだな〜。」 それは勘弁してほしいと苦笑しながら、二人はどんどん走り、とうとう木々で存在を隠されていた泉へと着いたのだった。 目撃情報はあったかーと町中に聞こえる声を張り上げる。 「お父さん、そんなに大声出しちゃ駄目。」 「ああ、すまん・・・。」 そう言いながらも、どうやらあちらで見たらしいですと報告が入ると、捕まえるぞー、行けーと叫びだす。 「もう、お父さんったら!」 しょうがないなと言いながら、アオコは別の場所を探す為に走った。 いくら幼馴染状態で育ってきたとはいえ、いちよう主。敬意はあるつもりだが、こうも子供の追いかけっこのように、毎回毎回毎回…脱走を繰り返されれば敬意なんてものは吹っ飛んでしまう。 「やっぱり、バカイトとバカキッドだよ。」 文句をいいつつ、探す為に町中を走るアオコ。きっと今日も、彼等が自主的に宮殿へと戻ってくるまで探し続けないといけないだろう。 そんな皆様の苦労を知りつつも脱走を成功させた当の二人は、優雅に泉のぎりぎりに腰掛けて、気持ち良く日光浴をしていた。 そんな二人が、ふと何者かの気配に気付いた。 というか、声をかけられて気付かされたという、二人にとっては間抜けとも言える現象が起きていた。 なんと、いつの間にか背後に見知らぬ青年が立っていたのだ。 それも、全てを射抜くようなきつい面差しを持ちながらも深い何かを持つ蒼い目を持ち、黒いカイトよりも小さめの尖った耳と、細いがふわふわとした流れる毛並みを持つ青年。 その青年はというと、驚いて振り返って固まっている二人を見て、驚いているようだった。 だが、次第に顔は少し不機嫌になりながら、返事ぐらいしろよと文句を言う。 「あ、はい。すみません。あまりにも・・・。」 「あまりにも、何だよ。俺はただ、ここで何をしているんだと、問いかけただけだろ?」 「だ、だから、それに驚いたんだって。誰もいなかったはずだから・・・。」 そう、二人は今までの脱走劇で、人一倍気配には敏感になっていた。それはもう、部屋の前に誰かが来た時や、誰かがかなり距離のある宮殿の入り口を通ったという事にまで、気配を意識すれば感じ取る事が出来るほどであった。 それにもかかわらず、いくら日光浴をしていたとしても、ここは木々に囲まれた中にぽっかりとぞんざいする広場のような泉なので、木々のこすれる音や、そこから何者かが出てくれば気配を感じる。 それだけの自信があったにもかかわらず、この目の前の同い年ぐらいの青年はあっけなく二人の背後を取ってしまったのだ。 いつまでも驚いて固まっている二人に、やがて苦笑する青年は、何言ってるんだよと文句口調で二人に言った。 「始めから、ここにいたじゃん。」 「「は?」」 二人は誰もが見た事もないほど、間抜けな顔をしていた事だろう。 「くくく・・・、面白いな。しっかし、ここまで来る物好きがいるという事事態、俺としては不思議だったがな・・・。」 やはり物好きな奴は可笑しな奴が多いのかもしれないなと声を出して笑っている相手。 そんな相手に失礼なと怒りを向けるところだが、生憎二人はそんな青年の切れない笑顔をその蒼い瞳に心を奪われてしまっていた。 そう、二人は遅い初恋に目覚めてしまったのだった。 「それで、お前等はいったい何しにここへ来たんだ?」 まだ、笑いがとまっていない青年が二人に問うと、二人もやっといつもの自分を取り戻して、青年と話を進める事にした。少しでも長く、一緒にいたいと。 「少々、追われている身で、隠れる場所として、ちょうどよいかと思いましてね。」 「そしたら、お日様が気持ちよくて日光浴をしてたんだよ。」 その二人の言葉に何かしら思う事があるのか、考える青年に、そうだと、二人は同時に、 「「名前は?!」」 と言っていた。 考え事をしていた青年はびっくりしたが、すぐに名前を二人に教えた。 「シンイチ。シンイチだよ。」 そう答えてくれて、二人はうれしさのあまり浮かれていたが、すぐさま現実へと引き戻された。 「で、お前達は戻らなくていいのか?双子の王、キッド様にカイト様?」 二人としては、何で知ってるのーという感じだろう。まだ、名乗ってもいなかったからだ。だが、よくよく考えてみれば、この帝国に住んでいて王の名前と顔を知らないものもいない。 第一に、引継ぎ式の際には、必ず顔を民衆の前に見せるのだ。きっと、シンイチも見ていたのだろうと、二人は納得する。 「別に、退屈ですからいいんですよ。それに、彼等には軽い運動になりますしね。」 「だいたい、あんなところにずっといたら、頭が可笑しくなるんだよ。」 と、訴える二人にへぇーと言いながら、にっこりと微笑む。 あー、うれしいけど、そんなににっこりしないでーという二人。こんな無防備な姿を見せられれば、しかも微笑ましいこの笑顔を見れば、どんな輩でも一発で虜になるだろう。 虜といえば、自称紅魔女が必死に自分たちを虜にすると予言するかのように言っていたのであまり好きでない言葉だが、それに近いのだ。 二人だからこそ、襲わずにすんだだろう。それも、二人だったからこそ。 「あ、そうそう。シンイチは敵じゃないよね?」 急に思い出したといった具合に話し出すカイト。本当に表情豊かな奴だとシンイチは思っていた。 「敵?なんだそれ。」 「だから、宮殿の手下かそうでないかって事。」 それを聞いて、なるほどと納得するシンイチ。そう、二人は王で、きっと今頃盛大な捜索をしている事だろう。自分も町を歩いていたときに、町中に声を響かせる警備隊長の声を耳にしているので知っている。 つまり、二人はシンイチが宮殿へ連絡をして連れ戻しはしないかと聞いているのだろう。 「別に。ここから連絡しようにも、時間かかるし、面倒だし、その間の時間があったら、お前等逃げられるだろ?」 そういわれて、当たり前と不敵な笑みを浮かべてしっかりと答える二人に、だから問題はないだろと言われ、ほっと一息。 「では改めまして。私は現在王でカイトの兄のキッドと申します。持つ遺伝子は白鳳です。以後お見知りおきを、シンイチ。」 と、紳士らしく振舞い、手を差し伸べてシンイチの手の甲にキスを送る。 シンイチは真っ赤になりながら何をするとばっと手を引っ込める。それを可愛いなと二人が見ている事など、本人は気付いていないだろう。 「俺はキッドの弟のカイト。いちよう黒狼だよ。よろしくね、シンイチ。」 そういって、カイトはシンイチの体に抱きついた。その拍子に二人とも転ぶ。キッドは慌ててシンイチの救出に向かう。 「まったく、カイトは・・・。もう少し考えなければいけませんよ。」 そう言いながら、抜け駆けは許しませんと目が言っている。 「ごめんごめん。シンイチもごめんね〜。」 そう言いながら、そういうキッドもだよと目が言っている。 二人は双子。思うところは同じ。お互いが目の前の相手を好きになった事ぐらい、お互いは話さずとも知っていた。 「ったく、今度から気をつけろよ。」 そういって、腰についた葉をはたいて落とすシンイチ。 「えっと、俺はシンイチな。ここの守り人で見ての通り、黒猫だ。」 お互い自己紹介をし、それぞれ握手を交わした。 「ねぇ、シンイチ。どうしてシンイチはここにいるの?」 「え?俺か?俺はここの守りだからなぁ。しょうがねーだろ?」 「そう言えば、家は何処なんですか?ご両親は?」 「どうしたんだ、急に?」 少し不振がりながら聞いてくるシンイチに二人は同時に、シンイチは俺(私)達の事知っていても、俺(私)はシンイチの事を知らないから。と同時に言う。 シンイチはそれを聞いて、なるほどと納得する反面、ここまで双子だと息ぴったりになるのかと妙なところを感心していた。 「両親は生まれたときからいねーな。何故か知らんが。俺はいちよう、この泉に住んでる。家はここだな。」 後何か聞くことあるのかと聞くシンイチ。久しぶりの訪問者という事もあって、そしてこの二人との会話はなんとなく楽しいと思えるシンイチは話に乗ってきた。 「じゃぁ、付き合っていたり、好きな人とかいる?」 「それはいねーな。ここは俺一人だし。」 「それでは、ここから離れるという事は出来るのですか?」 「出来るな。町へ出かける事があるしな。」 「なら、宮殿へは来た事ある?」 「そりゃ、な。あるよ。」 「じゃぁじゃぁ、俺達またここへ来ても良い?」 「いいんじゃねーの?荒らさなければ。」 そこまで聞いて、二人は同時に一番初めの疑問をシンイチに向けた。 「「始めからいたって言っていたけど(いましたけれど)、気配を感じなかったんだけど(ませんでしたが)。」」 それを聞いて、ああ、と先程の事を思いだすシンイチ。 「あれね。だってほら、ここは俺の領域だし、守るべき場所だろ?」 「そうですね。ここの守り人だといっていましたしね。」 「だろ?それで、ここには特殊な結界って奴があるわけ。ここを訪れたものを見定める為の結界。もし、邪な汚れた心を持つものがここへ訪れようとしても戻ってしまうという結界。」 ここまではわかると確認するのに二人は頷き、シンイチは話を続けた。 「ここは命の水と呼ばれる水の溜まった泉。いろんな人が病気や怪我を治すために、この水を求めてやって来る。もしそれが、邪悪な心を持つものが手にすれば、泉は汚れて力を失うんだ。だから、その結果が働いていて、俺は相手のぎりぎりまで結界の外にいる事ができるから、気付かないというわけ。わかったか?」 なんだかややこしいが納得できたとうなずく二人。 つまり、気付かなかったのではなく、気付く予知のない事だったのだ。シンイチはずっと、背後に立つまで結界の外にいたのだから、気付く以前の問題だったのだ。 そんな二人は、今思うと、秘密事項といわれる話を聞いてしまったのではないかと少し焦る。 だが、シンイチはあっけらかんと、王が帝国の中を知ろうとして問題はないと言われた。確かにそうだが、結界やそういった水の事は最大機密だと思われる。それも、最大の記憶力を誇るこの二人が知らない民衆。そう滅多にいないが、シンイチ程の相手ならば、記憶にあるはずだが、それがないことに悔しさを覚える。 どうしてもっと早く出会えなかったのだろうかという、周りが知れば情けない叫び。 そんな二人はそろそろ戻らなければいけない時間が迫っていた。 あまり長居をしては、宮殿の仕事が何も終わらないのだ。そう、ここに王が二人ともいて、警備隊長やメイドや使用人達が町を走り回っていて、宮殿内はすっきりとしている事だろう。 これだけの人数が出払っていれば、通常行われるはずの仕事が出来ているはずも無い。 哀しいが、お別れである。立ち上がるキッドとカイトはどうしたものかと考える。そして、ふと同じ考えにたどり着いた。 「シンイチ、宮殿に住むつもりはありませんか?」 「は?」 「そうだよ。俺、シンイチ以上に話相手になる人いないし、退屈なんだもん。」 「おい、それは仕えてくれる人達に失礼だろ。」 一向に引き下がるどころか食いついてくる二人に、シンイチはやれやれと承諾したのだった。 ここには結界があるし、下手な事で侵入される事はないのなら、少々離れていても問題はないと言う。何か問題があればすぐに補助するなど、王にお願いされて困り果てるシンイチ。 こんなので、この国は大丈夫なのだろうかという、心配でいっぱいだった。 そして、承諾してしまった事に、後悔するのはもう少し先の事。 「じゃぁ、決定。すぐ帰ろう!」 「早く戻って、シンイチの部屋の確保をしなければ。」 などと両サイドに立って、それぞれがシンイチの腕をしっかりと逃げられないようにつかみ、再び森ともいうような深いそして薄暗い木々の間を歩く三人。 もちろん、王宮へ戻れば怒られるたが、突然連れてきた客に誰もが驚いた。 それもそうだろう。三人は気付いていなかったが、似ていたのだ。その容姿や持つ気配が。 実は三つ子だったの?!と騒ぎになったが、二人がしっかりと説明し、部屋はもちろん、二人が共同で試用する事になっている主の部屋だ。 二人は何時までたっても今まで通り自分の部屋にいたが、彼を連れて来た日から、そっちへシンイチを含めて移動した。 ベッドはもちろんあるが、王は一人なので一つしかない。前代未聞の双子の王なのでそれが問題で入らなかったという事もあるのだが、ベッドは一人としてはかなり大きい。二人だとしても結構余裕はある。 二人は三人一緒でここで寝るつもりだった。 「お前等・・・。何考えてるんだ?」 「だって、一人より多い方が暖かいでしょ?」 「そうですよ。ここは一つしかありませんしね。広いですから問題はありませんよ。」 そういう二人は結構良い体格をしている。シンイチは確かに華奢で細いので、大丈夫だろう。だが、シンイチはその事をとても気にしていたので、ヤダと文句を言う。 だが、この二人に適う事はなく、流されるように今夜はここで仲良く三人で就寝した。 長い一日は終わったが、生憎、朝日は待つ事なく昇ってくる。 そしてこの日から王の脱走劇はなくなった。そう、使用人達を困らす脱走劇はなくなったのだ。 だが、毎日時間をつくっては部屋にいるシンイチに会いにいく二人の姿が見られるようになり、挙句の果てには、仕事を放り出してまで行くようになり、秘書を勤める寺井はほとほと困り果てたのだった。 相談するにも、先代は面白そうにしているだけで、話にはならない。 アカコもさすがにこの事を予測できなかった。まさか、こんな事になってしまうとは思わなかったからでもあった。 シホは毎日一向に気付いてもらえない事から愚痴を良いに来る二人に、いいかげん嫌気がさしていた。 何気に、シホとシンイチは知り合いだったが、ここでは誰にも言っていない。それは、二人の間で交わされた契約でもあったからだ。 はぁとシホとアカコは昼のお茶会をしながらため息をついた。 まだまだ、彼等の苦悩は続く。そして、シンイチの安らかなる日常は遠ざかっていく。 そしてさらに、二人の王の愛の囁きはどんどん加増していった。
おわり・・・? |