かつて、人の気配もなく、子供達からお化け屋敷と言われていた家は現在、手入れされて人の気配がするようになった。 そこに住んでいるのは一応家主の工藤新一と、彼の恋人の座を見事勝ち取り、同居中の黒羽快斗である。 そんな彼等を見守るのは、新一の主治医をしているお隣の少女である。 今日も、彼女曰くばかっぷるの二人はいちゃいちゃと見せ付けてくれるのだった。
向かうところ、敵はなし
一緒に同じ部屋の同じベッドですやすやと寝ている二人。 突如、安眠を妨害するかのように朝のはやくから鳴り響く携帯の音。 「・・・う〜。」 せっかく気持ちよく寝ていたというのに、一体誰だと、携帯をつかむ。 まだ寝ぼけている新一の側では、すっかりと目を覚まして、携帯の主に怒りを覚えている快斗がいた。 ボタンを押して誰だと思えば。 「おー、工藤。」 「・・・。」 うるさい声が聞こえてきた。 声が大きいので、携帯から洩れ、快斗にも聞こえてきた。 「・・・西の探偵君ですか・・・。」 何故か、口調が変わっている。 「・・・なんだよ。」 「あ、もしかしてまだ寝とったんか?」 「・・・用がねーんなら切るぞ。」 眠いんだと文句を言って切ろうとしたら、相手は慌てて引き止める。 「あんな、そっちに行く用事があってな、いる間泊めてもらおう思てな。」 また、突然かと思えば、珍しく連絡をくれた。なので、いつだよと言えば、とんでもない事を言ってくれた。 「今日や今日。今な、家に向かっとるところやねん。お、もう家が見えてきたわ。」 玄関で迎えてくれなと、勝手に言って切った。 「・・・当日に電話してきやがって。」 迎えてやる気はないらしく、もういいと、再び夢の世界へと向かう。 そんなおねむな新一に苦笑しながらも、可愛いなと思ってちょっかいをかけたくなる。 そこへ、二人の邪魔をするチャイムが鳴った。 最初は無視しているつもりだったが、諦める事なく鳴り響く。 奴も、新一の朝が弱いことを知っている。だから、また寝たのだろうと思い、いることはわかっているので鳴らし続けているのだろう。 本当に、迷惑だ。新一もかなり嫌そうな顔をしている。 せっかく快斗と一緒にいる時間を壊されたのだから無理もない。 そんな事を言葉にするつもりはないが。 とにかくうるさいので、どうしようかと思ったとき、快斗がとりあえず出迎えてくると言って、さっさと部屋から出て行った。 一緒にいたいと思うのに。 照れ屋でなかなか言葉や態度にして言わないし出さない新一だが、快斗の事が本当に好きで、一緒にいられる時間を何よりも好きなので、かなり不機嫌である。 しかも、泊まるのだという。いつものように、連絡をくれても当日でないのと代わりがない状態。 今回ばかりは許すまじ。と、意気込む。 晴れて恋人同士になってから数週間。その間は邪魔するものはなく平和だった。 さて、どうしたものか。 まずはお隣の少女と連絡を取るのが一番だと判断。 さっそく携帯を使い、お隣に連絡を取った。 いろいろいいながらも、きっと彼女は手を貸してくれる。 二人の幸せを見守るのが今の幸せだから。そんな事を新一が知る由もないが。
玄関を開けて、いきなり笑顔で入ろうとした男に驚いていると、お前誰やと、かなり失礼な事をいってのける。 「工藤はどうしたん?あ、まだ寝とんのか?」 「ああ、寝てるよ。朝のはやくから起こしてくれて、迷惑だね。」 「そういうお前こそどうないやねん。こんな朝はやくからいよってからに。」 「何言ってるわけ?俺はここに住んでるの。」 さよけと言おうとして、詰まる。今、なんといった、この男は。住んでいるとは、ここにだろうか。 「な、なんやと。嘘はあかんで。俺はそんなん知らんで?」 それより、工藤を出してなと催促する。こんな男と話をするよりもいいと判断したのだが。 背後に人の気配を感じて振り返ると、朝からうるさくされて怒っているお隣の少女、灰原哀の姿があった。 ちょうど、新一から連絡もあり、やってきたのだ。 「あ、嬢ちゃん。」 「哀ちゃん。おはよ。」 「おはよう、黒羽君。それと、朝から何をさわいでいるのかしら、貴方は。」 哀が知っている事から、ここにいて不思議ではない人物なのだろうが、納得できない。 せっかく、今日から数日の間新一と二人きりで過ごそうという計画が台無しだ。 「それで。工藤君はまだ部屋かしら?」 「たぶんね。きっと、また寝ちゃってるんじゃない?」 「そうね。」 電話があったあと、まだ眠そうだったので寝ていてもおかしくはない。 起こしてくるわと、中に入っていく。 快斗はどうしようかと迷ったが、哀が来たし、これ以上は近所迷惑なので、一応中に入れる事にした。 快斗を睨みつけているのだろうが、生憎快斗はそんなもので動じはしない。 もっと恐ろしい殺気を感じた時もあるし、何よりお隣の少女の鋭く冷たい視線と戦ってきたのだから、可愛いものだ。 それに、本気で怒った時の新一はさらに恐ろしい。哀以上に違和感のある恐ろしい笑顔で、かなり恐ろしい仕返しをされるのだから。 とくに、さのつく海や川の生物を使った、口に出すのも恐ろしいあれを乗り越えたのだから、怖くはない。 一応客だが、迷惑な客にはもてなしをするのは嫌だなぁと思いながら、適当にあったインスタントの珈琲を入れて出してやった。 相変わらず睨んでくるが、笑顔で顔を作って無視してやる。 そこへ、まだ寝ぼけながらもやってきた新一。話しかけようとしたが、その前に自分が新一の側に言って抱きしめてやった。 見せびらかすのもいいかもしれないと思ったから。 それに、朝は甘えん坊になる新一だ。この時間がつぶれるのは勿体無い。 「おはよう、新一。」 「はよ、快斗。」 ぎゅっと、自分から抱きつく新一。ほえ〜っとしていて、とても可愛い。 うらやましいと思う以上に、そんな新一の姿を見てわかりにくいが顔を真っ赤にして見入っている。 いいだろうと少しそちら側を見て、見下してやれば、気付いたのか、かなりぎんっと睨んできた。 あー、怖い怖い。だけど、面白い。 このまま見せびらかすのもいいかもしれない。主張できる事だし。 「いつまでもべたべたしてないで。さっさと朝食作って食べなさい。」 「あ、そうだね。」 今から作らないといけない。新一を椅子に座らせて、いそいそとキッチンへと行った。 しっかりと、新一のガードを哀に頼んであるので、まぁ、心配はないだろう。
まだ眠そうな新一に顔を洗ってきなさいといい、わかったとふらふらしながら洗面台へと向かう新一。 「それで。こんなに朝早くから何のようだったのかしら?」 「あ、嬢ちゃん?」 なんだか機嫌が悪いのは気のせいだろうかと、哀の恐ろしさを知っているのであろう迷惑な客、服部平次はおろおろしながら聞き返す。 「私ね、昨晩からある事件をしていてね、やっと出来上がったの。そこへ、うるさい貴方が来たわけだけど・・・。」 なんとなく、わかったが、口には出さなかった。 「はやく答えて頂戴。何の用で来たの?」 いいかげん、前に連絡してくれてもいいんじゃないの?常識でしょと、ずばずばと言い続ける。 「あ、えっと。」 「さっさと言いなさい。待つのも疲れるのよ。」 「用事があって、こっちに来たんや。それで、こっちにおる間、工藤家に泊まらせてもらおう思て来たんや。」 「なら、先に連絡を入れてくれてもいいでしょう?」 「連絡やったらしたで?」 「家に来る直前にもらっても迷惑なのよ。」 先に言われてびくりと、怯えている。過去にそうとうな仕打ちにあったのだろうなと想像する。 新一のためなら、彼女は容赦しないから。それはきっと、自分にも言えるのだが。 注意して気をつけないといけないなと、気を引き締める。 「あとで、少し付き合ってもらうわよ。」 その言葉に、顔が恐怖で引き攣っている服部の姿を目撃した快斗。 ちょうど、新一も洗面台から戻ってきたところだった。
目の前で散々見せびらかすように朝食を取った三人。 哀の分はいるだろうと、快斗が用意したが、服部の分の朝食を用意するほど快斗はお人よしではない。 突然来たのだから、当然だ。迷惑な客にはもてなす必要はないと、新一もいっていたのだから。 「はい、新一。」 どうぞとカップを渡す。新一の大好きな珈琲だ。服部に出したようなインスタントではない。 もちろん、哀にもだす。だが、服部に二杯目を出すのは勿体無いので出さなかった。 「なぁ、工藤。」 「・・・なんだよ。」 ぶっすーっと不機嫌な顔丸出しで答えるが、まったく気付いていない服部は続ける。 恋は盲目なのか、新一に関してはあまりわからないようだ。 「こいつ、なんなんや?」 知らないうちに増えた同居人。いったい何者だと問うと、快斗だと答える。 服部が聞きたいことはそれではない。 「見てわらわからないなんて、探偵としての腕も目も落ちたんじゃない?」 どこをどう見ても、誰が見ても、立派ならぶらぶの恋人同士じゃないと、ずばずばと、出来れば聞きたくなかった真実を教えてやった。 その言葉に苦笑する快斗と照れて顔を紅くする新一の姿があったが、服部は見えていない。 「そ、そんなこと、わいは知らんで?!」 新一の一番の親友の自分が知らないわけがないと、勝手に騒ぐ。 新一にとっては、服部はただの知り合いで、親友と呼べるものではない。 第一に、事前連絡をしないのでどちらかというと迷惑な客としか認識がない。 最初はそこまでひどくなかったのだが、勘違いも甚だしく、次第に服部への評価が下がっていったのだった。 そんなことをまったくわかっていない服部。 自分で自分の首を絞めているというのに。 「ってことだから、服部君。悪いけれど、新一はやれないから。」 ぎゅっと新一を懐に抱いて、頬にちゅっとキスをする。 突然の事で新一も固まっていたが、快斗がすることなので大人しくしている。それに、快斗の腕の中にいるのは温かくて好きだから、文句はない。 その反面、服部は目の前で新一にキスをする快斗を見て、羨ましい反面、恋敵だと認識。 恋敵以前の問題だというのだが。 「もう、いい加減にわかってくれてもいいのだけれど。」 ちらりと時計を見る。ちょうど、いい時間ねと、つぶやく哀。 何か言おうとした服部だが、突如眠気に襲われた。 前回同様にお約束な展開。学習能力はないのかもしれない。 ばたりと、倒れた服部。だが、三人は気にしない。 「悪いけど、隣まで運んでくれないかしら?」 「いいよ〜。だから、ちょっと待っててね、新一。」 ちゅっと今度は額にキスをして、服部を担いだ。 快斗を取られた気分だが、戻ってきてくれるのならいい。それに、うるさいのが出て行ってくれるのならそれでいい。 そして、半日を快斗と一緒にのんびり過ごすんだと決める。 そんな快斗が喜ぶような事を考えていたなんて、いない快斗は気づく事はない。
地下室でちょうど出来上がった薬品で実験をする。 実験台の服部を見て、不気味に微笑む。 もし、意識があれば恐怖ながらも逃げ出していただろう。身の保障がないと。 「まったく、何度も何度も同じようなことをして。」 あれはくっつく前からバカップルといっても可笑しくないほどの、周りがみえなくなるらぶらぶぶりだ。 それを邪魔できる物なんていない。あるとすれば本と事件と仕事だ。 「この私でさえ、無理なんだから。貴方なんかが無理に決まっているでしょうに。」 二人がくっついていれば最強なばかっぷる。 敵なんてものはない。敵なんて蹴散らしてしまうだろう。 「さて。そろそろはじめようかしら。」 今日はいい日になりそうだわと、微笑む哀。
「快斗〜。」 べた〜っと、くっつく新一。 珍しいなぁと思いながら、それを幸せに感じている快斗。 「昼食どうしようか。」 「買い物に行く?」 「そうだね。何が食べたい?」 「さ・・・。」 「それ以外ね。」 ちょっと意地悪のつもりだったが、即座に口を塞がれた。 「じゃぁ、何でもいい。」 「行ってから考えようか。」 「そだな。」 町を歩きながら、バカップル振りを見せつつ、今日も彼等の時間は流れる。
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