「いいかげんにしてくれないかしら?」

 

冷たく言っても、この二人にはまったく効果はない。

今では誰が見てもばかっぷるという二人。邪魔の出来るものはいない。

哀もまた、最近では快斗で遊ぶ事さえもできなくなって面白くはない。

まぁ、新一が幸せならいいのであるが・・・。

さすがに、目の前で繰り広げられては迷惑極まりない。

 

「あ、哀ちゃん?」

「灰原?」

 

同じ顔が同時に哀を見る。

どうしたのという感じだ。

まったくわかっていない無自覚な人達は気付かないようだ。

あれだけ、幸せオーラを発しているということに。

そして、それがかなり迷惑だということに。

今更言っても、どうにかなるものではないが・・・。

 

「何でもないわ。」

「そう?あ、珈琲入れようか?」

「そうね。」

「俺も。」

「はいはい。」

 

久々に朝食に呼ばれたかと思えば、こんなものを見せ付けられた。

だが、これがこの家では日常であった。

 

 

 


行くさきには、敵はなし

 


 

 

「学校行くのが辛いよぅ。」

「馬鹿言ってないで、さっさと行きなさい。」

新一は行ける時に行くという感覚だが、快斗はいつでも新一の側にいたいという思いから、違う学校と言うのが辛くてしょうがない。

どうして学校が違うのか。

転校しようと思ったりもしたが、まわりがうるさいのでやめた。

特に、あのうるさい奴がいるので、新一を見せるのは勿体無いと、聞かれることもないので隠しているわけではないのだが、友人というわけでもないので言っていない。

いつも、新一に会いたいがために学校へHRをさぼって走って帰る快斗。

頑張ってあいつも追いかけてくるが、快斗に適う筈もなく、途中でリタイアし、いつも最後を見届けられずにいた。

今日も、うるさいあいつはつっかかってきてうるさいが、早く終わって新一に会いたいと思っていた。

 


キーンコーンカーンコーン・・・

 


短いようで、快斗には新一に会うためにはばかる長い時間が終わり、担任が来る前に今日も片付けて出て行こうとする。

しっかりとあいつは自分を逃がさないと立ちふさがるが、邪魔されてはたまったものじゃない。

「悪いけど、お前なんか構ってる暇ないんだっ!」

どけっと、蹴り飛ばす。

だが、奴もなかなかしぶといようで、珍しく快斗が帰る前に担任がやってきた。

「ほら、座れ!黒羽。」

今日は逃がさないからなと、あいつと一緒に阻む。

まったく、むかつく。

ふてくされて席に座り、はやく行きたいという思いで、外を見ていた時。

「あっ!!」

突然声をあげて立ち上がる快斗に何事だと担任も驚く。あいつ・・・白馬もまた、何ですかと外を見る。

快斗はばいばいと、担任に告げて去っていった。早技というぐらい、行動がはやい。

と、こちらでは・・・。

「ど、どうして?!そ、そうですか。僕に会いに来てくれたのですねっ!」

と、この勘違い野郎も担任に急ぎますのでと一応断りを入れつつも、鞄を持って教室を後にした。

「な、なんなんだ?」

クラス全員と担任が外を見れば・・・。

なんと、門の前にはかの名探偵、工藤新一がいるではないかっ!

「ど、どうして?まさか、事件ですか?!」

ちょっとうろたえる担任。事件はないので安心してくださいと、もしここに新一がいればにっこりと笑顔で対応してノックアウトさせただろうが、生憎口を挟む物も新一も、そして問題児の快斗もいないので、ただ担任はそこで固まって立っているままだった。

さて、こちらでは。

「新一―っ!」

「快斗。そんなに走らなくてもいいぞ。」

「だって、新一が来るなんて思ってなかったし、会えてうれしかったし。」

八時間ぶりの新一だぁと、大げさに腕に張り付いて磨りついてくる快斗。

大きなこの犬はご主人様になつき、喜んでいる図だと、以前哀が言っていたような光景である。

「でも、どうしたの?」

「今日はな、呼び出しがあってさ。近くだったし、いつも来てくれるからさ。たまにはいいかと思って。」

快斗が思っている以上に、新一も快斗のために何かしたいと思っているので、遇にはということで今回のお迎えである。

それが、快斗にはとてもうれしくて、新一好き〜と飛びつかれた。

さすがに困る新一は抵抗するが、本気ではなく弱いのはわかっているので、痛いといいながらも、自然と笑みがこぼれる。

今日はいい日だと、快斗は思っていた。

あの声を聞くまでは。

「工藤君っ!」

「げっ、白馬っ!」

振り返り、白馬の姿を確認して、かなり嫌そうな顔をする快斗。

だが、それを気にせず新一の前に立って、勝手に挨拶して勝手にしゃべる白馬。

さすがに新一を独占したい新一に関しては心の狭い男はそれを許すはずもなく、それもこいつだったら余計にむかつくだけで、話を上手くそらしては自分に怒鳴る声を向けさせる。

「なんなんですか、黒羽君。僕は工藤君と話があるのです。」

「はぁ?お前なんかもったいないね。」

「では、今夜の予告、必ずあのキッドを捕まえてみせましょう。」

「で、俺にどうしろと?」

「そうすれば、君がキッドであると彼にもわかります。」

今は無理やり快斗にくっつかれているだけで、キッドだとわかれば、新一が抵抗して離れて自分のもとへくるという勝手な、それも突拍子もない妄想を抱える白馬は、高らかに笑い、今日は失礼しますと、ちょうどやってきた車に乗り込んで去っていった。

結局最後までむかつくやつだなとむくれている快斗は、ずっと放ったらかしにされて面白く思っていない新一の思いに気付いていなかった。

 

「あれ?どうしたの?」

車が完全に視界から消えた頃、帰ろうかと声をかけても反応がないので、おかしいなと顔を覗き込んだら、かなり不機嫌だと顔に書いた新一の顔がそこにあった。

「ど、どうしたの?」

何かしてせいまったのかと慌てる。やっぱり、白馬のせいだなとまた白馬の消えた道を睨んでいたら、いつのまにか隣にあった気配が離れていく。

「え、新一?あ、待ってよ〜。」

呼び止めようにも無理で、追いかけて腕を攫んだが、足はとまることはない。

さらにはやくなっているような気がするが・・・。

とにかく、今は白馬も仕事も気にする余裕はなく、新一のご機嫌取りで忙しくなる快斗だった。

 

 

 

 

家に帰ってきて、いつものように新一への薬を持ってきた哀は、ため息が出た。

「哀ちゃ〜ん。」

泣きそうになりながら訴えてくる快斗。

また何かをして怒らせたのかと思いきや、どうやら少し違うようだ。

「聞いてよ〜、新一が〜〜〜。」

無視して話を聞いてくれない〜と、嘆く。

どうやら、原因が彼には一切分からず、解決しようにもできずに困り果てていたらしい。

ここまで馬鹿がつくほど甘くなるまでは、確かによく喧嘩をしたりもしていたが、最近はめったにないために、忘れていたかもしれない。

まぁ、喧嘩をしても、隣にやってきてはいつの間にか惚気て帰っていくのが日常なので、今回は長引くのかしらと、少し心配をする。

何より、今夜はこの男の仕事の日だ。このままでは行くとは言わないだろう。

その前に、彼をどうにかしないといけないようだ。

「それにしても、どうしてそんなことになったのかしら?」

「えっとね・・・。」

今日は新一が事件で迎えに来てくれたことのことを話した。

めったにないことでうれしかったが、あとで呼び出した刑事にはしっかりと言っておこうと思いつつ・・・。それには哀も同感だったので、心強いのだが・・・。

「そのあと、白馬が来てさ・・・。」

新一に近寄らないようにガードしつつ、追い払おうと頑張ってたのだとその時のことをご丁寧に口調や声を変えて一人芝居をしてくれた。

「そう。・・・貴方が悪いわ。」

「えっ?!ど、どうして???」

哀にはわかったことが、まだこのお馬鹿にはわからないようだ。

「一人放っておかれて、寂しいんでしょ。私に構ってる暇があるのなら、仕事までにご機嫌とりでもしてなさい。」

付き合って最後に惚気られるのはごめんよと、目的だった書庫へと向かう。

「じゃぁ、新一はやきもち?」

やっと、わかったようだ。

それと同時に、うれしくて顔が綻んで歪む。

「新一〜。ごめんね〜。」

でも、うれしい快斗は満面の笑みで新一の背後から抱きついて擦り寄ってくる。

さすがにご機嫌斜めであった新一も、不機嫌の理由を知られてしまったことで顔を紅くしていたが、快斗の頭をぽんぽんとして結局甘い二人に戻った。

 

 

 

 

さて。快斗の夜の仕事、怪盗が闇夜を舞う時間がやってきた。

「気をつけろよ?」

今日も、途中立ち寄るであろうビルの屋上で待つつもりの新一は、心配そうに快斗に声をかける。

「大丈夫ですよ、新一。今夜も冷えますので、暖かい格好で来て下さいね。」

「おう、わかってる。」

すでにキッドとなった快斗がそれではと、窓から夜の闇へと出て行く。

「快斗・・・。」

いつも、この時間は心配でしょうがない。

その時だった。

携帯の着信音が聞こえてくる。

誰だろうと思えば、相手は白馬であった。

少し顔を歪めて不機嫌になる新一だが、電話に出る事にする。

この時間だと、彼はキッドの現場だ。もしかしたらあの中森警部が何かあるのかもしれない。

「はい、工藤です。」

『こんばんは、工藤君。白馬です。』

「で、何の用だ?」

「これから、こちらへ来てもらえないかと思いましてね。」

新一を呼び出し、彼と一緒に彼の目の前であの怪盗を捕獲し、快斗だということを証明し、快斗の側から引き離そうという魂胆である。

だが、何か企みがあるのではと感じ取った新一は白馬の思いなど気付くはずもなく、心配になって、ただ行くと一言言って切った。

行く場所は決まっている。キッドの今回の獲物がある美術館。

「快斗に手出しはさせねーぞ。」

快斗が好きな新一は、白馬は快斗が好きなのだと昼間の一件で誤解していた。

あれだけ仲良く喧嘩をしていたのだ、間違いないととんでもないことに考えが行き着いていたのだ。

だから、昼間は快斗が白馬の側がいいのならと、むかつきながらもその場から離れようとした。

見ていられなかった事もあるし、快斗をそこまで束縛したくはないと思ったから。

彼に学校生活での友人や日常があるように、自分にもある。

快斗は人気者だから、白馬みたいな友達だってたくさんいるだろう。

そこまで自分が手を出して束縛できる権利などない。

だが、大好きな快斗に手を出されるのなら容赦しない。

「よしっ。」

お隣さんに電話をして、来てくれるように頼んだ。

また、恋愛音痴な新一が誤解して動き出したのねと、哀は呆れながらも、彼等の邪魔をするものを排除しようと用意を始めた。

「今夜はいきのいい実験体がもらえるかもね・・・。」

ちょうど、作り上げた薬品が数点ある。

「さて。ご機嫌を損ねる前に行きましょうか。」

玄関で待っているだろう新一。

あければやはりそこには新一が立っていた。

「行きましょ。」

「ああ。」

快斗に手出しはさせないと言っている事から、なんとなく状況はわかったが・・・。

「相当な恋愛音痴よね・・・。」

あの怪盗も多少は苦労していた記憶がある。

だが、新一自身が怪盗にいい方向の思いを持っていたので、頑張った怪盗は新一の心を手に入れたのだろうが。

「ま、いいわ。彼の気が済むのならね。」

そして、自分の実験に使える実験体が手に入るのなら。

夜道を歩く兄妹にも見えなくない二人が現場へと向かうのだった。

 

 

 

 

さて、そんなことはしらない怪盗キッドはというと、警備のチェックと敵方の動きに気を張っていた。

「今夜お呼びするのはやめておいた方が良かったかもしれませんね・・・。」

迷惑なお客さんが今夜現れる可能性がある。

新一を巻き込むのはあまり自分としてはよろしくなく、どうしようかと考える。

「でも、黙ってても怒るしばれるし・・・。」

本当にどうしようと悩んでいた。

 

同時刻、現場では白馬は新一を待ちながら、中森と警備に対して対立していた。

「子供は黙っておれっ!」

「ですから、私はキッド捕獲の為にっ!」

ギャースカと言い争う警部と探偵。

部下達は呆れてため息ばかり。こんな調子では今回も駄目かなと思ったときだった。

「こんばんは。」

突如まじる声の主へと皆が一斉に気を向ける。

そこにたっていたのは、にっこりと笑顔で、近くに来たので見学させてもらえませんか?というあの名探偵の姿があった。

「よく来てくれました、工藤君。」

近寄ろうとしたが、新一の側にいる哀の存在を見て、どうしてという顔になっていた。

「工藤君。いったい、どうしたんだい?」

今日は来ないと思っていた中森は驚いた。

彼は忙しく、なかなかこちらには来ない探偵で、探偵嫌いの中森が唯一認めた探偵でもある。

それは、隣に住む快斗に似ていることと彼が今一緒に住んでいるということで、自然と息子が一人増えたような感覚になっていることと、礼儀をわきまえて好感がもてたことなど、様々な要因がある。

「今夜、どうも可笑しな動きがあるものですから。」

その言葉に白馬はどきりと見抜かれていたとはと驚くが、中森は眉をひそめてどういうことだとつぶやく。

「彼女、いつも代わりにいろいろ調べていてくれるのですが、今晩歩いていた時にちょうど不穏な動きをする連中の情報が入りましてね・・・。」

そう、現場に向かう際に哀が念のために調べた結果、どうやらキッドの敵方に動きが見られたのだ。

短時間でやってのけるところがさすがというが、今はそれでころではない中森は詳しく話を聞きたがる。

「キッドを目ざわりと思う裏組織の連中が、彼の命を奪おうと今夜動く可能性があります。」

「それはいかんな。」

長年追い続けて、ライバルのような相手をそんな者達にみすみす殺させるつもりなどない。

「ですので、数名の中森警部の部下をこちらとこちらに配置していただけないでしょうか?」

すぐさま警備体制を確認して安全の為に死角になるようにと同時に、キッドも簡単に侵入できないようにといくつかの箇所を頼む。

「うむ。わかった。おい、C班とD班からそれぞれ五名ずつ、こことここに回るように言え。」

動いてくれた中森にお礼を言う。

「いや。構わんよ。」

「それで、もしもの場合、しばらくの間は見て見ぬふりをしていただけませんか?」

「ん?よくわからんが、見て見ぬふりをしていたらいいのだな。」

「はい。」

「わかった。」

その間、話に参加させてもらえず、新一と親睦を深めるという計画が台無しになった白馬は、必ずキッドを捕獲しますと決意を新たにする。

その様子を冷たい目で見ている哀。

「・・・相当なお馬鹿さんね・・・。」

活きは良さそうだと、今晩が楽しみだわと自然と笑みになる哀。

きっと、今の彼女を見ていたら、白馬はしばらく動けずにいたことだろう。

現に、目撃してしまった数名の刑事が恐怖のあまり、金縛りにあったかのように動けなくなったのだから。

 

さて、舞台は整った。

 

「久々に、ゲームをしようか、怪盗君。」

 

少し楽しそうな新一の姿を見て、楽しそうなら今日ぐらい夜更かしもいいかもねと考える。

自分も、きっと夜更かしをするだろうから。

 

 

 

 

 

時間を告げる鐘が鳴り響く。

そして、白い煙が巻き上がる。特殊な薬の混じったそれ。

だが、毎度のことなのでさすがの白馬も中森もひっからない。もちろん、新一も。

「こんばんは、警部、そして愚かな探偵君。そしれ、ようこそ、我舞台へ・・・名探偵殿?」

相変わらず無駄に気障な仕草と口調で現れる怪盗。

口元に見える笑みが、嘲笑っているようである。

だが、実際はそれよりも新一が目の前にいることで興奮を覚え、うれしいからなのであるが・・・。

「悪いですが、私もはやく帰りたいので、これはいただいていきますね?」

と、手に持つそれをちらりと見せた。それは、今夜のキッドの獲物だった。

「いつの間に?!しかし、逃しはしませんっ!」

中森と白馬が走り出そうとする中、キッドと新一はある気配に気付き、構える。

キッドなんて、これから逃げればいいというのに、新一に向けられたその気を感じて、わざわざ新一の前に降り立ったのだった。

「こんなところにまで、足を踏み入れるとは・・・。」

せっかくの舞台が台無しですねと、トランプ銃を取り出すキッド。

「確かになぁ・・・。一般人がいることを考えてほしいね。」

と、こちらは本物の銃を取り出した。自分が一般人であると言うが、一般人ではないような感覚と技術を持ってまだ一般人だというところが少しずれているなぁとのん気に思ってしまうキッド。

だが、ソレを見て慌てる中森は、新一を止めようとしたが、突然打ち込まれた銃弾に、それどころではなくなった。

「なんだと?!」

自分が気付かないそれに二人は気付いていた。

「まさか、これが見逃せと言う・・・?」

まぁ、その通りだね。銃刀法違反を少しばかり目を瞑って下さいということで。

「大人しく帰ってくれるとありがたいが・・・。」

「無理でしょうね。相手方はしつこいですから。」

キッドは自ら囮となり、新一は警部達を守るように障害物を壊したり、銃弾を避ける為に物を崩して壁を造ったりして、回避し続けた。

その姿はまさに戦いの女神のようで、白馬は見とれていた。

その瞬間に隙が生まれ、狙われる羽目になる。

「くそっ・・・。」

「任せて頂戴。」

新一ほど実力があるわけではないが、白馬の前にこの薬品の幕を作れば・・・この通り、全て融けて何もなくなる。

「サンキュ。」

「気にしないで。」

さすがに、狙われた事と、新一が連れていた少女にこんな事が出来るなんてと、今更死という恐怖で腰を抜かした白馬。

「工藤君っ。」

「たぶん、もう少ししたら応援が来ると思います。それまでは、相手に姿を見られないよう、隠れていて下さい。」

こんなことになっても相手への配慮も忘れず、そして苦痛など見せない。

「おい、キッド。お前が道案内してやれ。その白だったら目立つだろっ!」

「そうですね。では、こちらのことはお任せしますね、我愛しの名探偵殿。」

「うるせぇ。そんなこと言ってる前に行け!」

結構、仲がよく見える二人。

だが、今の事は全て見て見ぬふりだと、中森は自分に言い聞かせた。

それと同時に、納得できたこともあった。

彼が、影で内密に数名である裏組織を壊滅に追いやったと言う事実。

信じられなかったが、これだけの技術と能力と判断力があれば、間違いないかもしれない。

少しずつ、遠くで聞こえるサイレンの音が近づいてくる事に中森は気付いた。

新一が怪我をする前にと、本気で心配するお父さんの顔になった中森は願った。

 

 

 

 

 

本命は逃したが、下っ端は数名捕らえられた。

「まったく、無茶をして。優作君何と言われるか。」

「すいません。」

キッドは取り逃したが、新たにわかった事実によってこれからの警察の警備の仕方が変わった。

だが、これで少しでもキッドが安全に仕事が出来ると、新一は内心喜んでいた。

自分のできる限りのことをして、守られた分守りたいとも思っていたから。

「では、今日は帰ります。」

「ああ、すまなかったね。今日はゆっくり休んでくれ。」

馴染みの警部に頭を下げて帰ろうとし、玄関を出てみれば、そこには待っていてくれた恋人がいた。

そして、今晩夕食を一緒にどうかねと中森の姿もあった。

「あまり嫌だけど、母さんも新一に会いたいって言うし。」

「ああ、そうだな。今晩は家に居ないほうが、あいつも俺達に気にせずにやれるだろうしな。」

それはもちろん、実験のことである。

実はあのあと、腰を抜かした白馬に麻酔針で眠らし、刑事達が走り回る中、変装した快斗が現れて運んでくれたのだ。お隣の地下室へ。

誰にも気付かれていなかったので、ある意味完全犯罪かもしれない。

そして、その後は二人で甘い夜を過ごしたのである。

だが、関係者とあっては一応呼ばれるので、少し辛かったが起きてやってきて、現在にいたるのであった。

「じゃぁ、行こ。あとね、警部がお礼いいたいってさ。」

助けてくれたことと、ライバルであるキッドのことについて少し分かった事。

「別にいいのに。」

「そういう人だし、それに、新一のことは気にいっているみたいだしね。」

中森の車で家まで行く。工藤邸ではなく、中森家へ。

行けば、家族というものがそこにある。

父親の死で辛い境遇にあった快斗を支えてくれた幼馴染のこの夫婦。

本当にいい人達ばかりだ。

「新一君っ、久しぶりだねっ。」

出迎えてくれた青子。嫌そうな顔をしながらも、幼馴染には顔があがらない快斗。

ちょっとうらやましいが、快斗の違う面が見れて嬉しく思えた。

 

 

久々に大人数で囲う食事。それはとてもあたたかいものだった。

 

 

 


その頃

「お邪魔しているみたいね・・・。」

一向に人が帰る気配もないお隣を見て、休憩のために入れた珈琲を口にする。

「だいたい。あのばかぷるの行くさきにある障害なんて、全部蹴散らしてしまう実力の持ち主なのだからね。」

わかったかしらと、現在意識のない当て馬に声をかける。

かなり恐怖に顔を引き攣らせていたが、哀以外いないこの場所で、助けなど来るはずもなかった。






     あとがき

 青風樹希sama、前回の続きということでしたので、出来上がったのでお届けに参りました。
 前回より甘さよりも探偵と怪盗度が増えていまして、どうかとドキドキものです。
 こんなのでよろしかったら、どうぞお受け取り下さいませ。



   戻る